メディアの話その99 ダサいデザインと「サザエさんマーケティングの罠」。


「サザエさんマーケティングの罠」というのがある。


この話は16号線の話同様、二十数年ずーと語っているので、私の周囲の人たちは「まだおんなじこと言ってるのか」と苦笑するはずである。


サザエさんマーケティングの罠の答えは公式ページに書いてある。

それは登場人物の年齢だ。
波平54歳 フネ50ん歳 マスオ28歳 サザエ24歳。

現代において波平とフネの「見た目」は70代どころか80代後半か90代である。マスオとサザエは30代どころか40代である、いや50代、もしかすると60代かもしれない。

なぜそう思うか。それはサザエさんがはじまったのが1940年代の終戦直後。そしてアニメが1960年代だから、である。
当時の平均寿命は60代である。定年退職は55歳である。
波平はあと1年で定年で、あと10年もしないうちに死んでもおかしくないわけである。つまり「ほぼ老人」なのだ。
マスオとサザエはこのあともう2人子供をつくるはずである。
大人の個人消費者が存在しない世界なのだ。少なくとも結婚して子供ができたら個人消費とは無縁になる世界。
そんな60年代の家族イメージが固定され続けているのがサザエさんなのだ。


いまや54歳は香川照之でギラギラの大和田常務である。フネは森高千里と同世代である。サザエさんの同級生は池田エライザだ。そして、私たちの年齢実感は、このタレントの年齢のほうにもちろん近い。


だから、消費者としての私たちは、サザエさんの世界の設定年齢を改めて見て、ぎょっとしたり、時代の変化を感じるわけである。


ところが、奇妙なことに、企業に属して生産者側でマーケティングすると、このサザエさんの世界観でいまだにマーケティングをしてしまう会社がいっぱいある。

たとえば、トヨタの新型「MIRAI」のデザインをみると、日本は「サザエさんマーケティングの罠」から過去60年抜け出られていないことがつくづくわかる。


21世紀に入って20年、ビジネス書はずーっと「見た目」と「デザイン」と「アート」が大切でベストセラーを作り続けている。今年もそうだった。

逆に言えば、この20年、日本企業は見た目もデザインのアートも織り込まないといけないけど、おり込めていなかった、ということになる。


その証明が、日本最大の企業の未来をつくる車の「見た目」。
対照的なのが、株価だけでいうと抜かれちゃったテスラの一連の「見た目」。Eトラックのデザインは、日本メーカーからはまず出てこないだろう。
テスラとアップルに共通するのは「見た目」戦略にブレがないところ。


なぜ、日本企業にできないか?
日本人にできないのではない。日本企業の大半にできない、というのがポイントである。アウディ、フェラーリ、BMWのいまのデザインをつくったのは日本人である。日本人建築家も世界的に活躍している。
ちなみに、マツダのように、バルミューダのように、見事に見てくれ戦略を成功させている少数派もいる。
じゃあ、なぜできないか。


それは「サザエさんマーケティングの罠」にからめとられてしまうからだ。
トヨタの、未来感ゼロのMIRAIのデザイン、モデル末期の数十年前のカムリみたいな見てくれは、まさにそんな「サザエさんマーケティングの罠」が企業の意思決定層の中に病巣としてすくっている証拠である。

トップがいくらCARガイであろうと、消費者じゃなくて生産者になると、突如として60年前の家族構成や生活年齢をイメージして商品のデザインやインターフェイスをつくってしまう。


それが、日本企業に巣喰い続ける戦後から高度成長期に固定化された「サザエさん」的消費者イメージの罠、なのだ。


で、サザエさんなきアメリカから、アップルが見てくれナンバーワン商品を出し続け、景粒のようだったテスラが見てくれで未来を演出し、トヨタを時価総額で抜いてしまう。

ちなみに、日本人のデザイン力はすさまじい。漫画やアニメをみればわかる。個々のプロダクトデザイナーや建築家は世界で活躍しているひとがたくさんいる。ご存知の通り、アウディもBMWもフェラーリも、21世紀は日本人がデザインしている。
つまり、日本人の能力の問題ではなく、「日本企業」が「サザエさんマーケティング」に絡み取られてしまう問題なのだ。


ここを解決できないから、皮肉にも出版社は、見た目とデザインとアートのビジネス書で儲け続けることができるわけである。課題解決は、むしろその手前、企業の「サザエさんマーケティング」的世界観の完全破壊しかない。

それは、いわゆるデザインマネジメントをすればいい、という話か。違う。その手前を根本的に変えない限り、デザインマネジメントの同様はすべて小手先に終わる。

じゃあ、どうすればいい。ヒントのひとつは、この10年のマツダの戦略にお手本がある。続きはまた別に機会に。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?