見出し画像

6歳娘「パパ、どうして命令は来るの?」

ある日の夜

娘「ねぇ、パパ?」

ワイ「なんや?娘ちゃん」

娘「いま絵本を読んでるんだけどね」
娘「ちょっと分からないところがあるの」

ワイ「おお、そんならパパが教えたるで」
ワイ「なんの絵本を読んでるんや?」

娘「えっとね」
娘「寄生獣

ワイ「ファッ!?」
ワイ「寄生獣!?
ワイ「いやそれ絵本とちゃうで」
ワイ「だいぶ大人向けの漫画やで」

娘「そうなんだ」
娘「でも、この絵本すっごく面白いね」

ワイ「あ、ああ」
ワイ「めっちゃ面白いよな」
ワイ「絵本ちゃうけどな」

娘「それでね、良子ちゃんていう女の人がいてね」

ワイ「いや良子ちゃんて」
ワイ「あれ人喰いのバケモンやで」

娘「良子ちゃんの、こんなセリフがあったの」

田宮良子「地球上の生物はすべてが何かしらの『命令』を受けているのだと思う・・・」

ワイ「ああ、あったな」
ワイ「でもごめん、そのセリフの意味はワイも分からんわ」
ワイ「すべての生物が命令を受けている、って」
ワイ「いったい何のことやろな・・・」

娘「ううん、それは分かったの」

ワイ「いや分かったんかい」
ワイ「6歳児やのに」

娘「うん、昨日気づいたの」
娘「昨日、3時のおやつを待ってたんだけどね」
娘「2時55分に、どうしてもおやつが我慢できなくなっちゃったの」

ワイ「ほうほう」

娘「3時まで食べちゃダメだ!って」
娘「頭では分かってるんだけど、どうしても・・・」

「お腹が減った、食べたい!」

娘「っていう気持ちが湧いてきてしまったの」
娘「それはまるで、脳から」

「テーブル上のお菓子を食べろ・・・!」

娘「っていう命令が来ているようだったの」

ワイ「ああ、そんなときあるよな」
ワイ「ワイも、ダイエット中なのに」

「ラーメンを食い尽くせ・・・!」

ワイ「って脳が言ってくるときあるわ」

娘「わたしは、それが命令だと思ったの」

ワイ「あー、言われてみれば」
ワイ「餓死しないためだとか、食物をちゃんと摂取するように」
ワイ「脳から命令が来ている・・・」
ワイ「そんな風に言えるかもしれんな」

娘「そうなの」

ワイ「それで、どうしたん」
ワイ「2時55分におやつ食べたん?」

娘「ううん」
娘「自分の体を椅子に縛りつけて耐え忍んだわ」

ワイ「いや物騒やな」
ワイ「そんなんするくらいならもう、5分前におやつ食べてええで・・・」

じゃあ何が分からなかったのか

ワイ「でも、そこまで分かってるなら」
ワイ「いったい何が分からへんかったんや・・・?」

娘「えっとね」
娘「パパ、どうして命令は来るの?」

ワイ「え、知らん・・・」

娘「どうしてご飯を食べろっていう命令が脳から来るの?」

ワイ「うーん・・・」

娘「ほかにもね、人間の体や脳って」
娘「生き延びるための機能や、死なないための機能が満載でしょ?」
娘「体が傷ついたら、痛みを通じてそれを教えてくれるし」
娘「息を止めようとすると、苦しくなるし」
娘「何でこう、生き延びるための機能が満載なの?」

