メディアの話、その48。ライフシフトなんて、できない。
人生は100年時代を迎える。だから、ライフシフトしなくっちゃ!人生を何度もバージョンアップしなくっちゃ。
たった1冊の本が、社会の空気を変えるときがある。
リンダ・グラットンさんの『ライフシフト』は、まさにその典型である。
おそらくは、内閣のなかでも『ライフシフト』にやられちゃったひとがいるんだと思う。政府から出てくるさまざまな施策には、「人生100年時代」を前提にしたと思われるものがいくつも見える。
『ライフシフト』では、医療技術や福祉の充実によって、多くの先進国では、平均寿命が、しかも健康な状態での寿命が100歳を超えるようになるだろう、と仮説をたてる。いまの子供たちの時代にはそうなる。いまのおじさんおばさんである私くらいの世代も90歳前後になるかもしれない、と力説する。
この仮説については、まあありえるかもしれないな、とも思うし、そんなに長生きするかな、と疑問に思う点もある。
こればっかりは、100歳になってみないとわからない。46年後、お会いしましょう。チャオ!
……と、話を終わらせるのもなんなので、もうちょっとぐだぐだ考えてみる。
これまでずっと数十年間ひとつの職場で仕事をしてきたひとたち、つまり、私たちの大半にとって、次のまったく別の人生を歩むべくシフトチェンジするのは、とってもとっても困難ではないか。
わくわくより、ストレスのほうがはるかに大きくなるのではないか。
ベテランがゼロから新人になる、というのは、年をとればとるほど大変なストレスをともなう。
いやいや、大丈夫だよ。そんなことないよ。できないやつは、ただの社畜じゃん。
そういうご意見もあるだろう。
そして、やすやすとライフシフトをするひともいるだろう。
でも、なんの訓練も準備もないまま、いきなりライフシフトをすると、動きがとれなくなる。そんなひとの数のほうが、おそらく多いのではないか。
社会というのは、少数の成功者と多数の失敗者で構成される、という状況は、実はあんまりあり得ない。社会のなかで多数の失敗者がいる状況は、経済的にも政治的にも不安定で不幸な状態だから、少数の成功者となっても、ハッピーな状況は得られなくなるからである。
ライフシフトは、たぶん必要になる。でも、ライフシフトの社会的ハードルは案外大きい。仕事と人生は、1人1人が1回こっきりしか経験できない。
1冊の書籍というメディアが、いきなり大きな変化をもたらそうとしている。その変化のスピードに、すでに数十年の今更動かせない経験のあるひとたちが対応できるか? できるようにするには何をどうすればいいのか?
私には答えがない。
続きます。
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