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舞台「刀剣乱舞/天伝・蒼空の兵ー大阪冬の陣ー」の、主にある一点に関する所感。

概要

大人気スマホゲーム原作の、いわゆる「2.5次元舞台」と分類されるもので、舞台の主人公たちはゲームの人気キャラクターがそのまま現実世界に現れた(まさに顕現)ような顔の造形といでたち。ばかりか、若き主演俳優陣はこの3時間半の舞台で、歌い・踊り・刀を使った殺陣も見事に魅せるのだから、わっちなんてもう手も足も出ないし頭も上がらないのでやんす。

この通称「刀ステ」はすでに数作が上演されており、毎公演プレミアチケット状態らしい。私は今回初観劇であったが、たいへん有意義な3時間半であった。めっちゃ楽しかったー!

会場となったIHIステージアラウンド(略称ステアラ)での観劇も初体験。
この劇場について簡単に説明を試みると、
ドーナツの穴部分に客席が設けられ、ドーナツの生地部分(円形)360°すべてがアクティングスペースとなっている。客席は景毎に回転し、いくつもの景・いくつもの美術を楽しめる。
たとえば作中で時間や空間を超越する展開があるなら、それをそのまま目で見て体験できるというメリットがあると思う。
(一般的な箱型の劇場では、具象美術の場合一つ以上の景色を作ることは物理的に難しい。よって演劇には抽象美術の有用性もあるけれど、抽象的な美術というのは、演出のアイディアや観客の想像力などに大きく頼ることになる)


つまり、ステアラとは、とにかくとてもとてつもなく贅沢な劇場なのだ。

登場人物

さて、刀ステの登場人物は、大きく〈2種類〉、と〈その他〉に分けられる。
1「刀剣男子」
原作ゲームに登場するキャラクター。歴史上に実在する「日本刀」の付喪神。「歴史を守る」ために戦っている。古来の日本には似つかわしくない見た目・恰好をしているので、ほんとうはとても目立つはず。刀でありつつ、剣の腕前も確か。刀剣男子が自ら刀を振り回して戦うのは、よくよく考えるとちょっと不思議。
2「歴史上人物」
実在した歴史上の人物。
その他
「歴史改変」を目論む時間遡行軍という組織のやつら、端的に言って敵。
そして各時代のモブたち。(演劇では「その他大勢」を何役も兼ねて演じてくれる方々をアンサンブルと呼びます)

学校の歴史の授業でも習うような歴史上のメジャーな出来事を下敷きにしているので物語はわかりやすいと思う。いわば「史実が原作」であるわけだから。
史実を生きる実在の歴史上人物のもとへ「歴史変えてやるー」という時間遡行軍が現れ、さらにそこに「歴史を守れー」ということで刀剣男子が現れて、歴史上の人物を巻き込みながらチャンバラする、というのが刀ステなのである。

今回も、数人の著名歴史上人物が登場した。
まず徳川家康、そして秀吉の息子・豊臣秀頼、その忠実な家臣・大野治長、そして真田信繁(またの名を幸村)や、信長に仕えていたとされる弥助という黒人など。
で、この記事は主に、今作における、真田信繁について、書くものである。
(以上長い前置きでした)

本題

なんせこの刀ステは現在絶賛上演中で、この後3月末まで公演があるし…私自身とても楽しい観劇だったので…無闇なネタバレはもちろん、とにかく作品を貶めるような書き方はしたくない……

のだが…

のだが……!!

この「天伝」において、真田信繁だけがまったくもって全然わからなかったので、それについて考察し、総括したいと思う。
(ネタバレを回避しつつがんばります!)