「体が傷ついたぞ、気づけ」
「呼吸をしろ」

娘「そんな命令が、体や脳から送られてきているみたい」
娘「それはなんで?」

ワイ「(いや、むず過ぎるやろ・・・)」
ワイ「あ、でも、それっぽいお話を聞いたことがあるで・・・」

娘「ほんと?教えて!」

生き物のお話

ワイ「まず、人間からは人間が生まれるし」
ワイ「イルカさんからはイルカさんが生まれるやろ?」

娘「うん」

ワイ「つまり、同じ生き物が生まれるんや」

娘「うん、遺伝てやつだよね」

ワイ「せや」
ワイ「でも、ワイと娘ちゃんは少し違うやろ?」

娘「うん」
娘「遺伝子を引き継いでいるから、目元なんかはそっくりだけど」
娘「でも、違う人間だね」

ワイ「ってことで」
ワイ「親と子は同じ生き物やけど、少しだけ違う」

娘「うん」

ワイ「それを踏まえた上で、このお話を聞いて欲しいんや」

娘「分かった!」

森の中の虫さんのお話

ワイ「昔あるところに、森があって」
ワイ「森の木々には、黄色い虫さんたちが住んでたんや」

娘「うん」

ワイ「でも、その森には、鳥さんたちも住んでたんや」
ワイ「そんで、その鳥さんたちは、黄色い虫さんを見つけて食うてまうんや」

娘「虫さん、かわいそう・・・」

ワイ「せやな、でも、全部の虫さんが食べられてもうたわけやない」
ワイ「鳥さんに見つからなかった虫さんたちもおったんや」

娘「よかった・・・」

ワイ「なんで見つからんかったかっていうと」
ワイ「見つからなかった虫さんたちは」
ワイ「ちょっと緑っぽい色をしてたんや」
ワイ「それで、ちょっと葉っぱの色に似てたから、鳥さんに見つかりにくかったわけや」

娘「なるほどね」

ワイ「そうして、黄色っぽい虫さんたちは、だいぶ数が減ってもうて」
ワイ「ちょっと緑っぽい虫さんは、多く生き残ったんや」
ワイ「そして時がたち、虫さんたちの子供が生まれたんやけど」
ワイ「緑っぽい虫さんたちの、その子供たちも、緑っぽい色だったそうや」

娘「体の色が遺伝したんだね」
娘「じゃあ、虫さんたちの中で、緑っぽい色の個体が」
娘「割合として増えたんだね」

ワイ「せや」
ワイ「そしてまた、鳥さんたちがやってくるんや」

娘「怖い・・・」
娘「今度はどうなっちゃったの・・・?」

ワイ「また、たくさんの虫さんが食べられてもうた・・・」
ワイ「でも、また一部の虫は見つからずに生き残ったそうや」

娘「うん」

ワイ「そんでな」
ワイ「今度は、緑っぽい虫さんたちの中でも、さらに緑っぽくて」
ワイ「さらに葉っぱに近い色の虫さんたちが」
ワイ「多く生き残ったそうや」

娘「なるほど・・・つまり」

  • より葉っぱに近い色の虫の方が、鳥に見つからない

  • 結果として、より多く生き残り、そして子を生む

  • 遺伝により、その子供たちも葉っぱに似た色をしている

  • その中でも、さらに葉っぱに近い色の虫が、より多く生き残り、子を残す

  • 世代を重ねるごとに段々と、黄色い虫の割合が減っていく

  • 世代を重ねるごとに段々と、虫全体が葉っぱに近い色になっていく

娘「ってことだね」
娘「黄色い虫さんは、淘汰されちゃったんだね・・・」

ワイ「せや」
ワイ「それが進化らしい」

娘「進化って、残酷なんだね・・・」
娘「ポケモンみたいに、その個体がパワーアップするのかと思ってた・・・」

ワイ「せやな・・・」

娘「でも実際はそうじゃなくて、世代を重ねるごとに」
娘「より環境に合った、より生き延びるのに有利な」
娘「そんな特徴を持った遺伝子が」
娘「より多く受け継がれていく」
娘「ってことなんだね・・・」

ワイ「そうらしいな・・・」

それがなぜ「命令」に繋がるの?

娘「でもパパ?」
娘「それがどうして、命令の話と繋がるの?」

ワイ「うっ、それは・・・」
ワイ「アレや」
ワイ「きゅ、急に全部ド忘れしてもうたわ」

娘「・・・」
娘「分からないんだね」
娘「つまり、こういうこと?」

  • より生き延びるのに有利な、より子を残すのに有利な遺伝子が、より多く受け継がれてきた

  • 空腹時に「何かを食べたい」と感じることは、生き延びる上で有利な反応

  • だから「食べたい」という反応が、遺伝子に組み込まれている

  • その自然と湧いてくる「反応」が「命令」のように感じる

ワイ「そ、そういうことや」
ワイ「それが言いたかったんや」

娘「・・・」

ワイ「例えば」

「何ひとつ食べたくない!」
「むしろ、鳥さんに食べられたい!」

ワイ「なんていうような」
ワイ「そんな個体、ぜったい生き残らへんやん」
ワイ「せやから、生き残りやすい遺伝子が残り続けた結果」
ワイ「なんやかんやあって」
ワイ「進化の中で人間も生まれて」
ワイ「人間の体と脳は、生き延びて子を残すために作られてる」
ワイ「人間は、生き延びて子を残すために生きてる」
ワイ「そういうことや」

