メディアの話その115 「再放送」というサブスクが、子供文化を市場にした時代。

今朝、NHKBSで、キングジョーにマウントとられているウルトラセブンを見ながら、回収騒ぎでちょびっと注目された『ウルトラマンの「正義」とは何か』を完読。
回収騒ぎとなったのは、本書の元ネタとなっている、切通理作さんの「ウルトラマン論」を、大江健三郎さんが書いたものだと勝手に解釈し、そこから論を展開しようというめちゃくちゃぶりを、切通さんにTwitter上で指摘されたから。


で、実際に『ウルトラマンの「正義」とは何か』を読んでみると、参考・引用文献に「大江健三郎 破壊者ウルトラマン」、「切通理作『怪獣使いと少年』」どちらも載っている。


もし両方の文献にざっとでも目を通していたら、大江さんと切通さんを間違えることはありえない。

つまり、文献の名前だけを並べて、一切読んでいなかった、というのがわかっちゃう本でした。

冒頭からそんな感じなので、本の中身については論評しない。

ただし、本書を読んで、「結果として」ひとつ思い出せたことがありました。

それは「子供番組の再放送」です。

60年代70年代80年代までの「子供向け番組の再放送」こそは、現在のネットフリックスやアマゾンプライムのようなサブスクリプション=見放題サービスと同様のメディア効果を、子供たちにもたらしていた、ということを思い出させてくれたのでした。

なぜ、それに気づけたかというと、本書で、ウルトラマンは視聴率が高くて成功したけど、ウルトラセブンはなまじ大人向けのSFにしちゃって視聴率も下がって「不振」で人気も無くなっちゃった、といった記述をしていたから。

で、これ、当時リアルタイムにウルトラシリーズを見ていた1個人からすると、重要な要素が抜け落ちている「後付けの分析」です。

ウルトラマンは1966年、ウルトラセブンは1968年に初放映。

当時は、テレビの普及そのものがまだ発展途上。

ちょうど3C(カラーテレビ、クーラー、カー(自動車))消費が注目をあびたいざなぎ景気と重なっているから、各家庭にテレビがある、と思いがちだけど、たとえばこのサイトに載っている、カラーテレビの普及の内閣府の調査をみると、まだまだカラーテレビは贅沢品でした。
https://www.seniorlife-soken.com/.../%E3%82%AB%E3%83%A9...

また、こちらのサイトによれば、1968年の世帯普及率:カラー10.9%、白黒 96.6%。1970年の世帯普及率:カラー40.2%、白黒83.2%。
http://www.kdb.or.jp/syouwasiterebi.html

さらに、当時は録画機が存在しないので、リアルタイム放送を見逃したら、2度と見れないことになる。

ウルトラマンやウルトラセブンのターゲットが幼稚園および小学生1〜6年だとすると、年代的は、リアルタイムの本放送で視聴できたターゲットは、1954年生まれから1964年生まれまで、ということになる。


私自身が1964年生まれなので、ウルトラマンはモノクロで流れているのを見た記憶が多少あり、ウルトラセブンからカラーテレビでみることができたのを覚えている。いずれも保育園(3歳から)と幼稚園(4歳から)の時代。


ただ、ほんとうにウルトラマンやウルトラセブンの消費者になったのは幼稚園の年長および小学1年生のころです。


なぜ、消費できたのか。どう消費したのか。そもそも3歳の時からの記憶力がよかったのか?

ちがう。「再放送」があったからです。

かつて、子供番組は、夕方の5時台、6時台に何度も何度も再放送された。とりわけウルトラシリーズは人気があり、月曜から金曜まで、毎日再放送が流れていた。

子供たちの多くは、「再放送」の視聴を通じて、ウルトラシリーズをはじめとする60年代70年代初頭の子供向け番組の消費者となったわけです。

1968年生まれの4つ下の弟の場合、リアルタイムでウルトラマンもウルトラセブンも見ていない。でも、再放送で接することでウルトラマンやウルトラセブンの消費者となりました。

再放送の重要性については、あるいはその人気ぶりについては、こちらのサイトにが、詳しく解説しています。
https://middle-edge.jp/articles/Lzo6N

このサイトにあるように、TBSで制作されたウルトラシリーズだが、なぜかウルトラマンは、日本テレビやフジテレビで再放送されていました。当時、子供心に、不思議だなあ、と思った覚えがある。


さらにこのサイトにも載っていない重要な「再放送」の時期があった。

夏休みと冬休み。朝の時間帯にウルトラマンやウルトラセブンが毎日放送されていた。1960年代70年代前半生まれのひとは、覚えがあるでしょう。夏休み、ラジオ体操から帰って、ごはんを食べてだらだらしていると朝10時からウルトラマンがはじまったりする。それを見て、外に遊びに行くと、すぐにお昼の時間。あわてて帰ってきて、また外に。という夏休み。


そう、いま、ネットのサブスクで何度もコンテンツが見られるような状態が、かつて子供番組に対しては「再放送」というかたちであったのです。
コンテンツの数が限られている時代、テレビ局は子供相手に人気の子供番組を何度も再放送しました。

結果、オタク的でなくても、だれもがウルトラマンやウルトラセブンや仮面ライダーのキャラや怪獣や怪人を知るようになった。さらに怪獣ブロマイド(駄菓子屋さんで1枚五円で買えた。袋が薄い緑色でした)や、ブルマアクのプラモやソフビなんかを買って、砂場で怪獣ごっこをして、という流れでした。マーケティングとマーチャンダイジングと再放送は自分たちの消費を考えるとおそらくセットでした。

本書によれば、ウルトラマンよりウルトラセブンは人気が落ちた、とあり、リアルタイム視聴率だけを並べるとそうみえちゃうけど、たとえばおもちゃ販売でいうと、当時ウルトラシリーズのプラモといえば、合体メカのパイオニアであるウルトラセブンの「ウルトラホーク1号」が鉄板で、砂場遊びでは、複数のウルトラホーク1号が飛び交っているのでしたw ウルトラマンの「ジェットビートル」のプラモは、当時ほとんどみることがなかった。


こういう動きは、リアルタイムの視聴率だけ並べてあとから分析ごっこをしてもわからない。


アニメなんかも同様で、本放送のときは人気がなかった宇宙戦艦ヤマトなどがあとから人気を獲得できたのも、ルパン三世の人気が後から沸騰して第二シリーズがスタートできたのも、本放送は不振だった機動戦士ガンダムが人気を獲得できたのも、誰もが知るように「再放送」というサブスク的状況があったから。


本書を書いた著者は1983年生まれ。このひとが小学生にあがる1990年代は、子供向け番組が夕方の時間帯に再放送される状況がすたれるようになった。いまは、各局ともニュースと情報番組をやっている。子供番組は、土日の朝に集約された。
ウルトラマンのような子供番組が、かつて人口にどう膾炙したのか、というのを論じるうえでは「再放送」がものすごく機能していた、リアルタイムの視聴率だけ並べているだけでは、人気も測れないし、分析にもならない。それは、「再放送」が当たり前の時代を知らないと、思いもつかないんだろうなあ、と、2021年6月に「ウルトラセブンの再放送」をみながら思うのでありました。

ネットフリックスやアマゾンプライムをみていると、なんだか昔のテレビを思い出す。それはアニメの再放送や洋画劇場っぽいから、かもしれません。

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