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天草鬼草子          (大阪谷六シアターOMさん用に 書いた脚本)

 

酒呑童子編 
登場人物

酒呑童子

一条天皇の世 大江山を根城にして都を襲い強奪を繰り返すと

恐れられている、鬼一族の頭 実は都に蔓延る。妖魔を人知れず退治して

貧困や病気で親を失った子供達を引き取り育てて居る。

都の公家の策略にはまり源頼光率いる妖怪退治のエキスパートに倒され

老坂峠に首を埋められた。茨木童子のおかげで復活すると同時に反魂術を身に付ける…

 

茨木童子

酒呑童子の首に呪術者や武芸者を倒し

集めた生気を集めまわっていた

酒呑童子の右腕的存在。全国を渡り歩き名の通った人間に勝負を挑み勝ったらその生気を奪い取っていた。その際、都の一条戻り橋で

渡辺綱に腕を切られるが後に取り返している。

それから江戸時代前期までひたすら生気集めを行い酒呑童子を蘇らせた。その際に不可思議な力まで会得させることになる。

 

現代 学園の理事長室 執務机に座る大きな体躯の男が一人昔話と称して語り始める所から始まる。 

 男

俺の一族は昔、今でいう西暦800年代だから

あれこれ千年以上も昔の事だ。

宮城(きゅうじょう)の有る都の外れの山、大枝山に居を構えを構えていたある血筋を持つもの、

都の者たちはその一族を鬼と呼んだ…

そんな事はどうでもよかった、俺は沢山の仲間と共に楽しく暮らしていた。

鬼1

「今日も都の公家どもからたんまり戴いて来てやったわ。」

鬼2

「若い女もさらってきてやったから選び放題じゃ。」

鬼3

「そう欲しいものが有れば都まで行ってひと暴れすると公家共は自分達の命が大事なんだろうな」

鬼2

「食べ物や酒、若い女を気味の悪い笑顔でにこにこしながら寄越しやがる。」

鬼3

「そのうち都の役人さえ俺達の言う事を聞かないものは居なくなった。」

鬼1,2,3、大声で笑う 周りの鬼たちはびっくりした表情で通り過ぎる。

鬼1

「しかしうちの親分はこの国で負け知らすの鬼神王だから、仕事がしやすいわ。」

鬼2

「まったくだ、酒呑童子様様だ。 

鬼1、鬼2、鬼3 笑う

「わはははは~~~」

鬼3

「人間なんてそんなもんさ。」

ふんと鼻を鳴らす。そこへ酒呑童子が子供を連れて歩いてくる。

鬼3

「お頭、えらく小さい獲物ですね。まさかお頭にそんな趣味があるなんて知らなかった。」

鬼1,2,3、笑う

酒呑童子、顔を真っ赤・・元々赤いのだか祖それ以上に赤くして。

「馬鹿たれ、たまたま都にぃった時に座敷牢に閉じ込められていたのを拾ってきただけだ。」

鬼1

「またお頭の気まぐれかぁ・・・しかしどうするおつもりで?」

酒呑童子

「そう言うな、なんかほっとけなくてよ。しばらくは山で育てて大きくなったらまた考える。」

鬼2

「お頭らしいや、こうやって人間の子の世話をしているのに公家共は俺たちが人を食うと風潮してやがる。」

鬼3

「昔は確かに食ったこともあるが人間なんて臭くて食えたもんじゃない。特に年寄りは。

イノシシやシカの方がよっぽどうまい。」

鬼1

「まったくだ。俺たち鬼は何気に美食家なんだよ、わかる?

確かに未だに人間を食ってる鬼もいるがな。」

鬼1.2.3 笑う

鬼2

「そういや最近都で妖がうろついているのをよく見る様になっちまったな。俺たちより奴らの方がよっぽどやばいぜ、まったく。」

 

そこへ茨木童子が見回りでやってくる。

茨木童子 

「お頭、お帰りで・・また小さな子供を・・

また酒呑童子は子供を喰うためにさらったって言われますよ。」

酒呑童子

「確かに鬼がまさか親なし子を育ててるなんて思いもしないだろうよ。」

呆れた顔で笑う茨木童子

「だいぶ都も荒れて来ているようですね。やはり妖の仕業ですか?」

酒呑童子

「ああ、以前は洛外だけだったが今は都の大通りにさえ屍骸が転がっているよ。」

茨木童子

「公家共はそれを他人顔で笑って居る。」

酒呑童子

「元々この都が出来る時にこの土地に住んでいた妖怪をえらい坊さんが…まぁ俺の元師匠の最澄法師なんだがある土地に封じ込めて三角形の位置に大きな岩を置いて封じ込めたんだが。」

鬼2

「お頭、そりゃまたすごい坊さんですな。」

茨木童子と鬼が感心したような顔をする。

酒呑童子

「真面目で融通が利かなかったが、面白い術を色々教えてもらったよ。まぁ

俺は酒におぼれて坊主に成れず身を崩して鬼に成っちまったんだがな。」

鬼3「で、そのお頭の師匠が押さえていたのがなぜ最近都に妖(あやかし)が現れる様に成っちまったんで?」

酒呑童子

「どうも俺達公家達の欲望に導かれて都に舞い戻って人間を襲っているらしい。」

鬼1

「公家共はそれを俺たちのせいにしていやがる。ふざけた野郎どもだ。」

鬼3

「奴らは手あたり次第何でも喰らいやがる。

小さな子供や赤ん坊迄な。」

鬼2

「こちらの食い扶持が減っちまうぜ、公家も妖もどちらも糞野郎だな。」

茨木童子

「挙げ句の果てに妖共は疫病を流行らせ苦しむ人間を見て弱った所を大笑いしながら食い殺していった。公家だけならまだしも幼い子供まで食い殺していたその所業にブチ切れたんだよ。」

その話を聞いて俺達は自然と都で妖怪共を刈る様に成った。

酒呑童子

「別に人間の為じゃねぇぞ。

俺達の縄張りを護る為と公家共からまた

せしめる為だ。」

鬼2

「食うだけならまだしも疫病を流行らしやがると、都が全滅する。国自体も傾くからなそうなるとこっちが食いぱぐれるから

困る訳よ。」

茨木童子

「前に都で仲間が妖の疫病に侵されちぃまったんだよ。鬼なら人間の疫病位じゃ死にゃしない」

だけどそいつはまだ完全な鬼に成ってなかったからなぁ。 所謂半成りっていう奴さ。」

酒呑童子

「俺ひとりならなんとでも生きていけるが

仲間が沢山居るしひとりじゃまだ食えない奴も居るからな。」

で俺たちは妖怪共を見つけては八つ裂きにしていった。

 

しかし妖の中に公家どもに取り入り朝廷の武将どもを使って邪魔な俺達を全滅させるために騙し討ちを食らわし山を襲いやがった。

なんでも源とか言う妖怪退治に長けた強えぇ武将に都を襲う鬼を仕留めよとの帝の命だったそうだ。

 

奴らはこの近くの山を修行しながら巡る山伏だと言っておった。

俺は最初怪しんだが、若い女を膾にしたと偽った造りと血の酒を出してやった

酒呑童子

「やはり人間の肉は若い女と赤子が一番良い

なんせ肉が柔らかいからな。ふふふ」、

山伏

「やはりさばいてすぐの肉は口の中にうまみが広がってたまりませんな。」

山伏一同 うなずく

そう言って奴らは嫌な顔一つせずに飲んで食いやがった。それを見て俺はすっかり騙された。

俺も気分が良くなっちまって調子に乗って飲みまくった。

そのまま不覚にも奴らの前で寝入ってしまったんだ。

いつもはこんな量では酔わんはずなんだが・・・なんかおかしいと思いつつも眠気に勝てなかった。

その間も奴らはギラギラした気を放っておlった。修行者特有のものだろうと。

皆が寝静まった時、奴らは山伏達も武将と成り、本性を見せて俺達を襲撃した。

源頼光

「我は帝より鬼神王酒呑童子を倒しに来た源頼光と申す。鬼どもよ覚悟せい!」

酒呑童子と頼光が戦うシーン

酒呑童子

「主に俺が倒せるのか? この鬼神王酒呑童子を!」

源頼光

「それはどうかな? 先ほどの酒がきいてきてるんじゃないか? 酒呑童子よ。」

酒呑童子

「何?・・・そういやさっき山伏の一人が持って来たあの酒かぁ!!

山伏が差し出したその酒を一口飲んでみる。なんと今まで呑んだ中で飛び抜けて旨いじゃないか。

俺は夢中に成ってその酒を飲みまくった。

その内いい気分に酔ってふらふらと立ち上がろうとした時、急激な目眩と身に痛みが走る

酒呑童子

「動かぬ・・・身体がうごかぬ」

図られたと気づいた時は遅かった。

 

どんどんひどくなる一方だ。びりびりと全身を包み込む感覚に襲われ息をするのも苦しい・・・

頼光が鎧を身に付け、もだえ苦しむ俺に近づいてきた。

源頼光

「ほほう流石の酒呑童子も動けぬか。ならば教えてやろう。これはなぁ神便鬼毒酒と言ってな、人間が呑むと体の底から力がみなぎるが、鬼が呑むとその特殊な力や体力を封じる力があるのだよ。」

 

俺は名前の通り酒を呑むのが大好きだ…それが今俺自身を窮地に追い込んでしまっている

周りでは仲間が斬り殺されていく。

子供たちも鬼の子として弄ばれながらなます斬りにされていた。

酒呑童子

「貴様ら!!許さんぞ、許さんぞ、この仕打ち必ず仕返ししてやるぞ。」

 

 

 

茨木童子は渡辺綱と戦っている

 

 

