お客様さえ機嫌がいいなら良いんじゃん?
iyamori(スナック3)
「ママとは長い付き合いで〜」
「そうね〜長いわね〜」
「名前も同じで〜」
「そうね〜、面白いわね同じなのよね」
へ〜
ふ〜ん
としか思っていないyamoに対して、2人でyamoに何か言え!という目線を送ってくる。
こういう時のyamoはなかなかのポンコツで、初めての「お客様」にはどう反応したらいいのか正解を探してしまう。
へー
ふーん
としか思っていない自分に慌てている状態だ。
長い付き合いなのか〜
ふーん
同じ名前なのか〜
へー
、、、で?
***
つい一昨日の晩は、70をとおに超えたおじちゃんが、奥様とお友達と3人で連れ立って来てくれて、おじちゃんは広い畑を所有しているそうで、その畑で採れた作物の話をyamoはうんうんと熱心に聞いていた。
へー
すごーい
ブロッコリーって難しいって聞いた事ありますー
難しいさ
なんだって簡単じゃないのよ
うんうんそれでそれで?
土からなのよ
なんでもそう
土なのよ
あと虫
これも厄介
うんうん
ほうほう
ちゃんと興味深々で聞いていた。
大変ためになる面白いと思える話だった。
良い笑顔になっていた自信がある。
うまくやれていると思っていた。
そしたらママに途中で耳打ち。
「うんうんじゃないの。ハイかエエ。うんなんてお客様に失礼です」
失礼なの?
楽しそうに喋ってるように見えるけど?
で、こうなるとyamoは上手に受け答えが出来なくなる。
うんうんと出てしまってはハッとして、「あ、すみませんエエ、、」なんてムダに言い直しちゃう。
ママの顔を見ちゃったりする。
***
その日はお客様が無くて、閉店時間よりだいぶ早いけどママは閉めようとしていた。
そこに「長い付き合い」のお客様がご夫婦で来店。
入ってきてすぐカラオケ🎤の開始。ご主人。
とにかく一曲歌ってからじゃないとね♫だそうだ。
たいそうな声量のご主人で、豪快に「男船」を歌い上げてご満悦だ。
ママと同世代だということは60代半ばか。
後から歌った奥様も高い良い声をしている。
そしてお決まりのyamoちゃんも歌ってよ!という流れだ。
これにはもう慣れてきた。
「よし!歌っちゃいます!」と請け負って、つぐないを歌った。
愛を〜つぐな〜えば〜♪
わかれになる〜から〜
相変わらず下手くそだけど、それはそれでお客様を優越感に浸らせることも出来る効果が有るらしいと学んだので、とても気持ちは楽に歌えるようになった。
じゃあ俺はね〜
♫私祈ってます〜♪
よ!
最高!
とは言え、昔の歌ってなんか辛気臭いんだよな〜
あなたを想って泣いてます〜とか、
忘れないでね〜♫とか、
待ってます〜
振り向いてください〜
歌え歌えってご主人がyamoに言うから、奥様はママと親密に何かお話ししてそうだし?
辛気臭いし下手くそだけどそれなりに気持ちよく歌って、基本ご主人を盛り上げていた。
やー飲めないのかー飲めたらもっと楽しいのになー
スミマセン本当に私もそこは思いますー
笑笑 ご主人ご機嫌!
よし!じゃあ次は奥様が横須賀出身だって言ってたな?「横須賀ストーリー」なんてどう?
これっきりこれっきりもうこれっきりですか〜♫♪
と、そこへ、カウンターの下の方で隠すようにyamoに向けてママから指でばつ印。
へ?
何が✖️?
これっきりこれっきり〜?
横須賀に触れちゃダメってこと?
そしたらまさかの「もうyamoちゃんの歌は要らない(今日は)」というサインだった。
え?
でもさ〜
ご主人が歌えって〜
まあでも時間もだいぶ深夜になろうって頃だしね、お店閉める雰囲気作りたかったんだろうな。
たぶんママとしてはyamoにそっちへもっていけ!というサインのつもりだった。
そんなに盛り上げてどうすんだ的な。
時間も見ろ的な。
でもそこはポンコツyamoちゃん。
すぐには理解できずに、歌うなというママと、歌ってよ〜と言うご主人の間でオロオロする。
どうする?
という目をママに向けてみたりする。
ママは奥様の方の親密な話に相槌を打ちながら、yamoのどうする?に、ぎゅっと目を瞑って首を横に振ってダメと合図をする。
yamoはそれに従って、「ご主人様もう一曲どうぞどうぞ」
「ややや 笑 また俺かよーー」
「yamoはちょっと休憩です」
休憩なんかしなくて良い
歌え歌え
歌って発散しなきゃダメなんだよ
(ここで1つ思う。なぜ歌うことで全員が何かを発散出来ると思う人が多いのだろう。少なくともyamoは、人前で、しかも初対面の人の前で歌うことはストレスでしかない)
もう一度ママに視線を向ける。
ママは脱力している。
そこからの、優しい笑顔で、手でもハイハイどうぞどうぞと送ってくる感じ。
こういう時のママとのやり取りがyamoは好き。
イライラしないでくれる感じ。
yamoに伝わらないことを脱力して受容してくれる感じ。
yamoはそんなこんななママとのやり取りを重ねて、「それでもここに居て良い」と思えてお客様と接している。
***
日常はドラマに満ちている。
ではまた。