まだ見ぬ科学のための科学技術コミュニケーション

久々に読書記録を動かしてみます。

大学院で学んでいた科学コミュニケーションの分野において、3月に2冊の新刊が出ました。

  1. まだ見ぬ科学のための科学技術コミュニケーション(北海道大学CoSTEP)

  2. 科学コミュニケーション論の展開(東京大学科学技術インタープリター養成プログラム)

の2つで、今回の読書記録はそのうちの1つについてです。本は7章構成で、半分以上は実践の取り組みや実践から得られた示唆などがまとまっていました。実践手法として取り上げられていたのは、演劇、参加型展示*、サイエンスカフェです。
*参加型展示:問いかけやワークショップを通して人びと(非専門家)が回答した内容をそのまま展示すること。人びとの回答が多様であることを可視化できる効果がある。本書で取り上げられている参加型展示は百貨店で行われた事例である。

3つの手法に共通しているのは「対話」を重視していることだと感じました。科学コミュニケーションにおいてしばしば重要視される専門家と非専門家の対話、すなわち双方向的なコミュニケーションを実現するためのメディアとして、この3つの事例が取り上げられているなという印象でした。「メディア」という言葉からは新聞、テレビ、本といったいわゆる「マスコミ」的な手段を連想しがちですが、「誰かに情報を伝える」ための「メディア」をについてもっと視野を広げて考えないといけないなと感じました。

少し気になったのは、「対話」に関する内容に全面的に振り切っているところです。科学コミュニケーションでは専門家の意見だけでなく非専門家の意見も取り入れようという動きがあり、いかにして非専門家(科学に関心を持っていない人)を科学の話題に巻き込むかというのは科学コミュニケーションがずっと抱えている課題でもあります。演劇という文化的な手段で科学的内容を扱ったり、百貨店という科学的内容を真正面から取り扱う場ではない場所でゲリラ的に参加型展示を行なったりすることは、(科学への興味が日頃薄い人が)科学に興味を持つきっかけづくりという点ではその通りだと思います。(事実、科学館のような科学コンテンツを日常的に提供している場所以外で科学イベントを実施することは、科学に関心の薄い層へのアプローチとして有効であるという示唆は得られているわけですし(後藤・加納 2021)。)

ただやはり、きっかけを作った先についても考える必要があるなと思います。一時的なものに終わることなく、継続的に興味を保持してもらうための施策(例えその興味が細いものだとしても)については、本書では扱われていない論点かなと感じました。本書のテーマが不確実性の高い科学的内容への興味に関するものなので、きっかけづくりの科学コミュニケーション手法に話題が寄っているのは当然とも言えますが。私自身の興味関心が後者(継続的に興味を保持してもらう)の科学コミュニケーションなためか、ちょっと物足りなかった感は否めません。エンタメ的科学コミュニケーションにあまり関心がないのかもしれない、と改めて自身の考え方を振り返る機会になりました。

実は2の東大の新刊も読んだのですが、そちらはこれまでの科学コミュニケーションの歴史も踏まえた理論面の記述が分厚く、大変読み応えがありました(これも読み直して読書記録を書きたい)。東大本と比較すると、本書は比較的読みやすく、手軽に手に取れるかなと感じます。

読書記録を動かしていなかった2年の間で色々な出会いや学びがあり、考え方の変化、考えを記述する文章スキルなど、多くのものに変化があったと感じています。その時その時の考え方や感じたことをまとめておく手段として、また読書記録を動かしていきたいと思っています。細々になると思いますが、あまり気負いせずに続けていきたいという宣言だけしておきます。

それではまた。

参考文献
後藤 崇志, 加納 圭(2021)商業施設での科学ワークショップの参加者層評価
科学への関心・意欲の多様な層のワークショップ参加を目指した試み, 日本教育工学会論文誌, 45(1), 113-126.


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?