それぞれ名を挙げ仲間たちに飛びかかって来る。 源頼光と言う名の武者が頭領らしく他の四人、

(渡辺綱、坂田金時、碓井貞光、卜部季武)と共に都では妖魔退治の四天王として名が売れているらしい。

そう言えば都に妖怪退治をしている奴らが居ると聞いた事が有るがこいつらがそうだったのかと気づいた。

その頃には俺の身体は殆ど動かす事が出来なかった。

四天王達は周りの仲間を容赦無く切り捨てて行った。俺はそれを見て泣いた少しでも逃げてくれと願うしかなかった。

頭領の源頼光が鬼斬りの刀の間合いを計りながら近づいて来る。

俺が動けないと知ると太刀を振りかざし一太刀入れてきた。

少しずれて肩口に食い込んだのを見て

頼光の兜に牙を立ててかじりついてやった。 しかし奴には届かなかった…

頼光が言うには星兜と言う神々が与えた神力が備わった兜で酒呑童子の牙も届かぬ代物と聞かされ持参したと。

普通の兜なら俺の一かみで兜毎首を噛み切ってやれたものをと悔しさが

湧き上がって来た。四天王も周りを制圧したのか俺へ向かって来る。

外からは都の兵士も攻めて来ているらしい。 渡辺綱は弱って動けない俺を見て首級を取る事を進言した。

頼光は俺がどんな理由であれ都を荒らした罪は大きいと鬼斬の刀で

俺の首をはね、わざわざ大きな

首桶を持って来て詰め込んだ。

まだ意識は有る、周りを見渡す

仲間が倒れて朽ちている…

若い兵士が仲間だった死骸を嬉しそうに蹴り飛ばして居るので綱が咎めている。俺はどこへ連れて行かれるのだ…

山から流れ出る綺麗な川が血の色で

満ちて居る…魚はもう取れんのかなと

くだらない心配をしてしまった。

四人に担がれ、このまま都で皇子に逆らった馬鹿と笑われるのだろうか。

そう思うと俺は急に山から離れるのが怖くなった…離れたくない。

もうすぐ老いの坂の峠、ここを越えたら帰れなく成ると言う思いが俺に最後の力を出させた。首を重くしてやったのさ。急に腕に重みが掛かったのか

四天王達は首桶を落とした。

もう一度持ち上げようとしたが

ぴくりとも動かなかった。

熊と相撲を取って負け知らずの

足柄山の金太郎こと

坂田金時が渾身の力を入れて持ち上げようとしたが顔を真っ赤にしただけだった。

困り果てた四天王は源頼光に伝えると

都に不浄のものを入れるなとの掲示に違いないと街道筋の小さな山に

俺の首を五人掛かりで引きずって行く。

まだ意識がなまじ有るから笑えてくる。

そして頂上付近に着くと穴を掘り始める、俺の首を埋めるつもりだろうと

しばし首桶の隙間から見ていると

有る程度掘れたのか、桶を引っ張ってそのまま穴の中へ転がり入れよった。

そのまま桶ごと埋めてしまうつもり

らしい。もう少し丁寧に扱っても罰は当たらんと思うが仕方ない。

今の俺には何も出来んので

深い眠りに着く事にした。

あれから何年、いや何十年経ったのか

開いた目に茨木が映る。

あの山の戦から上手く逃げおおせて

奴らを着けて俺の首の在処を

突き止めてくれたとの事だ。

首から上に御利益が有る神社として

人間に参らせその気力を注がせて居たと。しかしそれでは到底足らないので

全国を周り高名な術者を倒して

験力を奪って俺に注いでくれていたらしい。中には名前だけのいかさま野郎も居たらしく苦労したと笑ってみせた。

俺が眠って居る間に人間に復讐しようと一条に有るボロボロの橋で通りかかる人間を襲って居たら山に攻め込んで来た武者の一人がやって来たので

美女に化けて食ってやろうとしたが正体がばれて片腕を斬り落とされたらしい。

そのままでは悔しいので母親に化けて数か月かけてその武者の家に通って取り戻してやったそうだ。

なんとも茨木らしい…そんな面白い話を聞いていたら酒が飲みたく成ったのでポツリと呟くと

もうすぐ身体も復活しますからそれまでは我慢なされと茨木が微笑んだ・・・季節的にも良い水と米が取れる季節になりますゆえにと。

そんな奴の言葉が染みたのでもう少し我慢する事にした。奴らが山から去った後、茨木が掘り返して術式を掛け

正しい形に埋め直してくれたのも効いて居るのだ。

生き物は土から生まれ土に帰る

鬼は有る一定の条件下で竜脈に近い場所に埋めて貰うとその地の力を借り、失った身体を再生する事が出来るのだ。

もう2、3年もしたら元に戻れる・・・それまでは仮初めの平和を味わうが良い…人間共よ。

再び鬼の力見せつけてやる。 

 

それから数年後俺は鬼の特性を生かしなおかつ人間を始末できる方法を思いついたのだ。

世界の紛争地域に鬼の血を持つ者たちを派遣し人間どおしの争いを大きくしてやる事にした。

 

あれから数百年

老いの坂峠 大枝山の里の一角 

小さな山が異様な気を巻き散らしてる。

里のものは酒呑童子の首塚と呼び、なんでも首から上の病に効くと言われ

大事に祀り上げていた。

 

夜も更けて月も出ていない深夜

その祠近く 二人の鬼が岩に腰を掛け語らって居る。

濃い蒼色の空にたまにきらりと星が光る。

 

ナレーション

 

あれから俺は数百年眠り続けた。少し残った妖力を茨木の運んでくれた精気で満たし完璧な身体で蘇った。流石に首からだと手間が掛かる。しかし面白い事も有った。どこかの術師の能力だろう、

知らぬ間に反魂の能力を身に付けていた。

 

「暗転からスポットで岩に腰を掛ける二人を浮かび上がらせる。

バックはちらちらと星のような光の演出を。」

 

虫の鳴く声が小さく流れている。それ以外は殆ど何も聞こえない。

 

茨木童子が立ち上がりセリフ

 

茨木童子

「この国は都以外は疫病や争いの火種が未だに消えてませぬ…

人間共は相変わらず醜い争いばかりで

代わり映えしませんな…」

茨木童子はゆっくりと空を見上げ呟き

そのまま目線を酒呑童子に向けた。

 

酒呑童子 肩をゆっくり回しながら茨木童子の話に相槌を打っている。

 

茨木童子

「しかし集めた術師の中にその様な能力を持つ者が居ったとは

つゆ知らず…」

 

酒呑童子、座ったままで茨木童子に向かいセリフを言う。

 

酒呑童子

「人間共は我等鬼を化け物だのなんだのと言いやがるが

奴らの方が余程野蛮だとワシは思って居る…

あないに小さき子らをもワシと居たばかりに鬼と決め付け皆斬り殺して仕舞いよった…奴らの方がよほどわしらより鬼じゃ。」

 

酒呑童子はその目に涙を浮かべ呟く

そのまま元のいたずらっ子のような顔をして茨木童子に向き直り

「しかしこの反魂術はなかなかワシを楽しませてくれそうな代物だぞ。茨木よ…」

この先 2人芝居が続く 出演者は二人だけなので

掛け合いに成る。呼吸は合わせてセリフはゆっくりめに…

茨木童子

「酒呑様、はてはまた何か企んで居られますな…」

 

茨木童子にやりと酒呑童子に笑みを返す。

 

酒呑童子

「まぁな人間共に一泡吹かせてやろうかと思っては居る…」

酒呑童子もにやりと返す。

 

酒呑童子

「そう言えばあれから何年程経って居るのじゃ?

周りもすっかり変わってしまって居るようじゃ…」

 

茨木童子

「あれから数年後にこの地に酒呑童子様の首が有ると周りの村の人間共がこの周りに祠を立てて奉り上げて居ります。何でも首から上の病に良く効くそうで。」

酒呑童子

「ワシにそんな力が有ったかのう?」

酒呑童子が苦笑いしながら頭を捻る。

 

茨木童子

「もしかしたら私が注いで居た力が少し漏れ出して居たので

それが人間共にも良い効果を与えていたのかも知れませんね。

まぁそれで追随を逃れで尚且つ安全に休息出来たから良しとしておきましょう。」

酒呑童子はうむうむと頷きながら

ごそごそと懐から

酒杯と酒の入った徳利を出した。

 

茨木童子

「いつの間にそんな物を…ほほう濁り酒ですか。」

茨木童子も酒呑童子に負けず劣らず酒が好きなのである。

 

酒呑童子

「そこの祠に備えて有ったのでな…まぁ祭神はわしだから

呑んでもバチは当たるまい。さぁお前も呑め。」

 

酒呑童子は酒杯に並々と濁り酒を注ぐと一つを茨木に渡した。

 

茨木童子

「確かに…米だけの濁り酒とはまた上等で粋なお供えですね…」

 

酒呑童子

「安物だとここの神様は罰を当てるでな。

わははは

ほれスルメもあるぞ。 これをちょいちょいと割いて

軽く炙れば旨い酒の宛に成る。」

 

ナレーション

そう言うと酒呑童子は割いた

スルメを見つめる…

目の色が金色に変わると

スルメからうっすら煙が立ち

程よく焼けたうまそうな

匂いがして来た。

 

茨木童子

「スルメを焼くのに眼力を お使いとは参りました…」

茨木は思わず笑ってしまった。

 

酒呑童子

「さぁ、食え。これを宛てに

これからの事を色々考えながら呑もう。良い知恵が浮かぶかも知れんぞ。」

 

茨木童子

「ですね…これからは今までみたいに山賊の真似事では無く我々にしか出来ない事を商いにするようにと思ってます。人間の世界に噛み付くのは古いです‥逆に利用してやる位で無いと。」

 

酒呑童子

「そうだな…

これからの世はそれが一番

良いかも知れん。奴らに出来ないが我々には出来る事を…」

 

茨木童子

「先ずは実験的に誰かを反魂術で蘇らせてみるのも一興かと。」

 

酒呑童子

「なるほど…そういえば

今、天草の方で偉く派手に

人間共が殺し合いをしているらしいな。そこで誰か適当に

やってみるのも良いな。」

 

ナレーション

徳利の酒が無くなると

酒呑童子は

どこからともなく酒瓶を持ち出してきた。封も開いていない一升瓶だ。

 

茨木童子

「それは名案。出来れば優れた才能を持つ者が良いかと。」

 

茨木は酒呑童子の酒杯に

置いてある一升瓶から並々と注いだ。

 

酒呑童子

「聞いた所に寄ると一揆の頭はまだうら若い少年らしいなぁ‥もし天草で奴の躯が居れば良いがのぉ。」と一気に飲み干す。

 

茨木童子

「ほほう その小僧はして名はなんと申すのですか?」

 

酒呑童子

「天草四郎時貞と言う武家の息子らしい 

なんでも豊臣の血を引くと言われて居る…だから徳川は必死で潰そうとしとる。それを蘇らせると面白い事に成ると思わんか?」

 

酒呑童子はスルメをその牙で引き裂きながら食った。

遠くからでもわかるように大袈裟に。

 

茨木童子

「それは面白き事、ついでに腕の立つ輩を数人蘇らせるのも良いですな。」

 

酒呑童子

「徳川からしたら、倒した奴がまた攻めて来るのは

とんでもなく恐怖だろう。伴天連の神を信じておるらしいから余計にな。」

 

酒呑童子飲みながら続ける。

「負け戦なら四郎自身も神に裏切られたって気持ちが強く残るだろうから

その時の力を利用して一緒に蘇らせた奴らと共に

鬼として暴れさせて朝廷と幕府に一泡吹かせてやるも一興よ。」

 

茨木童子

「なるほど…若いのは血の気が多いからどこかで抜かさねば成りませんからね…

戦場なら奴らも大して怪我もしないでしょうから。」

 

酒呑童子

「幾末は奴らに気兼ねなく暴れられる場所を与えてやらんといかんし

出来ればそれを商いに出来ないかと知恵を絞って居る所でな。」

 

茨木童子

「なるほど…一石二鳥ですな。これから先も人間共は争いを止める事は先ず無いですからね。それを商いに出来れば…」

 

酒呑童子

「先ずは試しに天草へ行こうと思う。戦場(いくさば)だから、色々試せる。」

 

酒呑童子はにやにやしながら酒をあおりながら呟いた。

茨木童子もその話を聞いて、にやついている。

 

茨木童子

「では、もう少し呑んで朝から向かいましょう

少しでも早い方が良いでしょうから」

 

そう言うと残った酒を注ぎ入れ、

酒呑童子と茨木童子はその酒杯をぐいっと飲み干した。

 

ナレーション

この後、二人の鬼は天草の地に向かい、天草四郎と言う少年武士と

運命的な出会いをする。そして過去編へ続く

天草鬼草紙-鬼血脈-

登場人物

天草四郎時貞 (18)

