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かしながホイホイによる生き物殺戮を新宿区とおとめやま公園がとめてくれた話。

2024年6月30日、新宿区立おとめやま公園で遭遇したナラ枯れ対策のカシノナガキクイムシ防虫シート、アース製薬製の「かしながホイホイ」の問題と、新宿区とおとめやま公園のとても柔軟でスピーディな対応について、記録を残しておく。

おとめやま公園は、定期的に生き物の様子を覗きに行く都心の小規模緑地。
新宿区が管理している。


ここは妙正寺川=神田川に注ぐ小流域源流部の、江戸時代は幕府の「おとめ林」があったところ。明治以降はお金持ちのお屋敷となり、戦後は公園となった。

いまでも湧水が湧き、カワニナが生息し、斜面にはさまざまな樹木が繁げり、まさに武蔵野の自然が封じ込められた見事な緑地である。都心屈指の生物多様性に恵まれた場所と言っても過言ではない。

ただし、数年前から、この地でも「ナラ枯れ」問題が起きていた。樹齢70〜100年の、クヌギやコナラの巨木が、次々とカシノナガキクイムシに穿孔され、いくつかの巨木が伐採された。樹齢100年を超えるいちばん樹液の出ていたクヌギを筆頭に、クヌギだけで記憶に残っているだけで3本、コナラが3本、イヌシデが1本、伐採されている。数はもっと多いかもしれない。

いまも枯死した巨大なコナラが1本残っている。おそらく年内には伐採されるだろう。

しばらくは、ペットボトルをつかったカシノナガキクイムシ調査が行われていた。
現在、この甲虫が媒介するナラ菌によって、全国的に「ナラ枯れ」が起きている。

ナラ枯れは樹齢50年以上の老木がかかりやすい。
なので、古い木が残っている明治神宮などでもたくさんのナラ枯れの木があった。
基本はブナ科の木がやられる。コナラ、クヌギ、シラカシ、マテバシイなどだ。

こちらのキクイムシの潜入を防ぐため、ビニールシートを木に巻いたり、かつての簀巻きのような形で紙を巻いたり、ペットボトル型の容器で捕まえたり、というのはすでに長年行われていた。

この公園でも、である。

ただ、今年巻かれているのは、今までと違う商品。
アース製薬の「かしながホイホイ」と銘打ってある。
なんだろう?