信繁のラストシーンは、たいへんエモーショナルで、照明・音響もこれでもかと引き立ててくれているのに、それを見る私の胸は極めて空虚だった………

「この信繁って人、最初から出ていたよね?なにしようとしてた人だっけ?どんな人だったっけ?」

…そんなこと、思いたくなかった。
観劇歴20余年、登場人物を見失うなんてあり得ないし、とても悲しいこと。

信繁は物語冒頭から主要人物として登場し、活躍している、はずなのだが、彼がこの劇中でなにをなそうとしていたか、私はまったく追えていなかったし、印象にも残っていなかった

(或いは、私にもっと歴史の知識が豊富で、作中で語られていない彼のバックボーンを知っていれば、多少印象は違ったのかもしれない。その不勉強さは素直に詫びたい。)なぜこんなことになってしまったのか…以下できるだけ簡潔に原因を考えた。

原因1:信繁の目的がわからない。

劇中で彼自身明言しているように、信繁は「豊臣秀頼を守ること」「生き延びること」を目的としている…には違いないのであろうが、いったいそのどちらが彼の本音〈より強い動機〉なのか?が判然としない。

原因2:信繁に刀剣男子が直接絡まない。

今作には、いくつかの「軸」となる物語があるが、その軸にはそれぞれ刀剣男子が関わっている。宿敵同士ともいえる因縁に導かれ死闘を繰り広げる者がいたり、刀剣男子の付喪神たる背景らしくかつての「持ち主」と纏わる由縁であったり。ところが信繁の周辺には、信繁の物語と深く関わる刀剣男子は存在しない。よって「信繁という軸」は観客からの注目度が低いのではと思われる。

原因3:信繁のラストシーンの直前にクソヘビーなシーンがある。

物語の後半は殺陣に次ぐ殺陣、無限炎天殺陣地獄が続くのだが、そのピークともいえるある死闘があり、その戦いの末に、今作における刀剣男子たちの物語はいったんの終点へたどり着く。そして信繁のラストシーンはその直後に描かれるので、どうしても蛇足感が否めない。

まとめ

というわけで、私は信繁という登場人物の「線」を追えず、「軸」を理解できないまま、大仰なラストシーンを向かえて、ポカンとしてしまったのだった。

信繁のラストの遠吠え…信繁の意図もシナリオの意図も湾曲して伝わってしまうのでは?とひたすら懸念している。もはや母の心。

役者の演じ方だとか、脚本の構成だとか、演出だとか、次回作への布石だとか、シーンの置き所とか、種々様々なことが複雑に絡み合って、信繁は今作の「穴」となってしまった気がする。そう考えるとなんなら彼は被害者。

こんなこと考察してるやつ、Twitterとかちょっと検索したくらいじゃ出てこねえので、各所に申し訳ないなと思いつつ、私なりに真剣に綴りました。

あれほどの大きなステージ、目まぐるしいテクニカルに飾り立てられながら、メインキャストたちの恩恵も得られない役…あのラストシーンを共感と感涙の嵐にするのは容易でないと思います。

…ではどう演じたらよかったのだろうか。

(真田信繁の役作り)

信繁の最後のセリフ…
信繁は「歴史」そのものに語りかけるのだ。
それは「信繁の意地」と「悲しいまでの明晰さ」から出た「最後の足掻き」であり「まさかの覚悟」であるはず…

時間遡行軍も刀剣男子も、なんの超常能力も持たない人間を翻弄してしまうという点では、ある意味等しく罪深い。
「未来の出来事」を知ってたり「歴史を変えられる」なんて、戦場を駆け天下人を目指し謀略を掛け合う武将たちにとっては、ただならぬこと。

信繁も、それら超常的存在の被害者であるからこそ「ただの人間として」、目的のため・未来のため、自分は今どう行動すべきか懸命に考え葛藤しながら生きていたはず。
徳川、豊臣、というドメジャー歴史人の狭間で、脳みそいっぱい使って手柄を挙げていた切れ者だったのではないか?であれば、その一挙手一投足にはもっと恐れや慎重さがあったはず。

ただの人間として、繊細に、慎重に、実直に、迷いながら、恐れながら、私なら彼を演じたい。

ステアラのバッキバキの照明・音響・映像効果の中であっても、生身の人間が持つ、「揺らぎ」…を表現することこそが、いちばん光るものだと私は信じている。それこそが、人間が人間を演じるJOYであり、観客は自分の葛藤を重ね合わせるから、胸を打たれるはずだから。


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