島原の乱で一揆軍の大将に担ぎ上げられた少年。

豊臣秀頼の息子、秀綱 一揆鎮圧後首を跳ねられたが

はじめは鬼として酒呑童子に蘇らせてもらったが、鬼の気が強すぎて

一時期 世を乱れさそうとする鬼と化した。

途中で師匠に出会い心を入れ替え、酒呑童子を倒すと誓い京都に向かう

ただ自分自身も鬼を斬る事で鬼として生き長らえる事ができるという

皮肉な運命を持つため、鬼を全滅させると自然と自分も滅される事となる。

ひたすら宿敵 酒呑童子と茨木童子

妖術師 滝夜叉姫を倒すべく戦法鬼、護法鬼と共に旅をする…

 

戦法鬼(35)

元は天草四郎の師匠の師匠の式神

今は四郎に使役されている。

大刀を使い鬼を完全に滅する事が出来る。

 

護法鬼(30)

戦法鬼と同じく師匠の式神

冷静な判断で戦うタイプ で二股の槍を使う。

 

師匠(65)

若い頃から色々な東洋呪術を研究していた呪術師

主に呪法と式神を使って戦う。四郎の師匠。

鬼退治をする四郎のサポートを行うが…

 

酒呑童子 (50)

多大な妖力を持ち、鬼を紛争地域に派遣し裏で世界を操るファクサー

それと同時に日本の妖魔を支配し軍団を作り上げた鬼の王

人間の精気を吸い取るだけでなく血肉も食べる事で

その能力を高めて居るが特に若い女性を好む。

妖怪の血を啜り自分の精気を入れる事で傀儡(くぐつ)とする能力が有る。

力を持つものを鬼として蘇らせる力を持つ。

 

茨木童子(35)

元は人間だったが酒呑童子に気に入られ、

鬼と成って人間を襲う。平安時代に渡辺綱に腕を斬られた後も

人間に紛れ都に住み時より人を襲って居た。

老坂の首に封じられた酒呑童子の首に精気を与えを蘇らせた。

鬼としての戦闘力は高く、妖魔ごときは片手で粉砕する。

現在も酒呑童子の片腕として働く。

 

瀧夜叉姫(25)

平将門公の娘

父が倒された恨みで京都貴船の神に鬼に成るように願い出て

呪術を使い都を地獄に変えようと酒呑童子の傘下に入った。

鬼道を使い他の鬼と化した女を使役し、四郎達を襲う。男に裏切られた女房の怨念を利用してがしゃどくろを造り

四郎達を襲う。

金剛童子(?)

酒呑童子の鬼の王の座を狙う。 その為にどんなきたない手も使う。

ずる賢く、役に立ちそうな人間には愛想がよいが使いものにならないとわかると簡単に切り離す。 常は酒呑童子の配下に居て様子をうかがっている。

大獄丸

酒呑童子と敵対する鬼の一族の頭 酒呑童子の持つ鬼の王の印 

二天の剣を狙う。  妖魔や自分につく鬼を使い人間世界を支配しようとする

金剛童子を裏切らせた張本人。

高丸

大獄丸の片腕  酒呑童子の王の座を奪おうと画策する。 

紅葉(くれは)

信濃を支配する女の鬼 子が出来ない両親が仏さまに願い出て生まれた子

酒呑童子に惚れたが人とは付き合えんと言われ、自ら鬼となった。

鈴鹿御前

鈴鹿峠を統括する 女鬼の棟梁 酒呑童子とは協力関係を結んでいる。

鈴鹿姫とも呼ばれ 第六天魔王の娘とも呼ばれる。 見た目は18歳前後に見える。

坂上田村麻呂や田村の将軍とも結ばれたとの伝説有り。

 

あらすじは プロット参照

天草おとぎ鬼草子 過去編

1  週末の駅裏 午後9時ごろ

〇 現代  夜 21時頃 街灯もあまり無い暗い駅裏の線路沿いの小道。

道の提示版に犯罪防止と痴漢注意のポスター 

 

プロローグ

駅を降りた時はたくさんの人でごった返していたが

駅の街灯の切れかかった裏通りから横へ入ると殆ど人は居なくなっている。

アパートへ向かう道は赤い月の光だけがゆるりゆるりと照らしている。

空には普段では有り得ない真っ赤な月が浮かんでいる…

月明かりだけの暗い裏通りが目の前に続く。

 

駅裏の線路沿いの街灯がぱちぱちと言いながら着き始める。

柔らかい光に染まる赤い空の隙間から見え隠れする雲の隙間に

蜻蛉のような月がぼんやりと見えかくれしている。

季節は丁度冬季の始めに差し掛かる時期、空気が冷たく

凛とした感覚を皮膚に伝える。

酔っぱらった合コン帰りのOL 紺色のパンツスーツ姿でよろよろと歩いている。

呑み足らなかったのか缶ビールと乾きものをコンビニの袋に入れてぶら下げている

OL

「せっかく気分よく飲んで帰って来たのに醒めちゃったよ・・

せっかくの合コンの途中でめんどくさいメールよこすなっての・・・。マジに腹立つわ。」

どうも元カレからの愚痴メールのようだ。

ぶつぶつと言いながら自宅への道をふらふらと歩いている。

OL

「しかし、舞子のやつも、なんか腹立つ・・・

人から彼氏奪っておいて浮気まがいって信じられない!!」

どうもこのOLは同僚に自分の彼氏を奪われたようだった。

その彼氏が浮気されたとメールをよこしたようだ、

OL

「しかし今日の合コン、まともなのが一人のいなかったなぁ。。。

ほんと男運悪いわ、あたし。」

急に冬特有の冷たい風がOLを襲う。

「さむっ!急に寒くなると色々困るんだよね…

昼間はまだ暖かいのに夜になると急に冷えるのは反則だっ!ばかやろー」

ぶつぶつ言いながら歩いている。酔った上で怒っているから顔が真っ赤を通り越して赤黒くなっている。

 

 

OL

「よし!気分直しに帰ってがっつり飲みなおしだ!」

そう言ってから元気で歩くOL

そんなOLの後を追うように様子をうかがいながら少し赤く見える

影がいつの間にか着いてきていた。OLは全く気付かない。

しばらく着いてきて来ていた影がふと消えた。

異様な雰囲気に気づいたのか後を振りかえる

OL

 「誰かいるの?? 辞めてよね・・・そんな気分じゃないのよ。」

しばらくその場でじっとしていたが返事もないし何も起こらない。

OL

普段なら走って逃げるところなのだがお酒が入って居たので

強気に成っていたOLは

気配のあった方へ顔を向けながら勢いで言い放った。

OL

「誰? 今はそんな気分じゃないのよ。

 

「なんだ見間違いか・・・」

少し残念そうに月の光が映し出す自分の影に向かってつぶやいて

一人で納得したのか。そのまままたゆらゆらと歩き始める。

すると先程の影が横からするりと現れ

OLの前に回り込んでゆらりと揺れて浮かんでいる。先程のゆらゆらしていた影がいつの間にか、若い男になっている。

男の声

「こんばんは・・・今日は月がきれいですね。まるで血のように真っ赤だ。」 

OLはびっくりしたような顔で立ち止まり、ゆっくりと確認する様に男の顔を見た。

顔つきは中性ぽいのか色白でぱっと見が女性のようにも見える

瞳が宝石のように赤く濡れそぼっていて

女のOLが見てもすごく色っぽい。そのうち彼にひき込めれている自分が居た。

男はにやりとした笑顔を浮かべながら此方にゆっくりと来る。

影男

「こんな時間にどうされました?」

OL

 

OLがなにか言おうとした時、男は笑顔から急に鋭い目をしてOLを抱き寄せて

か細い手をゆっくり巻き付けるかのようにまわすと、いい香りの息のする唇をOLの首筋に

近付けてきた。

 

OL

「痛い・・・」その言葉を発した後、すぐに恍惚の表情を浮かべ男に寄り掛かった。

男はにやけながらOLの身体をぎゅと抱きしめる。

OLは生気を失う様に意識が薄れていく・・・

ふわっと深く酔いが回ったような感覚を感じるほどの

気持ちよさが全身を包み込んだ…

男はその身体を抱きしめながら彼女の耳に男は優しく囁いた。

影男

「おやすみなさい・・・いい夢を永遠に。」

しばらくして男はゆっくりと首筋から口元を離した。

男のその口には鋭い牙が生えており。その先端から青白く光る液体が糸を引いている

影男「中々の上者だ、この女。くくくく・・・」

この鬼は女から生気を吸い取って居たのである。

鬼には上級、中級、下級と居り、上級は生き物から直接生気を啜る。中級は生きた生き物の血肉を食らい生気を吸い取る。下級は死肉を貪り食らうのである。

最近の女性ばかりを襲う連続殺人鬼は本当の鬼であった。

 

翌朝 午前6時半 

駅裏の路地に犬の散歩をさせていた若い女性から

通報を受けた警察が実況見聞を行っていた。 

警官A

「第一発見者の女性によると散歩中に連れていた犬が急におびえて座り込んだのでまえを見てみると大きなごみが落ちていると思って近づくとミイラ化した人の遺体を発見したとのことです。」

警官B

「おいこれを見ろ・・・首筋に何かで穿った跡が残ってる。そういや隣の管轄で

多発している若い女性を襲う妖魔の事件があったな。まさかそれなのか?

写真を送って問い合わせをしてみてくれないか?」

警官A

「了解しました。しかしここまでミイラ化させるとは。。まるで枯れ木のようだ。」

警官B

「それとこの数日に起こった関連の資料もあれば確認させてもらえるように

伝えておいてくれ。」

警官A

「その旨、伝えておきます。」

警官Aは顔をしかめながらその場で乾いた枯れ木のような女性の遺体写真を

数枚撮り、隣の担当部署へ送信した。

 

2  肥後 天草 原城 

その壱

ナレーター

〇 寛永十五年の冬 天草 原城跡

島原藩、天草の領主の過重な年貢と飢饉による多数の餓死者、キリスト教弾圧

などに農民達が一人の若者を大将に反乱を起こした。

スペイン、ポルトガルの軍勢が来ると信じ

約4ヵ月戦い抜いたが、飢えと疲弊で幕府軍に攻め込まれ全滅した。

 

舞台のバックは真っ赤な赤色たまに黄色い光線を入れる

PAは風の音をちいさく鳴らして響いている演出。 

足元にはスモークで煙を演出

シーン状況説明

所謂島原の乱と呼ばれた一揆した農民達の死骸が

城の至る所に転がって居る

その周りは未だ戦いの後の火が立ち上っている。 

城と呼べるものの残骸や瓦礫の柱などがくすぶっている。

天草四郎の視線に切り替わる

血生臭い風が顔を撫でる

そっと顔を上げると右も左も今まで人で有ったモノが

まるで敷物の如くあっちこっちに転がって居た。有るものは首から上が無いモノ、

腕が無いモノ、人の形をしていないモノ…

大きな岩に押しつぶされた子供達、腰から下が無い若い女達…

焼け焦げた旗にすがりつく人だったモノ。・・・

周りで音が聞こえる。(何かが燃えるようなぱちぱちとした音。)

天草の乱のシーンは 四郎はうなだれたまま動かずに・・・ 

四郎 (M)声だけを流す

「自分の中に後悔と言う言葉しか浮かんでこない。

自分を神の子と信じていた愚かなわたしの滑稽な事よ。」

四郎は苦笑する自分の目の前の惨状が夢であってくれと心から願った。

四郎(M)

「神を信じる仲間たちによい暮らしをさせてやりたくて戦ったのに、

俺は、なんてことをしてしまったのか!

