メディアの話その114 メジャーな100万人 マイナーな100万人

「100万人って、マイナーでお取りつぶしの数字なんですよ」
 先週、テレビ関係の仕事をしたとき、とある放送系企業のトップ(年齢は私と同年代)とお話しして出た言葉。
 テレビの視聴率の話である。かつて100万人=1%と考えていたから、たしかに深夜番組でもなければ、即番組終了である。
 でも。
 この数字をテキストメディアに持ってくる。
 新聞でいえば、100万は巨大な数字である。日経新聞や毎日新聞の読者の3分の1。朝日新聞の5分の1である。大概の地方紙よりはるかに大きい人数である。
 書籍でいえば、100万は、1年に1冊でるかでないかのミリオンセラーの数字である。
 わたしたちは、メディアにおける「100万」をものすごくいい加減につかっている。
メジャーな数字なのか、マイナーな数字なのか。
 先日東工大の学生たちにアンケートをとった。鬼滅の刃の映画を見た人間の比率は、なんと33%。三人に一人が見ている。すさまじい数字である。つまり、映画で日本一というのは、そのくらいの数字である。観客動員数が2900万人。かつての視聴率でいうと30%クラスである。そう考えると、学生の三人に一人が見ている、というのは動員数とぴったり一致する。
 一方、昨年、『ファクトフルネス」について授業を行った。ここ2年で最大のベストセラーのひとつ、100万部超えの本である。
「ファクトフルネス」は、行動経済学や認知心理学をわかりやすく伝えた本であり、人間の本能による認知は、現代社会をみるにあたって、しばしば間違いを起こす、ということを示している。著者のロスリングは、データをきっちり見て、科学的に分析することで、直感による過ちをチューニングする必要を解いている。
まさに、コロナの時代に即した話だが、ロスリングのベストセラーを伝えるマスメディアは、同時にロスリングの書いた話と逆の報道をしていたりする。データのファクトを伝えず、己の感情をファクトのように伝える。
一般社会どころか、マスメディアの現場にすら、ミリオンセラーの概念は伝わっていない。「ファクトフルネス」を読んでいた学生は、10%に満たなかった。これも、人口比で考えれば妥当である。むしろ多いと言っていい。
漫画において、シリーズ数百万部は、ヒットではあるが、メジャーではない。あの感じ。数千万部に達してはじめて、誰もが知る漫画になる感じ。
そう考えると、書籍の世界は、無数のマイナーコンテンツの塊でできている。ミリオンセラーふくめて、である。
だから、十数万部のヒットがあったからといって「それが世界の趨勢」だと思ってはいけない。なんであの本が!?と思うケースもあるだろうが、本のヒットの規模というのはあえていえば、すべてカルト的な規模である。だから、中には「明らかにヘンテコだけど一部のひとには魅力的」というコンテンツだってある。
ただし、十数万部の「マイナーな人気」を、メジャーなコンテンツ流通であるテレビが報じることで、「トロイの木馬」がしばしばできあがったりする。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?