メディアの話、その18。空は街のコンテンツである。
昨年秋、仕事でヨーロッパをうろうろした。
自分探しではなく、仕事、です。
パリから入って、すぐに飛行機を乗り継いでアムステルダムへ。
翌日取材したのち、夕方にはまた飛行機に乗ってドイツ・ハノーファーへ。
2日滞在したのち、3日の夕方またまた飛行機に乗って、ベルギー・ブリュッセルへ。
翌朝、チャーターバスに乗って陸路を移動し、国境を越え、ドイツ・ダンケルクへ。
ダンケルクで半日仕事を終えたのち、チャーターバスでそのままパリへ。
翌日、パリで半休をもらい、うろうろして、夜日本へ。
8日間で4カ国。この日程を見ていただければおわかりいただけるかもしれないが、最終日のパリを除いて、観光の類は一切していない。
ただ、駆け足で4カ国回ると、ヨーロッパの5つの街、アムステルダム、ハノーファー、ブリュッセル、ダンケルク、パリに共通することがあった。
3つ。
ヨーロッパは狭い。
コンビニがない。
空が広い。
以上である。
順に説明する。
ヨーロッパが狭い、と実感できたのは、ベルギー・ブリュッセルからフランス・ダンケルクにバスで移動したときである。
バスですよ、バス。バスで国境を抜ける。
なんだか沢木耕太郎『深夜特急』みたいである。
夜明けのブリュッセルの石畳の街をことこと走り、フリーウェイに入ると、景色はそのうち、真っ平らな畑が延々広がり、遠くに白樺の並木が影のように並び、地平線が広がる風景に。ブリュッセルから1時間ちょっとで、道路に看板が。
「ここからフランス」。
東名高速にかかっている「ここから静岡」の看板なみにそっけない。
さらに30分ほどで、ダンケルクに到着。
クリストファー・ノーランもびっくりである。
新宿西口から観光バスに乗って、東名で御殿場のアウトレットモールに行くのとだいたいおんなじ時間距離。
もし、新幹線があったら、40分で着く。
ダンケルクからブリュッセル、通勤できるぞ。
今回訪れた都市でいちばん離れているのはパリとドイツ・ハノーファー。でもググって調べたら、距離は陸路で773キロ。
東京と広島・三原が752キロ。これまた、新幹線があったら、日帰り出張させられる距離ですね。
ところが飛行機に乗ると、いまだにパスポートチェックはあるし、身体検査などなど面倒があって、結局時間がかかる。ヨーロッパが新幹線的なもので結ばれたら、ほんとに狭くなる。
で、そんなに「狭い」のに、ダンケルクとパリとアムステルダムとハノーファーとブリュッセルは、はじめて訪れた私にとって、全部が全部、異なる街だった。
東京ー三原間に、すべての都市が入ってしまう。なのに、全然違う。
それは、ヨーロッパがEUという大きな「枠」のなかでは「おんなじ場所」になったにもかかわらず、個個の都市が「つながっていない」からではないか。
「つながっていない」最大の象徴が、
どの街にも「コンビニ」がない、ということになる。
ヨーロッパ数カ国を駆け足で訪れたことで
逆に気づいた日本の景色の大きな特徴。
それは、「コンビニ」だ。
どんな田舎にいこうと「コンビニ」がある。
ちょっとした街だったら、目をつぶっていても「コンビニ」にぶつかる。
そんな「コンビニ」のないヨーロッパの都市は、
最近の日本の都市、とりわけビルの建て替えが延々進む
東京の街と好対照な共通点がある。
「空が広い」。
大都市のパリまでも、「空が広い」。
東京の中心部は空が狭い街が増えている。
超高層から高層から中層にいたるまで、ビルが増殖して、
空をどんどん覆っている。
こうした大型ビルの大半は、
1階に「お店」がある構造になっていない。
かくして、ビルはあれども「街はない」、という様相を呈している。
ヨーロッパの街は、空が見える、
パリも、ブリュッセルも、ハノーファーも、アムステルダムも。
高層ビル群がなぜ街にならないか。
1階を殺してるから、だけが理由じゃなかった。
歩いて気持ちいい街は空が見える。
日本でも、散歩したくなる街は、空が見える。
銀座も、谷根千も、表参道も。
空は、街のコンテンツなのだ。
街こそは、その土地の最大にしてもっともリアルな「メディア」である。
そんな街にとって、
「空」は、最高のメディアコンテンツである。
「空」は「から」じゃない。「そら」というコンテンツなのだ。
ビルで埋めると見えなくなる。
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