神の子と呼ばれた俺を信じて着いてきてくれた仲間たちを

無駄にその命を散らせてしまうようなことをしてしまった。。。

地獄に落ちてなお果たせぬ罪深き所業を犯してしまった。」

四郎は自分を慕って戦ってくれた仲間が

次々と無残に倒されていくのを目にしていくにつれ、神への信仰心に

疑いを持ち始めてしまい、攻めてくる数万人もの

幕府軍に抵抗する気力も無くしてしまった。力なく放心状態のところを

幕府軍に捕まった俺は他の皆より一段高い場所に居る事に気づく。

そう幕府軍は俺を捕まえこの愚かな行為をあざ笑うため

仲間の屍骸の前に晒されて居るのだ。

美男子と言われた俺の顔にはひたいからほほに掛けてざっくりと

大きな刀傷が走り、首には半分斬りこまれた傷、

身体には数本の槍や刀が刺さったまま、

ぼろぼろの廃材で作られた十字架に手足に釘でうちこまれて磔にされていた。

ときより吹く風が俺の無残な姿をあざ笑うかのように揺らしていた。

 

本当は武士として斬首刑にされるところを幕府は武士と認めず、

美少年と言われた天草四郎が醜く朽ち果てるまで晒しておくという

武士に取って侮辱的な刑を俺に与えた。

生臭い風に乗って仲間たちの悲鳴が戦場に響くような気がした。

そこへ大声で話しながら幕府の足軽数人が歩いてやってくる。奴らは上司に報告するためと

仲間の首を積み重ねた首塚に異常がないか定期的に確認するために見に来るのだ。

幕府軍 足軽1

「これがあの天草四郎時貞か・・・まだ若造じゃねぇか、首実験はすんだのか?」

足軽2

「お偉いさんは顔がわからんからと、実の母親に首実験をさせたらしいぞ。

母親は涙を流しながら名前を読んでいたらしいから本人とされたらしいぞ。」

足軽3

「親不孝な息子だな・・・いくら神様の言うことだからって親を泣かしちゃいけねぇな。」

足軽2

「ほうよ、素直に親孝行してりゃよかったのに 一揆なんか起こして無力な百姓を先導して全滅させちまったんだよな。」

足軽1

「なんでも穴を掘って死骸をほうりこんでその上におおきな石を落としたらしいからな、なんかのまじないかなにかかは知らんけどな。」

足軽1

「そりゃついていった者はたまらんな。骨も砕けて成仏もできやしねぇ・・

親分は首級の山の大将になっちまってるがな・・」

足軽2

「しかし今回の一揆騒動はえらく幕府が必死につぶしにかかっていたなぁ・・・

なんか俺たちの知らない裏があるんじゃねぇか?」

足軽3

「なんでも豊臣がどうのとかうちの大将がぐちぐち言ってたなぁ・・・豊臣の生きのこりがいるから殺さねばならぬって」

足軽1

「そりゃ相当やばい話かもしれんな・・・俺たちはかかわり持たん方がいいな。」

足軽全員

「確かに なんでも噂によるとその死骸に触るとえらい祟りを食らうって噂だぜ。

ほんと、くわばら、くわばら・・・」

足軽たちは青い顔をしながらその場を去っていく。

誰もいなくなった首塚の前 百姓と幕府の足軽たちの死骸で埋め尽くされた

本丸あたり  足軽の話を聞いていた四郎がつぶやく

四郎(M)

「確かに奴らの言う通りかもしれん。しかしあの時みな城を建てるためとかけられた重税にあえいで食べ物もろくに食べられず、死んでいった。

俺はそんな姿をみていられなかったんだ・・」

四郎は目から涙を流す

四郎(M)

「しかし豊臣の末裔とは誰のことだ・・・仲間にはいなかったと思うが。まさか俺のことなのか・・・確かに出どころのわからぬ護身刀を持ってはいるが」

それより不思議なのは首級になっても意識があるのはなぜだ・・・もう死んでいるはずなのに。」

これも神の力か悪魔のいたずらか、どちらにしろ俺にとってこれほどつらいものはない。」

四郎(M)

「今更だが、あの時何故神はお助けに成らなんだ。何故神の軍隊は来られなかった?

何故に我らに勝利をもたらさなんだ? この戦いが間違いであったというのか・・・

それとも神は我らを見離したのか…否神はもうおらぬのかもしれぬ。」

四郎は神を恨めしく思った。

四郎は天に向かって問いかけたが、冷たい雨が降ってきただけだった。

その目に映る光景を自分の目なのに瞑る事さえ許されず、自分の口なのに叫びたくとも叫ぶ事すら出来ぬ、

自分の無力さに打ちのめされ、ただそこにあるだけだった。

四郎はただそこにたたずむだけしか出来なかった。

その時 頭に直接響くような声が聞こえてくる。

謎の声

「四郎よ、天草四郎時貞よ…われの声が聞こえるか?聞こえたら返事をせよ。」

その時、血生臭い風に乗って俺を呼ぶ声がした。

謎の声

「四郎、果たしてお前の戦いは正しかったのか?否、お前は神の教えを信じたばかりに大罪を犯した。その罪はこの先何千年経とうが背負わなければならない。少しでもその重圧から解放されたいのならば、我らの先兵に成れ。」

四郎(M)

「笑わせる・・・ こんなぼろぼろのゴミ同然の躯に成った俺に何が出来ようか?

手一つ伸ばせず仲間達が朽ちて行く様を見続ける事しか出来ぬ俺に・・・」

 

謎の声

「なぜおまえは首のままでも意識があるのか考えてみよ。

答えは簡単だ、我が妖力のおかげだからだ。」

四郎(M)

「なぜにこのような仕打ちを? 素直に死なせてくれればもっと楽になれたものを」

悔しさから見開いた目に細く赤い血が苦笑した顔に流れ出る。

酒呑童子

「悔しいであろう…口惜しいであろう…

四郎…天草四郎よ。わが名をを呼べ!  酒呑童子と。

さすれば貴様を鬼としてもう一度この世に呼び戻してやろうぞ…」

その声は優しくも血なまぐささを漂わせるが今の四郎には魅力的に聞こえる。

四郎(M)

「それはお主の下部と成れという事か・・神とも悪魔とも知れぬお前に?」

酒呑童子は嫌らしい笑みを浮かべ四郎を一瞥する。

酒呑童子

「お主のようにこの世に恨みが有るであろう?恨みを晴らしたいであろう?

それをかなえさせてやる為に蘇らせてやろうと言うて居るのじゃ。」

酒呑童子はニヤリとした顔を四郎に向ける。

 

酒呑童子

「そしてわしと共にこの世を鬼の世界にしようではないか。人間共に復讐しようではないか。」

四郎(M)

「何故俺を誘う。ただ恨みを晴らすことだけではなかろう。これでも一度は神に仕えた者、その魂胆が見えぬうちは乗れぬ。」

酒呑童子

「実はわしも昔一族をあらぬ疑いで滅ぼされたことがあってのぉ・・・都で親に捨てられた小さき子らもたくさん居った。本当にわしによくなついてくれていた。

そんな子らも奴らはわしと一緒という理由だけで容赦なく鬼子と呼んで

斬り捨てよった。あの時の流した涙は今でも忘れん。」

酒呑童子はゆったりと目の前に広がる無数の骸を見て悲しいい顔付きで

四郎を見て言う。

酒呑童子

「お前もそうであろう? 大事な仲間をゴミ屑のように斬り捨てられ、自分もまたそのような姿で人目に晒されておる。」

酒呑童子はその大きな目を見開きながら四郎を見る。

その迫力ある顔つきに少し悲しげな表情が見え隠れする。

酒呑童子

「わしも最後は首級をはねられ、都でさらし者になるところだった、そこを最後の妖力で、ある峠に自分の首を縛り付けたのだ。」

四郎は静かに聞いている。

酒呑童子

「その峠に縛りついて待ち続けた・・・それを何百年もかかって茨木が蘇らせてくれたのだよ。 奴は自ら傷つきながらも全国の武者や術者に挑み倒し妖力を奪っていった。それを俺に少しづつ注ぎ込んでくれてな・・今じゃ元も姿に戻った。

その中の術者に反魂術を持つものが居ってな。

それを同じ境遇のやつを探してつこうてみようと思ってな。

それが四郎、おまえじゃ、お前に試してみようと思って京からここまで来た。」

そういうと酒呑童子は懐から何かを取り出した。

酒呑童子

「これは鬼心反魂酒と言ってな…

普通の反魂酒とは違い、鬼が不死身に成れる酒だ。

これにわしの気を練り込んである。今からこの酒を飲ませてやる…

ただし人間が使えば死ぬほどの苦しみと全身の痛みがおまえを襲う事になる。

しかしそれを耐え抜けばわしと同等の鬼の力を身に付けて蘇る事が出来る。

だがもしその苦しみと痛みに耐えられなければ溶けて水となろうぞ。」

四郎

「一度朽ち果てたこの身、もう恐れるものは何もない」

苦笑いしながら四郎は答えた。

酒呑童子

「どうだ四郎 試してみるか?鬼となって復讐するかそれともそのまま朽ち果てるか。おまえが決めよ。」

四郎(M)

「奴らを倒せるなら地獄の苦しみさえ耐えてみせる。たとえ鬼になろうともな。

そしてこの世の妖魔、鬼を殲滅してやろうぞ。」

酒呑童子

「ふん 良い覚悟だ、さすがはあれだけの軍勢を指揮しただけある。

酒呑童子は大きくうなづきながら、四郎に血鬼反魂酒をゆっくりと飲ませた。

途端に苦しみだす 四郎  

 

酒呑童子

「四郎よ、楽しみに待って居るぞ。そして再びわしの目の前に現れてみよ。 その時

我は鬼の王となってお前の前に姿を現すであろう。その時はおまえが我を倒すのだ。よいか、天草四郎時貞よ。」

酒呑童子は霧のように消えて行った。

四郎

「必ずや蘇ってみせる…たとえ鬼になろうとも、そして酒呑童子、お前の前に立ちはだかってみせる。」

 

しとしとと降る雨の中、四郎は天に誓う。それにこたえるように

四郎の身体に青白い一筋の雷が落ちた

3  海上の船

穏やかな波に揺られ

酒呑童子と茨木童子が都へ向かう船に乗り込んでいる。

茨城童子

「天草四郎は蘇る事が出来るでしょうか? 見た目はまだまだ小姓のように見えましたが・・・」

酒呑童子は海を見ながら酒を飲んでいる、

茨城童子

「酒呑童子様 あんなに焚き付ければ本当に奴はわれらの命を狙うやもしれませんな・・・それはそれで面白い事になるでしょうが。」

酒呑童子

「そうしてまでも蘇らせんといかんのだ。これからのわしには奴の力が不可欠なのだよ。 誰の手助けもされずに鬼と成った天草四郎がな。」

暗転

 

