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【秋葉原アンダーグラウンド】 第8章 13話

男は俯いたまま動かない。レンも刀を構えてはいるが、男の挙動を待っているかのごとく、一歩も動かないでいた。すると男は笑いながら顔をあげてみせる。


「そうだよ。オレだよ、タクだよ。久しぶりだな、レン。元気にしてたか?」

「くっ・・・タク、なんでこんなことするんだ?」

「なんでって・・・それはこっちのセリフだ。お前こそいい加減目を覚ませ。」

「なんだと?」

「オレはな、ロンから全て聞かされた。20年前の研究も、30年前の事件もだ。ロンは少なくとも日本のこれからを考えて動いている。それに比べてお前たちはどうだ?いつまで過去のことにこだわっているつもりだ?」

「違う!ロンは都合の良いことを言ってお前らをうまく利用しているだけだ!あいつは人の命など何とも思っていない!」

「それについては同感だ。」

「だったらなぜ・・・」

「利害が一致した。ただそれだけさ。」


タクは刀に風をまとわせ始めた。リツたちに重力を使っていたことといい、おそらくタクは自身の能力で模倣しているだけだ。だがそれにしてもここまで忠実に再現できてしまうものなのか。


「ロンはな、話していたよ。本当の脅威は地下にあるって。」

「くそっ・・・もはや話し合うことはできないのか。」

「最後に立っていたものが正義。至ってシンプルな考えじゃないか。」


タクはもう一度朱雀を繰り出す。だがそれはレンには届かず風でできた壁によって阻まれてしまう。次第に朱雀はタクのほうへと押し戻されてしまう。レンは玄武・完整を完成させていた。


「朱雀の攻撃はオレには当たらない。それにこのままだとお前に朱雀が当たってしまう。これで終わりにしてくれないか?」

「終わりだと?せっかく楽しくなってきたのにそれはないよな。行け、青龍。」


気付くとレンの体には青い龍が這い上がっているのがわかった。そうか、青龍なら遠当ての要領で玄武を掻い潜ることができる。しかし、レンが使ってもいない青龍をなぜタクが扱えるのか。いや、今はそんなことより青龍を防ぐことに集中しなくては。レンは動くが、今や体中に青龍の跡が残っている。次の瞬間、タクの放った青龍がレンを襲う。レンは玄武・剛により身を守るが、威力が強すぎて防御がもたない。レンはそのまま青龍に飲み込まれてしまった。すると玄武・完整も消え、先ほどまで行き場を失っていた朱雀がレンを襲う。レンは再びもう一神の攻撃を受ける形となった。


「レン、嘘だろ・・・」


シュンはその光景を見ていてゾッとしていた。朱雀の威力は承知している。それを、同じような技を食らった後に直撃するなんて。しだいに風が止み、仰向けに倒れているレンの姿が見えてきた。


「レン!」

「これはすごい。こんな激しいやつ食らってまだ体の原型を留めているなんてね。」

「・・・よし、イメージ通りだ!」

「なに?」


レンはむくりと起き上がり、そして立ち上がった。ズボンの埃まで手ではらっている様子さえ窺える。


「どういうことだ?」

「オレは風の流れを読むことができる。それが例え四神の姿であろうとね。簡単に言えば風による攻撃はオレには当たらない。」

「んな訳あるか。行け、白虎。」


タクの刀身から白い虎の幻影が出たと思いきや、四肢を地面に叩きつけめり込ませる。次に四肢はレンの四方の地面から飛び出し、四本同時に襲い掛かる。しかしレンは抵抗せず、その場に立っているだけだった。レン!と叫ぶシュンの声も虚しく、レンは四肢すべての直撃を受けてしまう。次第に風が止むと、今度はその場に立っているレンの姿が見えた。


「あれだけの破壊力をもってしてもノーダメージだと?どうやら本当に風の流れを読んでるみたいだな。」

「へへっ、たくさん修行したからな。」


レンはどこか嬉しそうだった。修行の成果が出ているからではなく、タクと対話ができていると感じたからだった。レンとタクは親友だ。何かのきっかけで道は違えてしまっても、根本はいいやつなんだ。まだ話し合うチャンスはある。


「タク・・・」

「あーぁ、むしゃくしゃする。お前は初めからそうだった。握手会に行けばマユからすぐに認知をもらう。今度はいきなり巫女の力を授かったと思えば、急に関係者扱い。力の使い方を覚え、お姫様を助けに地下にも行く。正直気に食わないんだよ!」

「そんなこと思ってたのか・・・」

「だから、見せつけてやるんだ。オレだってユウコを守れるところを。胸張って強いって言えるところを!」


急にタクの周りの風が止む。タクは目を閉じその技の名前を読んだ。


「四神同時発動。」


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