【秋葉原アンダーグラウンド】第2章 8話
バイタルは安定していた。
だが、白血球の数から、肝心のがん細胞の減少は感じられなかった。
「どうかね?」
ロンはパソコンの画面を見つめているシンに問いかけたが、返事はなかった。
「無理もない。投与してまだたったの6時間だ。それに彼らの体は死に体。自身の細胞だけじゃなかなか活性化もしにくいのではないか?」
ロンは気にするな、とでも慰めたかったのかもしれない。
「なるほど、盲点でしたよ。さすがに自身の細胞だけではそう簡単にとはいかないのかもしれない。」
「でもあれだろ?人カン細胞は混ぜてるぜ?」
「あぁ。だがロンの言うとおり元々の細胞が年老いているからな。時間はかかるのかもしれない。」
「でもでも、ゆーて6時間だよ?何かしらの変化があってもよさそうなのに、全く変化が見られないのは何か足りなかった気がするにゃ~?」
シン、ワン、リンの3人が話しているところに、今度はサラが尋ねる。
「時間が経っても良くはならないということでしょうか?」
「そうだな。時間が経つにつれて悪性細胞が動き出す可能性がある。一応抑制剤は混ぜているがな。彼らにとっては時間との勝負といったところだ。」
シンは嘆いた。
本来であれば臨床結果を見るのに一日は待ってもいいのだ。それを4分割までしてデータを取りたかったのには、そういった想いがあったからだ。
「臓器移植、いや細胞レベルでの移植が必要なのかもしれないな。」
「シン、ちょっと待てよ!何のための人カン細胞だよ!免疫反応で拒絶しないようにって作ったんだぞ!?それこそ自分たちの研究を否定するのかよ!!」
「おちつけ、ワン。細胞を総取り換えすることなどできる訳もない。それに、自分たちの研究を否定している訳でもない。」
シンはさらに続けた。
「だがな。研究者であれば目の前の状況に合わせ、新しい研究を始めることも必要なことだ。」
自分たちの理論は完璧である。完璧ではあったが、理論だけでは研究は前に進まない。現にいま、予想に反する結果が出ている。
「一から作り直し、必要であれば自分たちやロンたちの理論を当てはめてみる程度でいいのかもしれないな。仮説と検証を繰り返していた、あのときの新鮮な気持ちを思い出したよ。」
シンは少し愉しそうだった。自分たちは天才だと世に崇められ、初心をすっかり忘れてしまっていたようだった。
「ワン、リン、ロン、サラさん、イジュンさん。これからかなり忙しくなりますよ。」
「おもしれぇ。血が騒ぐってもんだぜ!」
「徹夜はやだにゃ~・・お肌に良くないよぉぉ・・」
「最高だよシンくん!共に彼らを救って見せようじゃないか!」
「私も、彼らの苦しんでいる姿はもう見たくありません!」
ワン、リン、ロン、サラはシンの言葉に反応したが、イジュンだけは違った。
「命の巫女・・・」
まるで独り言かのように、呟くようにそう言ってみせた。
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