4  幕末の京都 三条大橋のたもと

情景設定

 紺色のライトに月が浮かぶ

それから幾百年…

幕末の京都  討幕の嵐が吹く都に一人の洋装の侍が現れる

幕府側、勤労志士に関係なく鬼の気を背負ったものを容赦なく斬り捨てていた。

京の人々は噂した、「京の都に鬼を斬るモノ有り、名を天草四郎と言う。

傍らに式神 鬼を滅する刀を持つ鬼と二股の二天の槍を持つ鬼を連れて

今日も人を食い殺す鬼どもを狩りに来る・・・と」

時代は幕末期 幕府を守ろうとする人鬼とそれを倒そうとする人鬼。疑われれば仲間

で有ろうが斬り殺される時代、酒呑童子にとってこれほど好ましい時代は無い。それ

ほど日常に殺戮と策略が飛び交って居た。 

 

ナレーター

時たま首が疼く時が有るがそんな時に限ってその夜は、血生臭い夢をみる…

俺はどこかの大将で負け戦をしたらしく部下が全滅している。しかも正式な兵では無いのか武器もまともに揃って居ない。相手は数も此方より数十倍多い上に連戦の強者ばかりだった…俺は捕まり首を跳ねられ、異常に迫力のある鬼に何かを飲まされ苦しみでもがいているところで目が覚める。

何時見ても気分の良い物では無い。

戦法鬼

「四郎、汗びっしりじゃねえか。また昔の夢を見たのか、戦の夢ほど嫌なものはないな。」

戦法鬼とは俺の師匠の元式神で

今は俺に仕えてくれている。

大刀を使い鬼を完全に滅する事が出来る。

体術も得意で昔はどこかの名のはせた武将だったらしい。

護法鬼

「とにかく汗を拭かないと風邪を引くぞ…鬼が出てきても戦えんぞ。」

護法鬼が布地の切れ端をくれた。俺はそれを受け取り冷や汗をふいた。

毎回ながら冷たい汗と脂の中に血の匂いが混ざり合ったような汗だ。

護法鬼とは

戦法鬼と同じく師匠の元式神

冷静な判断で戦うタイプ で二股の槍を使う。

彼も元どこかの武将だったらしい。

戦法鬼と護法鬼は元々俺の師匠が使役していた式神で、鬼と戦うならと俺が術式と共に継いだのだ。

師匠

「四郎、その夢はお前の消えかけた記憶がよみがえりつつあるのかも知れんなぁ。」

師匠は若い頃は相当な術師だったらしく俺に呪術と体術の修行をつける為に一緒に旅をしているが色々と口うるさい。 年も数えるのが嫌になるくらい取っている。

幕末京都 今日も暗い街かどで暗殺や謀殺が行われているであろう。

午前3時 三条大橋の袂、月がねっとりとした黄色に見える。

戦法鬼

「しかしこれだけ毎日そこら中で殺し合いしていると、どれが鬼の仕業が

わかりゃしねえな。俺は幕府だが志士だが鬼なら斬るだけだがな。」

護法鬼

「確かに…これじゃ平安以上に物騒な街になっちまってる。町の人たちも安心してくらせんだろうな。さっさとけりをつけてもらわんとこっちがやりにくくてたまらん。」

四郎

「この荒れた時代も戦を起こしたい奴らをうまく使って鬼が仕掛けたのかもしれん、そういうところは茨木が長けている。」

それに答えるように少し血なまぐさい生暖かい嫌な風が吹いて来た。

戦法鬼

「そういや噂でこの先の山に

毎夜、妖(あやかし)が出て人を襲って喰い殺すと鬼が出るって町のやつらが話していたのを聞いたぞ 四郎。」

 

師匠

「奴らは自分の糧に無差別に人を食うために襲うからな・・。一度襲われた人は使役鬼にされ使い捨て去れよる。」

戦法鬼

「町の者が言うにはなんでも女の妖(あやかし)と言っていた。大きな妖魔を使うそうだ。」

四郎

「もしかしたら鬼どもの館になってるかも知れない。行ってみる価値あるな。」

握る拳に力が入る。

護法鬼

「此処からだとそう遠くも無い…しかしあそこは由緒有る神社が有るはずだが。」

師匠

「何故妖(あやかし)が湧いて居るのか、もしや結界が緩んで来て居るのか、そいつらを捕まえて色々聞いてみるのも良いかも知れん。」

四郎

「しかしあの神社は昔から節分などで鬼祓いの儀式を行われている筈だが…

もしかして、この戦乱で出来ずにいて結界が破られているのかも知れない。そういう土地は結界がないと奴らの力をためる絶好のばしょだからな。」

遠くにその山が見えているが、ぼんやり赤黒い光がチラチラと

光っておるが 神域には到底見えない。 ときより怪しい雲がゆらゆらと揺れている。

師匠

「どちらにしても、一度行かねば成らんよのぅ、鬼の巣窟には間違いなさそうじゃ。」

と腕を組みながら呟いた。

護法鬼

立ち上がりながらつぶやく 

「行きますか…吉田神社へ」

戦法鬼

「そうだな…このままだと日本中が鬼に支配される。それに神域を汚す鬼どもを倒しにいかんと。」

四郎

「奴らに繋がろうが繋がらんだろうが鬼は倒すべき相手…行こう。」

 

3人はそのまま鴨川沿いを上り、今は魔が住み着くと言われる

京都で唯一の断層で出来た山、吉田山へ向かった。

鴨川から一条通りを東側へ向かうと街並みの中にまるで闇に巻かれたような

妖が蠢いて居るように見える。時々唸り声のような声が響いて居た…

5  吉田神社 境内  夜 

参道に続く道 気配を消しながら歩き進める4人

あちこちから瘴気と獣の臭いが立ち込めている。

たまに人間らしきものの残骸が落ちているのを野犬が食い散らかしている。

ナレーター

昔神域とされ都の人々からも敬われた土地がどろどろの

鬼どもの気配に満ち溢れている。

戦法鬼

「奴らの臭いがする。妖(あやかし)と鬼の臭いが…まったくいつ嗅いでも嫌なにおいだ。」と牙を剥いて呟いた。

護法鬼

「神聖なる土地とは思えん…これが日本の都とはな・・・まるで地獄のようだ。」

護法鬼はいらつきを隠しながら呟く。

師匠

「神社があったとは思えん程の瘴気に満ち溢れてる・・・なんとも言えん気持ち悪さだ。」

四郎

「俺にも解る位、ドロドロした感覚が伝わって来る…血なまぐさい臭いと人の脂の臭い。それに重なって人の悲しさと怒りが混じり合っている。」

そんな悪意に満ちた空気感の満ち溢れた参道を進み石造りの

大きな鳥居を潜り抜けた。

そこから先は普通の人なら気が狂い鬼に成りたくなる程の瘴気と獣の臭いが

参道の周りから染み出てくるように思えた。

歩みを 一歩進む度にそれをひしひしと感じ取れる…

鳥居をくぐり山の上にある拝殿に進むと脇から人の型をした黒い靄が這い出て

こちらへ向かってくる。

山などで人を襲った鬼が正にこの靄のような鬼なのである。

師匠

「食われた人達が鬼の使役にされた姿じゃ…このままじゃ成仏も出来ずに

使い捨てられて朽ちていくだけじゃ。」

彼等は喰われながら妖気を浴びて傀儡として操られ最後は霧となって朽ち果てる。

護法鬼

「やつらどれだけの人を食ったんだ?

どんどん這い出てきやがる…これは相当骨が折れるぞ。」

戦法鬼

「参拝にきて鬼に食われたなんて洒落に成らんな。・・・これは斬って浄化させてやるしか道は無い。」

戦法鬼は大きなギラギラした刀を抜くと靄の中に突っ込んで行く。

護法鬼

「仏のご加護を・・与えたまえ!」と護法鬼も二天の槍を振りかざし後に続く。

戦法鬼と護法鬼は気の鎧を身にまとい靄を防ぎながら斬り進んでいく。

斬られた靄は明るく光り天に登って行くのである。

師匠

「霞のうちならば斬られても、また生き物に生まれ変わることができるじゃろうて,ただし鬼と成ったものはあの世をその魂が消え去るまでさまよ続けなくて成らん。」

 

四郎 

天草家に代々伝わる宝剣を取り出す。

四郎は代々家に伝わる刀をゆっくりと引き抜いた。

通常の刀より幅の太い刃が斬ると骨まで食い込むといわれた刀

骨食藤四郎(ほねはみとうしろう)である。

先祖の形見と聞いていた。刃渡りが太く飾り彫りがしてあった…

四郎の持つ一振りは

 

千八百六十八年に再興された京都豊国神社に納められている名刀である。刀は真打ちと影打ちと二本打つのだが

四郎の持つ藤四郎は影打ちだが、沢山の武将や戦を潜り抜けて来た名刀。

元元は長刀として粟田口で打たれたのだが長年の砥ぎにより少し短く普通の大刀より刃幅が太く感じる故扱いにくく、猛者でないと自分を斬りつけてしまう。

 

四郎は武将の子である。たとえ見た目は女性らしく見えようが刀の振るい方なぞは小さい頃より繰り返してきた。しかも鬼になってから数万の鬼を切り伏せてきたのだ。

 

靄と化した人々にゆっくりと歩み寄り、舞うかの様に

一人、一人を斬り伏せて行く、斬られた靄も蒼い光に成り天に帰る。

四郎

「これだけ斬っても目の前の瘴気はまだ晴れぬのは、鬼の居る証…」

瘴気に塗れた参道に沸く靄を斬り伏せながら進む

ようやく靄が切れると今度は醜い鬼達が両脇の参道からわらわら湧いて来た。

こいつ等はひとを酷たらしく食い荒らす、

それが例え生きていようが死んでいようが…

特に生きたままを好む習性が有るので食われた人々は次々と靄と成り

人々をおびき寄せる為に鬼たちに使役される。

四郎

「このままだと都に入り込んでいくだろうそうなる前にこの地獄絵図を止めて見せる。」

四郎は華麗に踊るかの如く鬼たちをも斬り裂いていく。

戦法鬼

「この刀が有ればこいつ等など敵では無い。見事切り伏せ天に返して見せおうぞ。」

護法鬼

「この鬼共は欲を満たす事は無い。このままだと都に入り込んで、

人々を喰らい尽くすだろう。それを止めるは我々也」

この二人も四郎と共に鬼と長年戦ってきた。

人を食らった鬼はその罪の深さで斬られると靄のように天には帰れず、

黒々しい土に成りはて二度と蘇る事は無い。

斬り伏せながら進む一行の目の前に大きな変わった拝殿が見えてきた。

その前では数人の女房の姿が見えた。

6   拝殿前

ご神木が見える拝殿前の広場

 

目の前に沸く小鬼どもをひたすら斬り伏せて狂い踊りしている女房へ一歩、一歩と近づいていく。

女房達が生前着ていた派手な着物をはだけながら周りにまとわりつく小鬼を食らっている。

その中心で高笑いする一回り大きく見える女房が居る。

戦法鬼

「周りの女房とは違う、どこぞの女房どのか。美しくはあるが黒々しい妖気を感じる。」

護法鬼

「いくら見た目は美しくとも、その身からの魔の臭い湧き上がっているわ。」

師匠

「父の仇を打たんと

都に鬼を放ち人々を食らせ地獄絵図を描いた、

彼女こそ憎しみにて鬼となりしもの、

平将門が娘、滝夜叉姫…」

四郎 

「父親の仇を打たんと貴船の神に願い出て数日山の木を帯びた水脈の水を浴び続け

妖術遣いの鬼神と成り居った女。」

その妖艶な踊りと裏腹に底に潜む闇の深さに肌寒いものを感じていた。

そう話している間にも三人を包む瘴気が膨らんで赤黒く光り出す。その瘴気が

一つの塊になると中から大きな目がぎょろりと周りを見渡すそして小鬼達を見つけると

塊の中から何本もの手を伸ばし、小鬼達を容赦なく掴み掛かりがつがつと頭から喰らいだした。子鬼たちは逃げ惑うがその腕の速さに追いつかれ見る見るうちに食いつくされていった

師匠

「凄まじい瘴気を放っておる! 

