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【メイド備忘録】デニーズのメイドさん(概念)だった話

ファミレスは小さなお屋敷である byヤミエッタ

2014年の6月頃、これは私が大学1年生だった頃の話。陰キャ一筋で無口でコミュ力ゼロだった(今もそう)私は、他人との会話経験が少なすぎてこのまま社会に出るのはまずいと感じていた。そこで私は接客のアルバイトを探すことにした。

駅のパン屋さん、子供洋服屋さん、ユ○クロ、質屋さん等いくつかのバイトに応募したが、全て落ちた。そこで次に私の目に留まったのは、ファミリーレストランデニーズのフロアスタッフだった。タウンワークの雑誌に載っていた写真には、茶色いワンピースに水色のエプロンと襟もとのリボンといった、メイドさんのような制服だった。可愛い!メイドさんみたい!…そして私はなんとか面談に受かり、デニーズのメイドさん(概念)になった。

メイドの仕事①お客様のご案内
デニーズの接客において最も優先順位が高いのは確か「お客様のご案内」だった。ここの優先順位を下げると、来店したお客様を立ったまま待たせて不快な思いをさせてしまうからだ。まずは「いらっしゃいませ」といって一礼して、お客様が好みそうな角のソファ席から優先してお通しする。

メイドの仕事②お料理の提供
キッチンから上がってくる料理をお客様のテーブルに運ぶ。美味しそうな料理が目の前にあるのに一口も食べることはできないもどかしさは当時の新人メイドさん達も感じていただろう。しかし心配することはない。仕事を続けていくうちに、「これは私の食べ物ではない、私が食べられる可能性はゼロだ」という確信にかわり、やがて運んでいる食べ物を食べ物と感じなくなってくる。しかしたまに休憩時間にお見せの料理を食べさせてもらうとびっくりするほど美味しい。普段食べ物として認識していない物が実はこんなに美味しかったんだ!と…。

メイドの仕事③お客様の様々な要望に応える
デニーズでは特段用がなくても水が入ったピッチャーを持ち客席を巡回すべしと教えられた。お客様のお水やコーヒーが少なくなっていたり、食後のデザートをお出しするタイミングが来たかどうか確認したりするためだ。巡回しているとお客様から様々な要望をいただく。「子ども用のイスはありますか?」「メニューをいただけませんか?」「お料理まだですか?」「席をくっつけていいですか?」私は「塩が欲しい」と言われた時、いつも心の中で「はい、少々お待ちください!(塩だけに少々…フフ…)」と言っていた。

メイドの仕事④席の片付け
お客様をお見送りした後はアルコールふきんとお盆を持ち、席にお皿やコップを片付けにいく必要がある。最初はいくつものお皿やグラスを運ぶのは一苦労だったが、慣れていくと両手ですごい量の食器を持てるようになる。最終的には手首を酷使しすぎて未だに治らない腱鞘炎になったが仕方ない。

メイドの仕事⑤仲間との連携
フロアの仕事は仲間との連携が必須だ。仲間がドリンクを作っている途中で注文を伺いにいった時は私が引き継いでドリンクを作る。仲間がレジではまっている時は私がお客さんの案内をする。仲間が大人数の席の片付けをしている時は自分も片付けの手伝いをしにいく等。常に仲間の行動をチェックして、仕事の優先順位を見極めて動く必要がある。

メイドの仕事⑥掃除
台風や雪の日などはお客様が本当に少なく、1人もいらっしゃらない時間帯もある。そんな時はソファやデーブルの脚など、普段はできない細かい掃除を隅々までおこなうのだ。

番外編:ファミレスと英国使用人
執事長たる店長、女性社員のメイド長、仕事はフロアとキッチンで別れており、それぞれで従業員同士のヒエラルキーがある。使用人たちの作業エリアとご主人様たるお店のお客様が飲食をするエリアがあり、お客様は従業員たちのエリアに入ることはない。今思うと、ファミレスは小さなお屋敷みたいだと思う。

番外編:怖いコックさん
使用人の世界を描いた作品の多くに、気難しくて怖い(しかし、すこぶる仕事ができる)女性のコックさんが出てくる。私が働いていたお店にも同じようなキッチンスタッフの女性がいた。その人がいないとお店がまわらないくらい仕事ができるベテランさんだった。

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制服が可愛くても、パフェ等を運んでくる姿が可愛くても、そういった華やかな部分はお客様の前に出る一瞬だけ。マルチタスクの中ひっきりなしに動いて、ヘトヘトになって、それでも次の日も働く。私がそうだったように、
お屋敷の使用人であったメイドさんもきっとそうだったのだろう。

デニーズのバイトは大変だった。しかし思い返すと「楽しかった」という記憶ばかりがそこにはあった。またいつかやりたい、そう思える仕事だった。


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