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【秋葉原アンダーグラウンド】第2章 17話

翌日の患者はがんを患っている者だけではなく、先天性の疾患を持つ者、半身が不随の者もいた。中には事故で片足を失った者もおり、ワン、リン、サラは少し焦っていた。失ったものが生えてくるのであれば、死人だって甦らせることができるかもしれない。そうなればまさに神の領域だ。だが、シンは冷静だった。

「きちんと話していなかったかもしれないが、この新・命の巫女計画は、死者蘇生の研究と言っても間違いではない。文字通り、死人だって甦らせることが可能だ。」

リンは飲んでいたジュースを思い切り吹いた。大丈夫ですか?と心配するサラに、ダイジョブダイジョブと笑ってみせた。

「シン、それって本当なのか?それができりゃ、もはや神だぜ?」

「本当だ、ワン。これを見てくれ。」

そう言ってシンが差し出したのは昨日の6名の患者データだ。

「あの年齢になれば、がんでなくとも死滅している細胞はあるはずだ。ここを見ろ。この患者の親指、黒くなっているだろう?」

それが何を意味しているかワンは理解していた。血管が詰まり血が通ってない証拠だ。つまり、この親指は機能していない。

「それがどうだ?サラの注射を打った後の写真をみると、黒い箇所なんてどこにもない。」

本当だ。ワンはそう言い、リンとサラにも写真をみせる。

「どうやら本当に神の領域に足を踏み入れてしまったようだ。」

シンは少し困惑していた。これが世間にでも知られてしまったらどうなる?サラは実験対象として奪われてしまい、体中にメスを入れられる。なんとしてもラボだけで抑えないと。とりかえしのつかないことになる。かくなる上は・・・

「シンさん?もしかして私のこと、心配してくれてます?」

シンは心の中でも読まれたかのような顔で、ただサラを見るしかなかった。

「はじめての試験のとき、同じような顔をしていましたから。いくら自分の理論でも、他人の体を使って初めて成り立つ仮説でしたもんね。」

サラは、すみません偉そうなことを言って、とシンに謝ったが、シンは、

「馬鹿だなオレは。また一人で考え込んでいたようだ。ここには最高の友がいる。何かあれば皆で命をかけて守る。すくなくともオレはそう思っている。」

サラはボッと顔が赤くなり、ガーゼ取ってきますね、と言いその場を離れた。

「シンくん、さり気なく言ったつもりかもしれないけど、あれじゃサラちゃん心が持たないよ。」

リンにそう言われハッと我に返る。

「お二人さん、一体どんな関係なのよ~?」

ワンがからかうと、シンはうるさい!と返した。

「とにかくだ!サラは皆の希望の女神かもしれないが、一人の人間だ!その力を使って悪用しようと思う輩は必ず現れる!それだけは何としてでも阻止しなければならない!」

シンはその場を取り繕ってみせたが、言えば言うほどリンはニヤニヤが止まらなかった。

・・・・・

一人目の患者。いきなり片足を失った者だった。細胞を採取し終えると話しかけられた。

「オレ事故で片足を失ったとき、神経までやっちゃって、義足をつけても全く動かせないんです。そんなオレでもまた歩けるようになるんですかね、先生?」

先生と言われシンは一瞬驚いたが、冷静にこう伝えた。

「はじめに、絶対ということは何においてもありえません。ですが我々は全力をつくします。あなたの期待に応えられるようベストをつくします。それに、我々は医者ではなく科学者です。」

男は初めキョトンとしていたが、よろしくお願いしますと言ってその場を後にした。

「先生!アタシも2人のことで聞きたいことがあります!」

「うるさい、黙って手を動かせ。」

へーい、とリンは言うと、カルテを入力し始めた。


「サラ、気分はどうだ?」

「前と同じ。ちょっと怖い気持ちはあるけど、シンさんがそばにいてくれると心が楽になります。」

ワンとリンは他の病室の患者たちの相手をしていた。このときだけはシンとサラの2人だけにしてあげたい。そんな気遣いだった。

シンはサラに点滴を打った。サラの手はシンの手を優しく握っていた。しばらくすると力が緩む感じが伝わり、サラが眠りに入ったことがわかった。

「サラ、死なないでくれ。」

あと何度神に祈ればいいだろう?いや、何度祈ったっていい。それでサラが生きていてくれるなら。シンは今度ばかりは眠らずに、サラのことを見守っていた。

約束の時間。サラは目を覚まさない。前回は時間より早く目を覚ましてくれたが、今回は違った。

「サラっ!!」

シンは思わず叫んでいた。するとサラはゆっくりと目を覚ました。

「あれ?シンさん?おはようございます・・・もう、朝ですか?」

「馬鹿野郎!」

そう言ってサラの体を抱きしめた。正気に戻ったサラはえっ?ちょっと?シンさん?みんな見てますよ?そう言ったが、シンは抱きしめたまま、

「心配かけさせるなよ。」

そう言うと、サラはごめんなさいと謝り、シンの体を抱きしめた。

「いいなぁ・・・」

サラの血液を採りに来たリンとワンは、物陰からシンたち2人を覗いていた。

「なんなら、オレが抱きしめてあげよっか?」

「うっさい。」

時間だぞーと言って、リンとワンは2人の元へ駆け寄った。

#創作大賞2023  

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