もしかしてきゃつらは何かに変化しようとしているのかもしれん!」

瀧夜叉姫はその様子を見てニヤニヤとしている…美人だが

今はその顔が憎らしく思える。

まるで仲間をも食い物にするあの鬼の王と呼ばれた酒呑童子を彷彿とさせる

笑いを満面に浮かべている。その笑みを見るや四郎の目が鋭く変わる。 

全身を震わせながら、うなりを上げるその口から牙が生え爪が鋭く伸びていき

瞳が黄金に変わり鬼の姿に変化していく。

四郎は変化しながら呪文のような言葉をつぶやきながら滝夜叉をにらむ。

四郎

「鬼は我が敵、鬼は我が糧、鬼は我が身なり…故に滅すべし。」

四郎はゆっくり中段に構えを取って鬼の女房へと歩を進めていく。 

戦法鬼が横目で鬼と変化していく四郎を見つめながら。

護法鬼

「まずい・・・四郎が鬼の瞳をしている。このままじゃ本物の鬼になる。」

護法鬼が慌てるように四郎の後を追う。

師匠

「瘴気で悪鬼だった昔の記憶が蘇ってきておるのじゃ。

下手したら四郎自体が敵になるやもしれん。」

師匠は昔の四郎が鬼と成って暴れていた時を知っている。

戦法鬼

「ちっ なんとか成らないのか?…奴が鬼に成って暴れ出したら手が付けられん。」

焦りが3人を襲う。

護法鬼

「神仏も酷な事をする…こんな時に心に宿る鬼を出して来るとは…。」

師匠

「これも定めなのかもしれん。四郎次第で神にも鬼にも成る。鬼としての宿命よ。」

師匠は苦々しい表情で言う。

 

戦法鬼

「それでも止めなければならん。」

護法鬼

「同じく 奴は仲間だ 何とかするのが俺たちの役目」

 

そうしているうちにも四郎は黄金の鬼の瞳をぎらつかせ

踊り狂う女房達に向かっていく。

その女房達を守ろうと自らが食われながらも鬼達はわらわらと

飛び付きその鋭い牙で四郎に噛みついてくる。

四郎は獣のように唸りながら変化した鋭い爪の生えた手で鬼を裂きながらはがしていく。 足元には鬼の屍骸である黒ぐろしい土の塊がそこら中に出来ていく。

戦法鬼

「花のような秀頼殿を鬼の真田が連れて退きも退たり鹿児島へ」

昔の記憶を思い出したかのように歌を口ずさみながら刀を構え掛かってくる鬼どもを斬っていく。

護法鬼

「左右衛門左殿の童歌か…懐かしい。」

にやりと口元に浮かべ槍で鬼どもをなぎ倒していく。

戦法鬼

「なぁに 昔に良く口ずさんだ歌でな。わしの唯一の思い出よ。 」

二人は女房達に迫る四郎の後方を守る為鬼の塊に向かって行った。

 

6 死闘編

唸るような咆哮を上げて四郎は周りに絡みつく鬼を斬り伏せていく。

見る見るうちに四郎が真っ赤に染まっていく。

周りの鬼を掴んで喰らいながら女房達は四郎の太刀を長い尖った爪で

掴み取る。

その間も女房達は鬼を喰らう度にその身をうねらせよじりながら恍惚の表情を浮かべる。

師匠

「瀧夜叉姫め、あの女房達でがしゃを造るつもりじゃな、面白きことを。」

師匠はまるで他人事のようにつぶやく。

その女房達に戦法鬼が上から太刀を喰らわすが

跳ね返された。四郎が掴まれた刀を身を捻りながら横から力込めて振り抜いた。

すると一人の女房の首が飛んだ。護法鬼がそのすきをついて

低い位置から槍で薙いだ。

戦法鬼も刀で女房をなでる様に斬り裂く。

袈裟斬りと言うには少し違うが確実に一人の女房を二つにした。

瀧夜叉姫はその姿を見ると、残った女房を招き抱き寄せると印を結び

呪文を唱える……

滝夜叉姫

「たった三人でここまでやるとは見事じゃ…じゃがこの先我が隷に主達はどう戦う?」

そう言うと抱かれた女房は先ほど斬られた女房達に腕を伸ばして掴み取ると

喰らい始める…瀧夜叉姫はその残った女房に再び呪文を唱え始める。

女房は己を守るべくが如く、瘴気を再び撒き始める。

残った女房はバキバキと音を立てながらその身体を膨らせて行く。

着物が裂け肌が露わに成るが膨らみ続けると肌が裂け落ちていく。

中から骨が見え始めると瀧夜叉姫は

胸から一つの鈴を出し振り鳴らしながら一段と大きく呪文を唱えた。

滝夜叉姫

「ふるべ、ふるべゆらり・・ゆらりとふるべ・・・ひと、ふた、み、よ、いつ、む、なな、や、ここの、たり、」

滝夜叉姫はひたすら呪(しゅ)を唱えながら鈴を振り続ける。

師匠

「ぬ・・・古神道の御霊振りの法か。

滝夜叉姫

「我は命ずる。がしゃどくろよ、いでよ わが前にいでたまえ…」

女房達の身体が原型をとどめなくなるほど膨らんでいき巨大で真っ赤などくろ姿に成った。

元々は朽ち果てた人々の怨念が凝り固まって骸骨姿に成って人を襲う妖怪だが、

瀧夜叉姫は巨大な怨念を持つ女房達を依代にして大きなどくろの化け物を造りだしたのだ。

滝夜叉姫

「我が隷、がしゃどくろじゃ…倒せるものならばやってみよ。」

そのがしゃどくろは優に山一つ分位有る程の瘴気がうねうねと巻きつけ まるで蛇を纏って居るように見えた。

戦法鬼

「なんと・・・でかい化け物をだして来たな・・・滝夜叉姫。」

がしゃどくろは交互にその腕を伸ばし、戦法鬼と護法鬼を鋭い指先で

刺し貫こうとする。その度に爆音と共に地面に大きな穴が開く。

その穴から、がらがらと音を立てて魑魅魍魎が這い出して来る。

それをがしゃどくろはむしゃむしゃと大きな顎を動かし

食いだし飲み込む。その度に赤黒く鈍く光る。

護法鬼

「這い出て来た魑魅魍魎を食って自分の力を高めていやがる。」

がしゃどくろはゆっくりとその身を起こしぎしぎしと関節を鳴らしながら近づいてくる。

戦法鬼

「奴の弱点は右目の中にある霊(たま)、何かの本で読んだことが有る・・・」

見るとがしゃどくろの奴の弱点と言われる右目がぎょろりとこちらをにらみつけて来る。肋骨の間から胸の辺りに動く肉塊が微かに見える・・・奴の心臓らしい。

 

護法鬼

「あそこまで一気に上がるか、奴を屈ませて潜り込むか…」

護法鬼が低い体制から構えを取るが鬼どもが邪魔をしてくる。

戦法鬼

「ふん」

大きく振り被ると目の前の鬼どもを切り倒して行きながら、がしゃどくろの弱点へ攻める道を模索する。

その間も周りの魑魅魍魎を食らい続けるがしゃどくろが、メリメリと音を立てて

もがきながら上半身が3つに分かれていきそれぞれ腕が生えた姿で

こちらを攻撃してくる。

護法鬼

「弱点が分かれた・・・どれが本物なんだ?」

戦法鬼

「ちっ、めんどくせぇ・・・完全体の阿修羅型に変わりやがった。」

がしゃどくろの攻撃を避けながら弱点を探す。

護法鬼はその動きから左側の右目がわずかに明滅しているのに気づく。

護法鬼

「もしかして・・・」

師匠

「こりゃまたえらいモノに変えよったな…わしも見たことは無い。」

無意識で斬りかかろうとする四郎にがしゃどくろが払いのける様に腕を振った。

飛ばされた四郎は拝殿前にあるご神木に激突した。

ゆるりと身を起こし四郎は鬼の瞳のまま自意識を取り戻した。

戦法鬼と護法鬼は近づこうとするが四郎は制止し、ご神木を支えに立ち上がる。

思い切り身体をぶつけたのか息苦しそうにしている。

四郎

「奴はもうすでにがしゃどくろですら無い…怨念の塊だ…完全に滅する他に手はない。」

師匠

「あの姿にされた女房殿が不憫過ぎるよのぉ。」

四郎

「戦法鬼と護法鬼は左右の脚を薙ぎ払え、俺がそのまま飛びついて潜り込む。」

四郎が念ずると持っている刀が蒼い光を帯び出す。

戦法鬼、護法鬼も同じく念ずると赤い光を帯びだした。

戦法鬼

「鬼を滅するが為、天草四郎が式神、戦法鬼参る!」

護法鬼

「同じく護法鬼、この世の悪しき鬼払い申す!」

戦法鬼と護法鬼は左右に分かれ

がしゃどくろの左右6本の腕から繰り出す攻撃を身を翻し交わしながら上手く間合いを計り足元に近づいていく。

戦法鬼が大きく下方から跳ね上げる様に刀を斬りつけると

左足首をはらい斬った。

護法鬼が強く踏み込んで右側を上から斜めに斬りながら差し貫いた。

がしゃどくろはゆっくりと前かがみになる。

四郎はその隙間から本体の中に潜り込み一気に上へ向かって走り出す。

内側から心臓に斬り付けるとがしゃどくろが苦しそうに叫び声をあげる。

そのまま骨の隙間に足を掛けて一気に頭蓋へ潜り込むと

護法鬼が言っていた明滅している左目を逆手で斬り裂いた。

がしゃどくろは苦しみ叫びながらぶれた映像のように

もがき苦しみながら三人の女房の姿に分裂しながら崩れ倒れた。

がしゃどくろ(三人の女房)

