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有松に「まちの社交場」を──空き店舗活用「シン・セヴィラ・プロジェクト」とは

名古屋市・有松界隈で「一体何が始まるんだろう…」と話題になりつつあるinstagramアカウント「シン・セヴィラ・プロジェクト(@new.sevilla.pj)」は、名古屋市が空き家・空き店舗の利活用に取り組む令和4年度 ナゴヤ商店街オープン(以下、商店街オープン)の一環で誕生しました。プロジェクトの背景と展望を参加メンバーとともに語り合いました。

話し手|武馬さん(ありまつ中心家守会社 共同代表)、藤井さん(有松在住の参加者)、中村さん(まちづくりに興味がある参加者)
聞き手・テキスト|浅野(ありまつ中心家守会社 共同代表)

ナゴヤ商店街オープンで「まちの社交場」を考える

── 有松として商店街オープンに参加したきっかけは?

武馬|有松エリアのにぎわいづくりや空き家活用の支援などをおこなう私たち「ありまつ中心家守会社」は、国の伝統的工芸品 有松・鳴海絞の産地であり、日本遺産認定などで注目を集める有松で活動をしています。今回の商店街オープンでは、有松絞商工協同組合と協力して、来訪者と地域住民にとっての新たな「まちの社交場」を検討することになりました。商店街オープンで2018年度からすでに4回開催されていて、南区・笠寺や中区・名古屋駅西、名東区・西山などでの実績があります。今年度は有松と南区の内田橋商店街を会場に開催されました。

── 2013年時点で全国の空き家数は約820万戸と言われ、実は名古屋市も約15万戸が空き家があるようですね。ちなみに有松はどんな物件を対象としたのでしょうか?

武馬|対象物件となったのは有松の西エリアで5-10年ほど前に閉店した旧理髪店「セヴィラ」です。30平米ほどの小さな木造平屋の中は、まるで昭和で時間が止まったままの雰囲気。閉店後から次の借り手に渡ることなく、目の前にある幼稚園の園児たちの送迎を優しく見守りながら、しばらくの間ひっそりと佇んでいました。

有松の西側は400年ほど前に開村とともに初めて移住者が住み始めた歴史のあるエリアです。歴史的な建物が今も多く立ち並び、落ち着いた雰囲気を醸し出していますが、名二環(国道302号)の開通、文化財の「岡家住宅」を名古屋市が新たに所有したことで、これからの賑わいが期待されるエリアでもあります。私たちが年3回開催するアリマツーケットの会場である有松天満社一帯もこの西エリアにあります。

歴史的なまち並みが今も残る有松/撮影:中村さん

── みなさんが有松会場の商店街オープンに参加したきっかけは?

藤井|2020-2021年度に参加していたまちづくりワークショップ「プレー!アリマツ」ではまちの未来を考えるという抽象的なストーリーが中心だったのですが、今回の商店街オープンでは具体的に動きそうな物件が出てきた!と心が踊りました。私も生活している有松でなにか面白いことができないかなと考えていたタイミングだったので、すぐに申し込みを決めました。

中村|私はinstagramの広告を見て参加を決めました。大学時代はまちづくりに関係する人文系のゼミに所属してたので、社会人になってから地域の魅力に興味が湧いてきました。まちの雰囲気を汲み取ったり、大事にしたい思いを引き継ぐ関わり方を考える中で、趣味のカメラを活かせるのかなと有松を参加エリアに選びました。

武馬|私と浅野くんは有松ですでに活動していることもありますが、やはり有松絞りまつり一極集中の状況や住宅地に再開発されてものづくり文化が途絶えてしまうかもしれない状況を変えたいという思いがありました。新しい価値観を受け入れつつ、現存の資産を活用するときに多様な参加者と出会いたいと思っていたこともあります。

参加者たちが出したたくさんのアイデアや妄想をマッピングしたシート
Aのハンドマークをするのが有松参加者、Uが内田橋のみなさん。一部例外もあり(笑)

── 多様な参加者という話が出ましたが、他にはどんな人たちが参加していたのでしょうか。

武馬|アリマツーケットにも参加してくれている飲食の方が2名、中村さん同様にまちづくりに興味をもっている方、有松周辺に縫製工場を持つブランドの方などがいました。

中村|商店街オープンのワークショップは1回目は皆でまち歩きをして、2回目からアイデアや妄想を議論していたのですが、「絞り」に関連して「体を絞るジム」とか「乳搾り」みたいな自由な発想が出てきたのか面白かったですね。どんな提案をしてもここでは大丈夫なんだという安心感にもつながりました。

