見出し画像

山口晃「アウトラインアナグラム」感想1/2 ジャムセッション石橋財団コレクション×山口晃「ここへきてやむに止まれぬサンサシオン」展より

 アーティゾン美術館にて、ジャムセッション 石橋財団コレクション×山口晃「ここへきてやむに止まれぬサンサシオン」展( 2023/9/9〜11/19 ) を11/18に鑑賞しました。
 
とくに印象に残った「アウトラインアナグラム」について感想を書きます。
 
 最初にある「汝、経験に依りて過つ」の部屋の次に、「セザンヌへの小径」が人で混み合っていたこともあり、「雪舟の翳る部屋」から見始めました。
 
雪舟「四季山水図」四幅 → 「オイルオンカンヴァス パースペクティブ」「オイルオンカンヴァス ノリバケ」→ 「ランドルト環」→ 「モスキートルーム」 →「アウトラインアナグラム」の順に回りました。
 
 この順番で見ることが出来たことが私の感覚にとって、とても刺激になり良かったです。
 
 「アウトラインアナグラム」の展示室に入って作品が目に入ったとたんに驚いて「アッ」と声が出そうになりました。
 まるで霧がかかっているかのような白色から薄墨色の空気に満たされた空間に、水墨山水図風の風景が、フワッと立体で浮き上がって見えました。

 すぐに、これは目の錯覚だと気づくのですが、見れば見るほど不思議な感覚に陥りました。
展示室は、四角い枠が開けられた白い壁で仕切られていて、その枠の外側に作品があります。

 平面に描かれた水墨山水図風の急峻な岩山や滝、川、家屋、高層ビルや鉄塔の輪郭(アウトライン)がそれぞれ、手前と奥に、前後に立てて展示されているのですが、展示空間が、壁が曲面になり、床は傾斜がついて奥に高くなっているため、その配置の妙によって絵が立体的に見えています。

 奇妙に思ったのは、初めて見た瞬間の印象では、どの位置に置かれた絵も上部が手前にヌッと迫り出しているように見えたからです。
 
 奥の方に、鉄塔や高層ビルがおかれ、手前中央に急峻な岩山、手前左側には川岸に軒を連ねる家並み(まるで山中の温泉宿のような)がありますが、川は下り坂のように、手前から奥に向かって流れているような描かれ方をしています。 
 これが、奥に岩山があって、奥から手前に川が流れていれば、視線のジグザクの移動と目に映るモノ同士の距離感 ( 前後の関係 ) がすんなり一致しますが、ちぐはぐなのでよりおかしい感じがします。
 
 もちろんこの作品は、このように鑑賞者の感覚をかき乱して活性化させることが目的で作られているわけです。

多くの作品が撮影可能だったのに、これは撮影禁止だった理由が分かりました。肉眼で見ないとわからない感覚と、最初のアッと驚く体験が貴重なので、事前に内容を知らなくて本当に良かったと思いました。

 この感覚が面白くて、再度「雪舟の翳る部屋」へ戻り、同じ順番でもう一度めぐりました。
 すると、雪舟の「四季山水図」の墨の濃淡や、「オイルオンカンヴァス」「ランドルト環」に描かれた面や線の刷毛の跡が、最初よりはっきり見分けることが出来ました。「ランドルト環」は、書き順をなぞるようにぐるっと回って見えるような気がしました。

雪舟「四季山水図」

「雪舟の翳る部屋」では絵に対面するように白い照明が付けられた光る壁があり、展示ケースによほど顔を近づけないと、上の写真のように自分の影が映り込んでしまいます。
 描かれている物の輪郭線(アウトライン)の持つ表現力と、墨の濃淡をよく鑑賞して欲しいという山口晃氏の意図でしょうか。

「オイル オン カンヴァス ノリバケ」
壁に対して角度をつけて展示されていた
「ランドルト環」

 そして、二度目に「アウトラインアナグラム」の部屋へ入ったときに、展示室の壁の内側に書かれた窓枠の模様に気づきました。
 そこでこれは、「山水図の中の東屋に鑑賞者がいて、その屋内から外の風景を眺めている」という設定の展示だったことが分かりました。

 ・・・雪舟の山水図の中に鑑賞者がいるような体験を促している・・・という点で、私が連想したのが、以前に山口県立美術館で観た5GVR「山水長巻」です。
 山水長巻とは、雪舟の描いた画巻「四季山水図」(長さ約16mの巻物、国宝、毛利博物館蔵)です。
 5GVR「山水長巻」とは、山口県立美術館がNTTドコモと共同で制作して、2021年から公開しているVR作品です。時間にして3分位ですが、「山水長巻」の一場面をVRゴーグルを着けてVR体験できるというものです。
(鑑賞体験はいつでもできるわけではなく不定期のようです)
 これは、アート作品というよりも、教育普及と文化財保存や芸術鑑賞のデジタル化における一つの試みとして作られたものです。
「アウトラインアナグラム」と5GVR「山水長巻」を鑑賞して考えたことは、次回記事に書きます。

展示されている作品は、細かい所まで様々な事物が几帳面に描かれていて、どれも見ごたえありましたが、私がとくに気に入った作品を次にあげます。

「大屋圖」(2023年)

様々な時代の人々の生活風景 よく見ると機銃掃射兵器もある
フワッとした円は何だろう

この「大屋圖」は、「アウトラインアナグラム」と同じ流れで描かれているように見えて、とくに面白かったです。
 画面下に、雪舟風の岩石や小舟が描かれていたり、画面中央部に山水図風の滝が描かれているから、というのもありますが、
他の作品は俯瞰図が多いのに、これは下から見上げた視点で描かれ、目に見える風景を構成する物々のアウトラインを全て同じ四角形に整えて、遠近を無くして同じ面に揃えて並べて積み上げたように見えました。

「馬から矢ヲ射る」(2019年)

 女性のまさに矢を射んとする気迫のこもった表情と、弓に付けた照準器に乗っている「導きの少年少女」が、あの的をこそ射よ、と指さしている姿が好きです。

公式図録

「大屋圖」が表紙

 展示作品の多くが収録されていて、折り込み形式なので、一枚一枚広げてみることができます。額に入れて飾ることも可能。
 展示室に添えらえていた山口晃氏の言葉が載っていたのが有難く、また
パラリンピックポスターの仕事を引き受けるまでの顛末を書いた漫画エッセイ「当世壁の落書き 五輪パラ論」も全収録されていてうれしかったです。

細かい! きれい!

次回記事に続きます

 


読んで頂いてありがとうございます。サポートは、次の記事を書くための資料や交通費に充てる予定です。