「くやしや、かなしや、くやしや、かなしや…くるしや・・・うらめしや・・・」

そう言いながらどんどんと崩れ落ちる様にしてその姿が消えて行った。

滝夜叉姫

「我が隷が、がしゃどくろを倒すとは、流石、神に選ばれたを持つ者よ。」

四郎

「神に選ばれたか・・・今は鬼と化したモノ、鬼の王を倒すまでは倒れるわけにはいかない。」

四郎の目がますます黄金に光りだす。

滝夜叉姫

「そうかお主、今は鬼を倒す鬼だったな。天草四郎時貞」

四郎

「この世の全ての鬼族を滅する事が、同じ鬼としての能力を身に付けたモノとして

蘇った俺の役目」

滝夜叉姫

「その能力も鬼族を倒し続ける事でその命をつなぎとめる事が出来る。酷だな。」

四郎

「それがあの原城で犯した俺の大罪の贖罪と成るのもまた運命よ。」

戦法鬼

「我らは瀧夜叉姫、鬼を操るぬしを滅する為に今此処に居る。」

滝夜叉姫

「久しいのぉ…そのような事を言うてくれる輩は。」

瀧夜叉姫は笑いながらゆっくりと此方へ歩いて来る。

四郎は戦法鬼と護法鬼を手で合図し後ろに引かせて1人で前に出る。

戦法鬼、護法鬼

「四郎 滝夜叉姫の呪術に気を付けろ。」

四郎

「瀧夜叉姫よ、お前の中の鬼を滅するが為立ち向かう者の名は天草四郎時貞。覚えておくがいい。」

滝夜叉姫

「天草四郎 伴天連の命(めい)で己を信じた者共の魂を迷わせた愚か者

それに加えて自ら鬼と成り運命を狂わされたものよ。哀れよのぉ」

四郎はふと口元に笑みを浮かべる。

四郎

「残念ながら神を信じた天草四郎は死んだ。今の俺は鬼を食い殺す鬼。神の加護など受ける気は無い。」

そう言うと刀をゆっくり下段に構えると低い姿勢で瀧夜叉姫に向かって行く

戦法鬼と護法鬼は四郎の背中を守っている。

四郎

「改めて言う、 瀧夜叉姫わが刀で滅するが良い。」

滝夜叉姫

「ほほう・・・ゆうたな。主のその覚悟我に見せておくれ。貴様の鬼としての覚悟をな。」

瀧夜叉姫も両手に刀を持ち、四郎へ向かって来る。 砂埃を舞上げ2人は火花を散らしながら刀を交えた。

瀧夜叉はゆるりと四郎の太刀を交わしながら、身に隠した鬼の牙を暗器のように飛ばすと四郎に数百本ほど刺さる。

四郎の身体から力が抜けていく。

滝夜叉姫

「ぬかったな・・・その牙はおぬしの気力を吸い取り続けてやがて枯れさせる。」

四郎はその牙を手で抜き去りながら滝夜叉姫に向かっていく。

四郎

「滝夜叉よ。それくらいで絶えるようなら酒呑童子は倒せん。」

ぎりぎりの間合いに近づくと

四郎はそのまま低い姿勢から瀧夜叉姫へ胴払いを入れる。

刃が食い込むのを手に感じ黒々しい血潮が吹き出す。

滝夜叉姫

「四郎 我も鬼、貴様も鬼。まだ倒れるわけにはいかぬのじゃ。」

余裕の有った瀧夜叉姫の顔が歪む。

四郎はそのまま返した刀で肩口に撃ち込む。

瀧夜叉姫は近づいた四郎を抱き寄せ先程の鬼牙を近距離で四郎に撃ち込んだ。

四郎 小さく呻く。

四郎の口から血が吹き出したが気力は切れなかった。

四郎と滝夜叉姫の戦闘シーン

刀と刀がぶつかり合い火花と血しぶきが飛び交う。

四郎は前へ大きく一歩踏み込んで再び一太刀を浴びせようと刀を持ち上げ

刃を瀧夜叉へ浴びせようとした時 滝夜叉姫が後ろを凝視した瞬間、

ギラリとした日本刀の刃が二人の身体を貫いいた。

その後ろには師匠がにやりとした顔つきで立っていた

四郎

「師匠・・・何を」

(何事かと驚いた表情を見せながら。)

滝夜叉姫と四郎が抱き合った形で縫い合わされたようになっている。

師匠

「すまんのぉ…四郎。大獄丸様の命は逆らえんのじゃ。」

四郎

「大嶽丸だと・・・酒呑童子と並ぶ東国の鬼神王か・・・戦法鬼、」護法鬼!」

四郎が呼んでみたが返事はない。

師匠

「きゃつらは元の姿にもどってもろた。邪魔なんでな」

師匠は後ろ手で呪を唱えると2人の式神は親神木に打ち付けられたまま小さな紙人形に姿を変え紙屑のように散り散りに虚しく風に舞っていた。

式神

「四郎・・・すまん」

 

滝夜叉姫

「大獄丸とは誰じゃ!そのものの命とは、なんじゃ!、貴様は誰じゃ!」

師匠

「瀧夜叉姫、おぬしは良くやった。

大獄丸様の代わりに誉めてやろう。こうして鬼の天敵、天草四郎を仕留める事が出来たのじゃからなぁ。これで大獄丸様の宿敵たる酒呑童子を追い込むことが出来るわ。」

四郎はこの師匠に化けた鬼を見つめた。

金剛童子

「儂は大獄丸の使いの金剛童子じゃ。鬼の純粋な一族よ。」

四郎は苦しみながら金剛童子に尋ねる。

四郎

「師匠はどうした? 生きているのか?」

金剛童子

「あのじいさんか…色々と面白い術を使って居ったが、所詮儂の敵では無かったのう。 最後は紙のごとく引き裂いてやったわ…わははははは。」

四郎

「貴様・・・わが師匠を、許せん。」

四郎は吐くようにつぶやく

金剛童子

「そんな姿でわしにどうしようというのだ。笑わせてくれるわ。」

金剛童子は余裕をかました笑みで二人をあざ笑う。

四郎

「滝夜叉姫 すまぬ。この刀を抜いてくれぬか。」

滝夜叉姫はゆっくりとうなずき四郎の背中に刺さった日本刀に手を伸ばし

一気に引き抜いた。

瀧夜叉姫が苦痛で顔を歪めながら、四郎に相槌を送る。

四郎

「有難う、あの金剛童子を倒してくる、しばらく此処に居ててくれ。」

そう言うと振り返り、刀に呪を唱え始める。その幅広い刀身が二股に分かれ

分かれた刃から怪しい蒼い光が噴水のように吹き上がる。

四郎の身体がミシミシと音を立てて大きくなり口から牙が生え

黒々とした体の鬼神と変化した。 その姿になった四郎の口から

酒呑童子が金剛童子に話しかけた。

酒呑童子の声

「金剛童子よ、 この事はきっちり型をつけに行く、それまで大獄丸に逃げるなよと伝えておけ。」

金剛童子

「酒呑童子か・・・焦らずとも早いうちに大獄丸様がおまえの根城を攻めに行かれるわ。その前に景気づけに四郎を手土産にさせてもらう。」

酒呑童子

「面白い、やれるものならやってみよ。 出来ればだがな。」

金剛童子

「ほほう なんとこの儂や大嶽丸様が出来損ないの小童に舞えるというか? ははは」

酒呑童子

「ならば試してみるがよい、わが魂と同じ鬼の気を持つ天草四郎時貞に。」

金剛童子

「四郎も哀れよのう。酒呑童子に、たばかられ

そんな醜い姿に成ってまでこの世に復習したいと見える。」

天草四郎

「構わぬ。 たとえこの身が鬼と成ろうとも貴様のような卑怯な鬼を滅せるならば我は本望。」

金剛童子

「笑わせるわ。もともと人間であったまがい物風情が抜かしよるわ。よく見てみるが好いわ。

お前の姿こそお前の嫌う鬼の姿そのものじゃ。」

天草四郎

「そうだ、俺は鬼を食らう為に敢えて鬼に自ら其の身を変えた。しかし心までは鬼にはなって居らん。」

金剛童子

「しゃらくさいことをのうのうと。。。」

そういうと金剛童子もめりめりと音を立て表面に細かな日々が入り、鬼の肌が見え一気に外殻部分を飛ばすと本来の鬼の姿に成った。

重そうな一歩をG踏み込み、岩石の様な手に握った大きな刀を振りかざし、身軽に四郎の左手に回り込み飛びかかって来た。

四郎は素早く下がりながら隙をついて前に出ると

右手に避けながら金剛童子の肩口を横から斬りつけた。

金剛童子は必死で跳び下がるが

白い刃が肩口からざっくりと切り裂かれ血と肉が飛び散る。

金剛童子

「ぐごぉ・・・傷口が塞がらん、なぜ塞がらんのだ。 まさか、その刀 二天の剣かっ!

!!」

通常の刀ならば傷口が直ぐに塞がるのだが、四郎の刃は鬼の力を封じる呪が

掛かっている鬼の王だけが持つ、二天の剣と呼ばれる刀である。

四郎はもう一太刀反対側の肩口から腹にかけて刃を通し右足を払い倒す。

気絶しそうに成る金剛童子が体を入れ替えて体を

立て直そうとするが、四郎はよろけた金剛童子に

渾身の蹴りを腹に蹴り入れ空へと突き上げて空中に浮かばせ

落ちてくるところを二天の剣で七つに斬り裂く…

鬼の王の刀はこの卑怯な鬼を蘇る事を許さずただの躯にしてしまった。

四郎は動かない金剛童子を認めると鬼の姿のまま瀧夜叉姫に近付くき

優しくゆっくりと抱き寄せた。

四郎

「滝夜叉姫・・・」

滝夜叉姫はそっと目を開けた。

滝夜叉姫

「愚かよのぉ、父の仇が討てると言われあの者の言うがままにしてきたが結局たばかられていただけとは‥情けなや。」

四郎

「あまり話すな。気を送り込んでいるからしばらくは痛みが残るだろうが、鬼ならこの位の傷なぞ直ぐに治るはずだ。」

滝夜叉姫

「四郎 すまぬ、我は鬼では無いのじゃ…鬼に成り切れなんだ、なまなりなんじゃ。だから本物の鬼のようにはいかぬ。」

滝夜叉姫ははらはらと涙をこぼす。

四郎

「なにか方法がないのか? 俺は戦う呪法しか知らないのだ。」

焦りながら必死に何とかしようとする。 

滝夜叉姫

「だろうな・・多分今世はもうこの身体は持たぬ。

だがある方法で救うてくれるなら魂は助かる。そうすれば生まれ変わる事が出来る。」

四郎

「ならばこの場で瀧夜叉姫、ぬしとの呪法をやってみよう

どうせ俺もこの身はもう持たぬ…俺自体は鬼を倒すまで何度も蘇ってしまうが

いつか出会う事があると信じて…」

滝夜叉姫

「出来るのか・・・」

滝夜叉姫は不安そうに見るが四郎の決意は変わらない。

四郎

「今世の俺の魂を使ってみる。酒呑童子の反魂術を使ってお前と俺の魂を結びつける。そうすれば来世で縁者として繋がる。」

滝夜叉姫

「来世では、瀧夜叉としての意識は無くなる。そうすればまた敵としての縁がつながるやもしれんぞ。」

四郎

「そうなればまた戦うまでの事。俺の倒すべき鬼はいつの世も居る。」

四郎は不器用な笑いを浮かべた。

滝夜叉姫

「おぬしも我もお互い重い物をせおぅて居るからな…」

滝夜叉姫も弱弱しく笑う。 続けて滝夜叉姫が言う

滝夜叉姫

「四郎。大丈夫じゃこの恩はけして忘れぬ、必ず来世でお主と血縁の者を護る式と成ろうと誓うぞ。」

四郎、

「滝夜叉姫、もし俺が来世で悪鬼と成った時は必ずお前が俺を倒してくれ。」

四郎は瀧夜叉姫に呪を唱えて行く…

その言葉が大きく成るにつれて

2人はキラキラと光りながらまるで桜の花びらのような光の粒と成って舞っていく。

ナレーター

「俺は鬼を食らう鬼…いつの世になっても必ずまた蘇って鬼を食らい続ける。」

しかしその様子をうかがう一人の鬼が居る事を二人は知る由もない。

 

7  吉田神社境内 戦いの後 

 