アース製薬の「かしながホイホイ」という粘着シートが、コナラやクヌギの巨木を中心に10本以上に巻きつけられていたのである。


https://corp.earth.jp/.../collab.../pdf/kashinaga-hoihoi.pdf


で、これがとんでもない代物だった。

すごくざっくりいうとゴキブリホイホイの粘着シートをそのまま木に巻きつけた製品なのだ。

つまり、粘着シートでキクイムシをとる、という製品なのだが、つかまるのは数ミリの小型のキクイムシだけではない。

ゴキブリホイホイ同様、すさまじい粘着力なのである。

ひとつの木にまかれたかしながホイホイに、何匹ものヤモリやカナヘビ、ニホントカゲが粘着シートに張り付き、もがいている。



すでに干からびて死んでいるものもいる。




カナブンが、大量にくっついている。スズメバチやアシナガバチがもがいている。クワガタの羽が張り付いている。

とりあえず、ヤモリ4匹、カナヘビ1匹救出。

実際にやってみたが
ものすごくとりにくい。

凄まじい粘着力である。

丁寧にやらないとヤモリの腕がもげてしまう。

子供の髪の毛がくっついたら切らないといけないだろう。

小動物が自力で脱出するのはまず不可能である。

このかしながホイホイによるナラ枯れ対策で、全国各地で関係ない大量の生き物が死んでいる可能性がある。

というか死んでいる。目の前で見た。

子供たちが騒いでる。

おとめやま公園には、樹齢70年以上のコナラやクヌギ、シラカシ、スダジイが多数生えており、夏は昆虫少年たちが集まってくる。

「何してるの?」
「トカゲ助けてる!」
いくつかのシートが剥がされていた。
それを見ると、大量の生き物がついている。
キクイムシはほとんどついてない。

目立つのは、爬虫類だ。

中でもヤモリが大量についている。木の裏に潜む性質があるから、シートを巻いたら必ずその隙間にはいる。

結果、大量死。

子供たちが教えてくれた木に巻かれている50センチほどの長さのシートには3ひきのヤモリが張り付いていた。

うち1ひきはすでに干からびており、もう1匹は瀕死。あと1匹は張り付いたばかりのようでもがいてる。



「ヤモリ助けようとするんだけど、弱くって手が取れちゃいそうで」
「とりあえずニホントカゲ助けた!」


付近のコナラやクヌギにはいずれもシートが巻かれている。

キクイムシが穿孔しているクヌギやコナラやシラカシは、大量の樹液を出す。

このために、クワガタやカブトやカナブンなどがたくさんあつまる。

実際、シートの巻かれた木からはいずれも樹液がダラダラ流れ出している。

当然大量の昆虫が集まり、それをねらってトカゲやヤモリがあつまる。

で、みんなつかまる。

トカゲやヤモリでも身動きが全くとれなくなる。カナブンも動けない。カブトムシやクワガタでももちろん無理だろう。

結果、大人のサイズのヤモリやカナヘビ、トカゲが全く身動きがとれなくなっている。あとで公園管理の人に聞いたら、ヘビも捕まっていたそうである。

さらに、オオスズメバチも大量についている。

「コクワガタ、1ひき助けた!」
子供たちがそう言っている。

家庭用のゴキブリホイホイでもネズミは捕まる。

かしながホイホイに小型の齧歯類や小鳥も捕まったら逃げられないだろう。

シートを見ると、昆虫と爬虫類と甲殻類と貝類の処刑場を呈していた。

1本の木のシートの一部分、50〜80センチ程度の長さの粘着シートに、平均3〜4匹のヤモリやカナヘビ、10匹以上のカナブン、10匹前後のハチアブ類がついていた。

これ、全部カウントしたら凄まじい数になるはずである。

公園の看板によると、このシートは8月末まで貼られているとのこと。

6月末から8月。

コナラやクヌギやシラカシから大量の樹液が出る。

そんな樹液が出ている木にこの巨大ゴキブリホイホイが十数本の木に巻かれている。

カブトムシやクワガタやカナブンをはじめとする樹液に集まる昆虫が大量に死ぬことは確定である。

樹勢の弱くなった木に集まる多数の種の昆虫、甲殻類、貝類なども大量に殺される。

昆虫を餌と狙っている爬虫類も死ぬ。

ナラ枯れの調査のために巻かれている巨大ゴキブリホイホイのせいで、この小さな公園の生態系は壊滅する。

都心の小さな公園では、これで生き物、いなくなるだろう。


ナラ枯れは深刻で、対応しないと非常に危険である。

ナラ枯れ対策は積極的にやるべきだ。

が、このアース製薬のカシナガホイホイは使ってはダメだと思う。

明らかに問題がある。

ゴキブリホイホイを樹液の大量に出ているコナラやクヌギやシラカシにまいただけである。

調査以前に、他の生き物が全滅しかねない。

しかも、ナラ枯れの抜本的な対策にはなり得るのか疑問も残る。

というのもシートが巻かれているのは人間の目線の高さだけで、カシノナガキクイムシが好む根っこの部分は巻かれていない。

隙だらけ穴だらけである。

小さな公園では、ヤモリやカナヘビやトカゲは食物連鎖の上位に位置する。

それが根こそぎ殺されている。

おとめやま公園は、小さい。

このシートによる殺戮で、園内のクワガタやカナブンやカブトムシや爬虫類は大打撃だろう。園内の生態系が崩壊するのは必至である。

これは、まずい。

この日、私はすぐにフェイスブックとツイッターで情報を拡散し、各方面に告知した。ナラ枯れ対策は重要だが「かしながホイホイ」は、その前に生物多様性を徹底的に減じてしまう、と。

使っているひとは、まずは地元の実態を見た方がいいと。
写真をもう一度、見てほしい。数本の木に巻かれたシートが剥がれた部分を見ただけで、これだけのヤモリやカナヘビが犠牲になっている。

仰天する。
Twitterなどで検索すると各地で使われているが、なぜ誰も問題にしなかったのだろう。
アース製薬には昆虫の専門家もたくさんいるはずだろうに。

で、次に東京都の知り合いに連絡をとり、この日は休日だったので公園スタッフに除去のお願いをしたうえで、翌日7月1日、新宿区の公園管理セクションに連絡を電話で入れた。

幸い、FacebookやTwitterの告知で、多くの方が新宿区に連絡をいれてくれていた。
新宿区立おとめやま公園のナラ枯れ対策のアース製薬製の粘着シート「かしながホイホイ」で多くの爬虫類や昆虫類などが捕まって死んでいた件、連絡を入れた7月1日の時点で、即日、区と公園事務所が迅速に対応くださり、全て撤去さた。

7月2日朝、公園で管理者の方とお話しした。

状況よくご理解されてていた。
公演管理の方も、ヘビが捕まっていたりしたのをみており、大丈夫だろうかと懸念されてたとのこと。

区民からの通報で、区と公園がきわめて迅速に的確に対処してくださった。

おとめやま公園は、手入れのセンスがすばらしく、適度に草刈りや笹を刈り、適度にほうっておいてあるため、とにかく生き物が多い。公演管理の方々が、生き物好きなのが伝わってくる。

作業をされて、多くの生き物がかしながホイホイに捕まって殺されているのをみて、柔軟に対応してくれた裏には、スタッフの方たちの地元自然にたいする眼差しがあったかと思う。

ただ、不思議なのは、これだけ壊滅的に他の生き物を殺してしまうかしながホイホイがすでに10年以上も各地でつかわれていること。

同様の報告は他の地域でないのだろうか。

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