藤井|3回目からなごのキャンパスに会場を移して議論していたときに、わたしも以前から興味のあった「文具」に話題が出てきましたよね。その時に「すごくおもしろくなるかも!」と期待していました。

武馬|その後に万年筆やノートづくりなどのワークショップに自主的に参加する人も出てきましたもんね。私たちも有松絞りで出る廃棄染料を使ってインクがつくれないか実験したのも楽しかったです。

インクの試し書きをする様子/撮影:中村さん

アイデアから事業案へと転換する小さな実験

── 多様な価値観から生まれたアイデアから事業へと収束する転換点があったんですね。本当に事業として継続できるかをどのように議論していったのでしょうか。

中村|文具の他に飲食店が人と出会うきっかけという話もありましたよね。有松でお惣菜屋があったらいいよねと話をした時に「11時にオープンするには朝6-7時から開店準備が必要」と聞き、現実的な課題に直面しました。私は飲食の経験がなかったので具体的な想像が難しかったけど、同じくキャプテンの市原正人さんや飲食店を実際に運営している人の話や収支計画は勉強になりました。 プロの目線はすごいなと感じました。

藤井|そうそう、素人の自分がどうしたらいいのだろうという壁にぶつかったときに、直接、お店に出向いて商品を見たり、すでに取り組んでいる人たちの話を聞いたことが次につながるきっかけになりました。

武馬|今回の商店街オープンには、過去の商店街オープンで実際にお店を出したりそのサポートをした先輩たちも「キャプテン」として参加しています。ファシリテーターのような存在でもあり、具体的に落とし込む際の相談役でもありました。有松チームには「かさでらのまち食堂」に携わられた建築家の宮本久美子さんが入っていて、部活のような活動として続けることもできるのかという助言をいただきました。そこで商品開発と肩肘をはらずに部活のような活動はどうかと宮本キャプテンの助言から文具+惣菜の「ぶんそう部」の提案につながりました。

最終的には私たちありまつ中心家守会社が建物を借りて運営をすることを決めました。文具だけでは限定的すぎるので、棚貸しをしてクリエイターさんの商品や惣菜と絡めて愛知県の調味料やお土産も一部扱うことを考えています。文具の取り組みは棚貸しに並ぶことやワークショップなどを実施することでまとめました。

使い込まれたイスと洗髪台/撮影:中村さん

── 事業性と関わり方の多様性がおもしろいですね。小さなスペースですがうまく使えるのでしょうか。

武馬|4-5回目のワークショップと個別のミーティングでは、空間の使い方についてだいぶ議論をしました。最初はそれぞれ個別に考えていたのですが、「ぶんそう部」のアイデアとともに、ハイブリッドする空間の使い方も模索するようになり、最終的に採用されました。

中村|セヴィラには懐かしさを感じる照明カバー、今では見ない装飾的な壁紙や男性のカットモデルの写真が並んでいたり、内装もとってもかわいいんです。それもどうにか残したいなってみんなで話をしていましたね。

藤井|昭和で時が止まっている空間そのものが価値ですよね。今では見たことない洗髪台とかも(笑)

武馬|入口の扉に貼ってある「セヴィラ」の切り文字も可愛いから、プロジェクト名も「シン・セヴィラ・プロジェクト」になったくらいですもんね!

中村|そうなんです。だから撮影した写真をレタッチするときにわざと色味を変えていて、青を水色っぽくしたり、黄色をオレンジっぽくしてみたり。クールなモダンな感じよりも暖かいほうが有松らしいのかなって思います。

玄関扉にある「セヴィラ」の文字/撮影:中村さん

展示や体験で得られた期待感

── 検討する中でお惣菜とお土産を扱うことを展示で発表していましたね。ご覧になられた方の反応はいかがだったのでしょうか。

武馬|展示はセヴィラではなく有松の中央エリアにある「ありまつ舎 通ぐ」で2月9―15日の期間でおこないました。有松・鳴海絞会館がそばにあるだけあって、わずか1週弱で150名近くの人が訪れてくれました。NO DETAIL IS SMALLさんとおこなったノートづくりのWSも当日参加が多かったのが印象です。来場者には好きなおにぎりの具のアンケートや味噌玉を使ったふるまい味噌汁の感想を聞いていました。

藤井|地元の友人・知人がSNSの投稿を見てふらっと来てくれたのがうれしかったです。どう伝えたらいいのかわからなかったところもあったのですが、パネルや模型を見て理解してくれたようです。武馬さんの味噌玉も好評でしたね!

