【秋葉原アンダーグラウンド】 第7章 18話
シュンは声にならない声をあげ、ついにその場に倒れ込んでしまう。尚も地球の磁気に引っ張られ、身動き一つ取れないでいた。
「降参しなよ。一般人にしてはよく頑張ったほうだと思うよ。別に殺しまではしないからさ。」
「うるせぇ。ちょっと待ってろ。すぐに殺してやるよ。」
「やめた。気が変わった。やっぱり殺す。」
砂鉄がシュンの首筋にまとわりつく。首の骨を折るつもりだ。シュンは観念したのか抵抗もせず、ただ黙って身を任せていた。次の瞬間、ボキンと鈍い音が鳴った。シュンはぐったりしていた。リオンはシュンに近づき冷たい視線を浴びせ呟く。
「大したことなかったな。まぁこれが覚醒者とそうでない者の違いだよ。相手が悪かったな。」
「そりゃ、こっちのセリフだ。」
リオンは驚き一歩下がり再び砂鉄を繰り出そうとする。しかしそれは間に合わず、シュンの光速の体当たりをもろに食らってしまう。バキバキと骨の砕ける音がし、十数メートルほどその場から吹き飛ばされてしまう。
「なん、で・・・動ける・・・」
シュンに聞こえているかどうかわからないほど小さな声でリオンは呟く。しかし、それに応えるかのようにシュンは呟く。
「簡単なことだ。要は自分の磁気を取ってしまえばいい話だろ。だから骨も含めて体を軟質化させた。首筋だけは硬質化させてお前に折られたように見せた。手足か?そこはちゃんと折れていたが、細胞を活性化させることですぐに治した。って聞こえてるか?」
「ケホッ・・・こんの、化け物め・・・」
リオンは腹を抱えなんとか立ち上がった。砂鉄はまだ動かせるが、光速移動する相手に通用しないことはわかっていた。それでも・・・
「オレは・・・もう負ける訳にはいかねぇんだよ!」
再びシュンは地面に吸い寄せられる形で倒れた。一体なぜ?体は全く動かせない・・・
「いくら体の磁気を取ろうが、血液は流れてるんだろ。血液には鉄が含まれている。そいつと地球をくっ付けたんだよ。」
確かにリオンの言う通りだった。血液には鉄分が溶け込んでいる。しかし、理屈はわかるがそんなこと果たして可能なのか?能力の範囲を超えている。これが覚醒者たる所以か。シュンはかろうじて顔をあげシュンを見ると、鼻と目から血を流していた。明らかに能力を使いすぎている。
「てめぇ、このままじゃ死ぬぜ。」
「オレは強い!オレは今や1級をも超える存在なんだ!」
リオンにシュンの言葉は届いていなかった。完全に我を失っている。
「ったく面倒かけさせやがる。」
シュンはそう呟くと足の大動脈を切り大量出血させた。そしてその場にゆっくりと立ってみせる。
「要は血液を出しちまえばいい話だろ。まぁリミットはあるがな。もって1分ってところか。」
「殺す殺す殺す殺すっ!」
「まぁそうイキんなよ。オレにも覚醒した能力ってのを試させてくれよ。」
シュンは両手をリオンに向け構えてみせる。するとリオンは片膝を崩しよろけて見せる。その直後目を覚ましたかのような表情でシュンのほうを見る。片足は全く動かせずにいた。それどころかそこに足がある感覚が全くない。
「お前・・・一体何をした!」
「覚醒は能力の範囲を超える。オレの能力は細胞の活性化だ。そこでお前の細胞を活性化させてみた。活性化させたのは白血球数だ。」
白血球とは悪性菌株を殺すために必要な物質である。それらが異常増殖してしまうと良性細胞まで破壊してしまうことになる。それがいわゆる白血病である。シュンは自身の覚醒した能力により、リオンに白血病を患わせたのであった。リオンの体は徐々に動かなくなっていき、ついにはその場に倒れてしまった。地球からの磁場が解かれていく。シュンは体の自由が戻ると急いで自身を止血した。次にリオンの白血球の数値を元に戻してやり、血の巡りをコントロールしてやった。シュンは気を失ってはいたが、顔色が良くなっていくのが見てとれた。
「これでよしっと。まったく、ガキのくせに大人のゴタゴタに顔を突っ込みやがって。まぁオレも人のこと言えねぇか。」
シュンはよっこらせと立ち上がり、国会議事堂へと向かって行った。
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「妙だな。」
カイはゼロヨンから落下後、首相の記者会見が行われる大広間の近くまできていた。しかし、人はおろか機材の一つも見つけられないでいた。誰もいない大広間で佇んでいると、背後から足音が聞こえてくる。
「貴様か。」
「久しぶりの再会なんだ。そんな怖い顔しないでくれよ。」
後ろを振り返ると、そこにはスサノオが立っていた。気怠そうな風貌。今からやり合うかもしれないというのに、そんな雰囲気は微塵も感じさせない。なんだか調子が狂う。
「それで、記者会見はどうした?」
「あぁ、あれね。もうとっくに終わっているよ。」
スサノオによれば1時間以上も前に終わったとのことだった。カイたちがまだ地下にいるときだった。なぜ誰も気が付かなかったのだろう。それについては地下から地上の電波をジャックしたように、地上からも地下の電波をジャックしていたとのことだった。計画を思い立った日から今日に至るまで、ずっと間違った情報を流されていたのだった。
「そろそろアキモト氏復活祭が始まる頃かな。」
「それも知られているとはな。余程優秀な電気系統がいたものだ。」
おそらく秋葉原襲撃事件で大規模な停電を起こした人間だろう。ロンのそばにいた女だ。あの時はそんな印象はなかったのだが。何か特別なカラクリがあるのかもしれない。
「一応聞くが、ロンのやつはどこだ?」
「もうここにはいないよ。」
そうかとカイは呟き、次の瞬間にはスサノオに向け大剣を振るっていた。
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