〇 がしゃどくろの躯と土塊と成った鬼どもの躯が参道に散らばっている。

四郎と滝夜叉姫が光の粒と成っていく様を陰から見ていた影が居た。

二人の姿が消え去るとゆっくりとその姿を現した。

高丸

「天草四郎・・・鬼を食らう鬼か・・・」

その横でこと切れている金剛童子をちらっと見る。

高丸

「ほんに役に立たん奴だ。天草四郎を亡き者にした事、結果的には良しとしておくが。」

高丸がすっと片手を軽く横へ振ると四郎らに倒された、がしゃどくろの屍骸が

細かい塵に成ってその手に吸い込まれていく。

高丸

「役立たずでも部下の後かたずけはしておかねばならんでな。」

高丸はにやりと笑う・・・数回手を左右に振りつづける。

その手に合わせてゆっくりと空間が水を浸した様に揺れた

その揺れと共に吉田神社の境内に満ち溢れていた瘴気が

見る見るうちに浄化されていく。

その様子を見て居る一匹のカラス。 そのガラスのような眼を通してこの様子をうかがう鬼が二人。

 

京都洛北の立派な洋館 夜の9時頃 

〇 酒呑童子、茨木童子 高級なスーツに身を包み、ソファに腰掛けている。

   この頃既に諸外国との密約を結ぶ準備を進めている為洋装をしている。

紅茶を飲む 酒呑童子 その横でカラスの目を通して様子を見る茨木童子。

酒呑童子、そっと立ち上がり大きな窓のそばで夜景を見ている。その傍らに小さい少女が車いすに乗っている。色白でか細い感じを受けるが異様に目力を感じる。

茨木童子がその横に立ち話し始める。

茨木童子 

「四郎が滅しましたな・・・これから先、どうされますか?」

茨木童子は何か思案があるような顔をしている酒呑童子につぶやく。

酒呑童子

「四郎一人だと復活するのに大した時間は掛からんが、滝夜叉との結びの法で

滅したのであれば、黄泉帰りするまで相当時間がかかるだろう。」

茨木童子

「もしかすると復活出来ないかもしれないという事も考えられまするな・・・」

酒呑童子

「さぁ、そこはわしも予想がつかん・・・だが四郎はそこまで弱い男では無いと信じている。」

茨木童子

「とりあえずの問題は大獄丸ですな。 奴の側に高丸がついているのが曲者です。」

酒呑童子

「そうだな・・・こちらは鈴鹿御前に情報を聞いておく方が良いかもしれん。」

茨木童子

「鈴鹿御前様は関西の鬼を束ねて居られましたな。高丸の情報も持って居られるやも知れませんね。」

酒呑童子

「御前は見た目は若い娘だが相当の実力者だ。この国の妖魔の事なら大抵の事は知って居るから、味方にしておくのが良い 後々の為にもな。」

茨木童子

「御意。後ほど書簡をしたため、届けさせましょう。で、四郎の件ですが、居らぬ間どのように?」

酒呑童子

「今、函館で旧幕府軍と蝦夷共和国の連合軍が新政府軍と戦っておる。その中に話に生まれながらにして鬼の素質を持つ男が居る。

今は幕府軍の幹部らしいが明治政府の上層部に知り合いに頼み。そいつを動かしその男をこちら側へ向けさせる。」

茨木童子

「こんな幕末の世の中にまだそんな侍の心を持つ男が居りましたか、果たしてその男の名は?」

酒呑童子

ゆっくり振り返りながら

「元新撰組鬼の鬼の副長と呼ばれた男、

土方歳三だ。 奴は自ら戦場に立つ侍、いや鬼だ。今後新政府が立ち上がった後はわれらの為に働いてもらう。」

酒呑童子、にやりと笑いながら

「五稜郭へ向かうとするか・・茨木」

茨木童子

「御意 お供させて頂きます。今後の事もあるので」

酒呑童子

「うむ、うちの若手も何人か新政府軍に派遣させている、その様子見も兼ねてな。」

 

 

明治政府   新政府陸軍本部

陸軍参謀 山形有朋が秘書官と話をしている。

 

山形「総理はそのように言われているのだな?」

秘書官「はっ山形殿のお力、期待して居るとの事です。こうとも言われて居りました。

わが盟友はこれから明治政府いや日本国に取って必ず強力な力添えを頂ける方だ、そこをよく踏まえておいてくれとも・・・」

山形

「了承した。しかしこの混沌の世の中で一国の総理を動かすような人物とは一体何者なんだ。」

秘書官

「これは知り合いの者から聞いた、あくまでも噂ですが・・・」

山形 怪訝な顔つきで秘書官を見る。

「噂でも良い、申してみよ。」

秘書官

「なんでも平安の頃から脈々と続く鬼の一族で、今回の新政府樹立の件にも深く関わっている御仁だそうです。」

 

山形

「その御仁がなぜに蝦夷のものを殺さずに捕縛せよと・・・我らにはわからぬ何かお考えがあるのやもしれん。」

そっとあごひげを撫でながら考える。

「どちらにしても新政府としてもその方が民衆受けするので良いかもしれん。」

その頃 酒呑童子と茨木童子は船に乗り函館五稜郭に向かっていた。  

 

蝦夷で酒呑童子と茨木童子は土方歳三を合う事と成り今後酒呑童子と共に妖魔退治を行う事と成る。これが函館戦争で唯一戦死したとされる元新撰組副長土方歳三が首級はおろか遺体も見つからない真の理由である。

 

ナレーション

それから2人の鬼は正式に傭兵会社を設立、世界を相手に兵士の派遣を行う様に成る…

その儲かった資金で中高大の一環マンモス校を創立する事で人間社会に食い込んでいく。

 

この物語の本篇 

鬼を狩る少女天草楓が活躍する数千年前の

若き鬼たちの話である。

 

 

現代 2000年後半  学校の部活で遅くなった少女が急いで家路に向かっている。

先程から嫌な気配を感じているのか時々振り返っている。

 

その男はいつの間にか気配を感じさせずに楓の後ろに存在した。

その姿は一見やさ男に見えたがその全身からは生臭い瘴気を漂わせてる。

楓はその男に気づくとキッとにらむが男は顔色一つ変えずににやにやと

笑いながら舌なめずりしている。

「君はうまそうな呪力をもっておるな。・・・こんな上物はなかなかいない・・ふふふ」

男の顔つきが紳士からぐにゅぐにゅ変化しながら化け物に変わっていく。

指の爪も鋭く伸びていく、そう醜い鬼に。

 

その姿をみて息をのむ楓

楓走って逃げるが異常に足が速く、

すぐに追いつかれて強い力で肩をつかまれる。

伸びた爪が楓の肩にめりめりと食い込んでいく。肩口にうっすら血がにじみ出し、首筋に男の息が掛かる。

このままこの鬼に食べられてしまうのかと不安がる楓

「こんな獲物は逃がさんよ。逃がすものか・・・観念しなさいお嬢さん。」 

楓は力いっぱい叫ぶが声が出ない。

「無駄だ。ここはわが結界の中、何人たりとも入ることは出来んよ。」

男のいやらしい笑いと何かが腐った臭いが楓に迫ってくる。

鋭くとがった男の牙が楓の首筋に届こうとした時。

若い男

「こんな月の綺麗な夜に面白いことをしておるな・・

よく見るとおぬし生なりか、こんな時代にめずらしい。」

ゆっくりと楓の首筋に食い込もうとした剥きだした牙を声の方向へ向ける。

「誰だ わが結界に入る不届きものは?」

若い男 (少し怒気を含ませながら)

「そんなことはどうでもよい。先ずはその子を離せ、わが守護すべきものなのでな。」

「それは出来んな、こんな上物の呪力を持ったものを」

若い男

「そうか・・・仕方ない貴様を斬り伏せてでもその子は返してもらう。」

「面白い やってみろ・・・俺は酒呑童子様から鬼の称号を頂く正真正銘の鬼だ。」

若い男

「酒呑童子だと・・・ふん、ならば余計に貴様を斬らねばならん。」

そのセリフに反応する様に、突然空より重く響く声がする。

低い声

「すまんがわしはおぬしを知らんのだが・・・それとも失念したかのぉ?」

若い男はその声のする方向を一瞥すると鬼と化した男へ向き直る。

若い男

「だそうだ・・・なまなり。」

男 

びくついた様子で

「今の声はもしや酒呑童子ありえん、そんな事は・・・

もしあの声が酒呑童子ならばお前は・・まさか」

男がそういうと同時に若い男の普通の刀よりも幅広い刀がきらりと光り

鬼と化した男を真っ二つに斬り裂いた。

「ぐわっ! その刀は骨食藤四郎・・・鬼を食う鬼、天草四郎が持つという・・・」

若い男

「そう・・・おれは鬼を食らう鬼 天草四郎時貞だ・・・」

鬼と化した男は隙を狙うかのようにその口から最後の力を振り絞り

楓の血を吸おうと首筋に舌を伸ばす。

四郎はそれを見越して伸びてきた舌ごと根元から太刀斬り返した刀で首をはねた。

男は首のままのたうち回りながら息絶えると粉をまき散らしたように

消えて行った。

四郎 気遣う言葉を掛ける。

「楓 大丈夫か? 」

「はい・・ありがとうございます、助かりました。」

四郎

「突然の事で分からんだろうが、楓、俺は君の遠い先祖に当たるものだ。君の隠された力を狙ってまた襲われることがあるだろうとある人からおまえを守れと言われてきた。」

「え? 私そんな特別な力なんて持ってないです。普通の女子中学生なんです。」

四郎

「それはまだ能力が開花していないからだ、これから先何かの拍子に開花するだろう。そうなると欲にまみれた奴らや妖魔、鬼どもが寄ってくるだろう」

楓 狼狽しながら

「わたしどうすれば・・・」

四郎

「その為に俺が居る。これより天草四郎は楓の守護者として式神となると誓う。」

「式神・・・よくわからないけど守ってもらえるならお願いします。」

四郎は胸元から呪符を取り出し、楓に張り付け呪を唱えた。

四郎

「これでお前と俺は契約を結んだ。それと一つ言い忘れたがお前に俺の力が移る事がたまにあるが気にするな・・」

楓 目いっぱい落ち込む。

「まじですか・・・まだかわいい中学生がおっさんになるのはいやだなぁ。」

四郎 「確かに姿かたちは元服したての姿で何百年も生きて居るが、中身はそれほどおっさんではないぞ。」

四郎が少し不機嫌にボソッと言い返す。

「元服ってよく知らないけど、四郎はイケメンだからいいや。」

四郎

「一応年上なんだが・・呼び捨ては。まぁいいか、

イケメンってよく知らんが誉め言葉なんだろうな。」

楓 微笑みながら

「もちろん。」

四郎

「では楓の家まで帰るとするか」

「え?今日からなの?」

四郎

「あたりまえだ、でも安心しろ普段は色々野暮用があって出掛けるから」

「で、何かあれば呼べばいいのね。」

四郎

「まぁな。たまに直ぐには来られない事もあるが・・・」

楓(心の声)

「・・・「大丈夫か?この人。」

楓(ナレーター)

そんな事件があったあくる日 駅裏で襲われた事件がニュースになり 

学園の理事長から根掘り葉掘り聞かれた。

その為に事件があってからあたしの人生はごろんと変わって

これから始まる長い戦いの序章を迎えることになるのだ。

天草楓 今後この物語の主人公となる少女である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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