中村|たまたま有松を訪れたであろう人が「有松に来たけどどこ行ったらいいんだろう」と話していたのが聞こえたので、展示を見てもらいながらお話をしました。お味噌汁が飲めたりおにぎりの絵本が置いてあったので、通行人にも声かけやすかったです。

武馬|そうですね。絵本を見て入ってきてくれる小さなお子さんのいるご家族も「お店ができたらおにぎり買いに行きます!」と楽しみにしてくれていたり、イベントをここでやりたいと声をかけてくれる方もいました。ここでできたつながりを活かしたら何ができるか本当に楽しみになりました。

展示模型では棚貸や飲食販売の雰囲気が伝わるような工夫も/撮影:中村さん

── 展示を見て、体験して、小さな空間から生まれる広がりに実感を持って応援してくれるということですね。3月5日は実際のセヴィラで再び展示とものづくりWSをおこなうんですよね。

武馬|実際にセヴィラを見てみたいという声や場所を知りたいという人がいたので、もしも店舗ができたら…という想定で企画しています。当日は模型とパネルは前回同様ですが、アンケート結果を踏まえて笠寺にある【稲肴小町(いなこまち)】さんに出店いただき、「噛めば噛むほど」美味しいおむすびを100個限定で販売予定です。

藤井|私はmuguet(ミュゲ)というアクセサリーブランドを立ち上げているのですが、セヴィラ内でオリジナルのアクセサリーづくりの体験をおこないます。また、もかもっこうさんは絞りの生地をつかったピンクッションづくりをおこないます。ぜひ遊びに来てもらいたいです!

中村|私はセヴィラや有松で記録した写真を展示します。賑わいのある1日になるといいですね!

全員|がんばりましょうー!


シン・セヴィラ・プロジェクトの最新情報はinstagramアカウントから


これからの展開に向けて

シン・セヴィラ・プロジェクト展示 in アリマツーケット

商店街オープンで検討してきた「シン・セヴィラ・プロジェクト」の対象物件で、1日限りの特別展示をおこないます。先日、開催したありまつ舎 通ぐでおこなったプロジェクト概要や会場模型の展示に加え、来場者におこなった「好きなおにぎりの具」アンケートの結果やものづくりワークショップもおこないます。同エリアの有松天満社一帯ではアリマツーケットが開催されていますので、ぜひそちらもお楽しみください。

日時|2023年3月5日[日] 10:00-16:00
会場|旧セヴィラ(祇園寺・有松幼稚園前)

ワークショップ概要

展示に合わせて会場内で2つのワークショップをおこないます。
予約不要、当日受付となります。

①muguet(ミュゲ)のアクセサリー作成ワークショップ
【世界にひとつだけのアクセサリーをつくろう】

シン・セヴィラ・プロジェクトの参加メンバーによる、真鍮・シルバーアクセサリーのお店。

◉華奢真鍮リング(1000円)
好きなかたちのリングを選んでいただいて、トントンカンカン。
好みの仕上がりにして、あなただけの世界にひとつだけのリングを作成できます。

◉ネックレス(1000円〜)
真鍮パーツか、お好きな天然石を選んでいただき、ネックレスに出来ます。

◎真鍮ネックレスのトップ(1000円)
切り出した真鍮パーツは、ひとつひとつ丁寧に手打ちしたもので、表情がそれぞれ違います。

◎天然石ネックレス(1300円〜)
※石によって値段が変わります。

②もかもっこうによる「ピンクッション」づくり

有松絞りなどから好きな布、木の形を選んで糸で塗っていき、ピンクッションを作っていきます。針刺し用の(針)特別な綿を使用するので、錆びにくく長く使えるようにしてあります。裏にはマグネットを入れ込んであるので、壁につけて可愛く安全に使うことも可能です。市販では無い形なので、好きな形を選んでください✨
初めてのワークショップ出店のため、『800円』で1つ作れます!


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