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【秋葉原アンダーグラウンド】第2章 11話
シンが奥の部屋にこもってから約2時間。ワンとリンはコーヒーの差し入れを持って部屋に入った。
「うぉ!」
ワンは思わず声を漏らした。それもそのはず、シンのデスクだけではなく、壁や床一面が数式で覆われていたのだから。
「ん?あぁ、ワンとリンか。」
ワンとリンの存在に気づき、オウは振り向く。リンからコーヒーを受け取り、美味いっ!と言ってみせたが、少し疲れているように見えた。
「シン君、これ、アタシ知らない・・・全くの新しい理論?」
リンは壁に書かれた数式を見た。全く理解できない。どうやったらこんな考え思いつくの?
ワンも同様な考えだった。見たこともない。リンはどうか知らないが、少なくともオレの頭じゃ追いつけない・・・
困惑している2人を見てシンは、
「2日前の患者を診ていたときに、違う仮説を立てていたんだ。でも、まさかここまで難解なものだとは思わなかったよ。」
2日前?投薬の準備進めているときから?その裏でこんなことまで考えてたの?リンは心の中でそんなことを思っていた。
「アタシたちがお手伝いできることって・・・ないよね?」
リンは若干寂しそうに聞いたが、シンは別だった。
「いや、ある!今ちょうどここで引っかかってたんだけど、なんでもいいからヒントをくれないか?」
シンはこんな状況におかれても、自分たちのことを邪魔者扱いしないでくれる。優しいんだか、研究バカなのか。
ワンも同じ気持ちだった。自分たちは完全に蚊帳の外かと思いきや、頼ってきてくれる。だからお前について行ったんだ、と少し昔のことを思い出していた。
「シン君シン君、ここの数式間違ってるよ?」
「おーい、シーン!ここの理論も繋がってないぞー。」
「何?間違ってる?本当だ!計算をミスってる・・・そっちの理論も・・・なんでそんなこと書いたんだ、オレ?」
3人は笑いあった。あのシンが計算ミス?理論が理論になってない?今日の地上は雪だな。ワンはそんなことを思っていた。
「知恵を貸してくれ!時間がないんだ!」
「わーってるって!煮詰まってねぇかと思って、だから来たんだよ!」
「アタシたち、もう切っても切れない仲にまでなってるんだよ~。地獄の底まで追いかけてやるぅ。」
シンは少し照れながら、オレは仲間に恵まれたな、そう思っていた。
「あと約22時間か。やるぞ!無駄な血は決して流させない!」
部屋の向こうにいるサラに向け、そう決意した。
・・・・・
部屋にこもってから20時間が経っていた。各々食事と仮眠は交代でとっていた。今はシンが一人で作業にあたっている。
「あと4時間か。リンは・・・このまま寝させておいてやるか。ワンは・・・起きたら朝だな。」
それもそのはず。ワンとリンがいくら天才と言えど、この理論を一から作ったのはシンだ。頭をフル回転させてくらいついてはいたが、限界がきたのだろう。せめてもう少し時間があれば良かったのかもしれない。
「まだだ、まだ何か足りていない。これでは人間はおろか、マウスでさえ試験できない。」
シンは頭を抱えた。せめてあと一日あれば・・・いや、それはできない。ロンもそうだが、サラの意志も固い。あと4時間で理論だけでも構築しないと・・・
そのとき、
コンッコンッ。
かすかにドアをノックする音が聞こえた。ロンか、それともアボか・・・重い足取りでドアを開けた先には、予想に反しサラが立っていた。
「こんばんは?ん?こんにちはのほうかな?地下だから時間間隔もわかんなくなっちゃいますよね?」
笑って見せ、中に入ってもいいですか?と聞かれたのでそのまま通すことにした。
「わぁ、すごい!何を書いているのかさっぱりわからない!本当にお疲れさまです。」
シンはサラをイスに座らせ、飲み物を渡した。
「サラさん、少し聞いてもいいですか?サラさんはどうしてそこまで笑っていられるんです?命がかかっているかもしれないんですよ?」
サラは考えるような仕草をみせ、静かに答えた。
「なんででしょうね?私にもよくわかりません。気付いたら体が勝手に動いてたんです。変でしょうか?」
変ではない。実にサラらしい回答だと思った。この人は誰よりも正義感が強い。その正義感が彼女の背中を押しているんだ。偽善など微塵も感じさせない。素直で優しい子なんだ。
シンの頬を、思わず涙がつたった。なんで泣いているんだ?そう思ったとき、目の前には座っていたはずのサラが立っていて、そして、そのか弱い腕でシンを抱きしめた。
「シンさん。もう無理しなくていいんですよ。もう十分頑張ったじゃないですか。私は大丈夫です。だってこんなにも想ってくれる人がいるって思ったら、私幸せで。もし死んだとしても、いいのかなって思うんです。」
サラも気付いたら泣いていた。
「私、もう長くは生きられないんです。免疫の拒絶は出てないんですけど、わかるんです。だからこの命、最期に困ってる誰かのために役立てたい。」
シンはサラの腕の中で泣いた。自分でも信じられないくらい無邪気に泣いた。張りつめていたものが切れたのかもしれない。
「サラ・・・君の気持ちはよくわかった。その命、困ってる誰かのために役立てたいって言ったよね・・・そしたらその命・・・オレに預けてくれないか?」
まるでプロポーズを思わせるその言葉はサラにどう届いたのか。サラはシンの顔を見て、精一杯笑って応えてみせた。
「はいっ!こちらこそよろしくお願いしますね!」
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