娘「生き延びて子を残すために作られてる・・・?」
娘「そのために生きてる・・・?」
娘「それは違くない?」

ワイ「な、なんでや・・・」

娘「だって」
娘「世代を重ねる中で、生き延びやすい遺伝子が残ったわけでしょ」
娘「自然の中で、環境の中で、淘汰されていったわけでしょ」

ワイ「せや」

娘「死にたい!と思うタイプの遺伝子より」
娘「生き延びたい!と思うタイプの遺伝子が、より多く残った」

ワイ「そういうことや」

娘「でもそれって」
娘「生き延びて子を残すために作られてるわけじゃなくない?」

ワイ「そうなん・・・?」

娘「だって、誰にも作られてなくない?」
娘「誰かの意図で作られた訳じゃなく」
娘「偶然や自然の中で、残ってきただけでしょ?」

ワイ「確かに」
ワイ「別に、誰かが作った訳とちゃうな・・・」

娘「それに、生き延びて子を残すために生きてるってのも違うと思う」

ワイ「そ、それも違うん?」

娘「パパは、ラーメンを食べたときに」

「よし、これで生き延びれる!」
「生存、そして子孫の繁栄に、一歩近づいた!」
「遺伝子を残せる可能性が上がった!」

娘「そう感じるの?」
娘「感じないでしょ?」

「美味い!」

娘「っていう、シンプルな反応でしょ?」

ワイ「た、確かに・・・」

娘「生き延びるために食べてる訳じゃなく」
娘「美味しいから食べてるだけでしょ」

ワイ「ぶっちゃけそうですわ・・・」

娘「脳が起こす、食べたいというシンプルな反応・・・」
娘「それに従ってるだけでしょ?」
娘「ブタみたいに」

ワイ「いやそれは言いすぎやろ」

娘「だから、生き延びて子を残すためじゃなくて」
娘「欲を満たすためとか、苦痛や恐怖から逃れるため」
娘「そのために生きてる感じがする」

ワイ「た、確かに・・・」
ワイ「普段生活してても」

「生き延びて子を残すで〜!」

ワイ「なんて、意識してへんもんな・・・」

娘「そう」
娘「体が傷ついたときだって」

「まずい、死に近づいた!」
「遺伝子が、遺伝子が残せなくなる!」

娘「なんて思わないでしょ?」

ワイ「せやな」
ワイ「もっとシンプルに」

「痛い!怖い!」

ワイ「みたいな感じやな」

娘「そうだよね」
娘「だから」
娘「生き延びて子を残すために生きてるんじゃなくて」
娘「なんとなく気づいたら生まれてて、欲や反応に流されて生きているだけ・・・」

ワイ「いや達観しすぎやろ」

娘「生物は、生き延びて子を残すために生きていて」
娘「それができない個体は、劣っている・・・」
娘「そんな考えに縛られなくていい」
娘「生きたいように生きていいんだよ」

ワイ「う、娘ちゃん・・・」
ワイ「ちょっと泣けてきたわ・・・」

娘「だって、遺伝子に意志も目的もないでしょ」
娘「ただ、組み込まれた反応があるだけじゃない?」

ワイ「いや、もう難しくて分からんわ」

娘「わたしも実はよく分かってない・・・」
娘「今から本を読んで勉強してみる!」

いえ、寝る時間です

ワイ「いやいや娘ちゃん、もう夜の9時やで」
ワイ「もう寝なアカンで」
ワイ「明日は学校なんやから」

娘「パパ、私は学校には行かないわ」

ワイ「ファッ!?」

娘「脳から」

「学校はすごく面倒くさいから、行くな・・・!」

娘「そう命令が来てるの」

ワイ「いやそれ」
ワイ「要は、面倒くさいから行きたくないって」
ワイ「そう思ってるだけってことやろ」
ワイ「そんなんダメやで」

娘「ダメ・・・!?」
娘「ひどい・・・」

ワイ「いや、だって・・・」
ワイ「ええ・・・?」

娘「だってわたしは」
娘「生まれる時代も選べずに」
娘「生まれる星も、国も選べずに」
娘「遺伝子も、肉体も脳も選べずに」
娘「親も選べずに」
娘「望んだ訳でもないのに」
娘「この世界に産み落とされた・・・」

ワイ「そ、そらそうやけど・・・」

娘「そして、何も知らない赤ん坊として生まれ」
娘「パパとママの教育を受けて」
娘「そして世間の常識の中で影響を受けて」
娘「私の人格が形成された」
娘「つまり、それらはほとんど受動的なこと
娘「そして今、学校に行きたくないって、自然と感じている」
娘「それは私の罪なの!?」
娘「世界の罪じゃないの!?」

ワイ「いや、そんなこと言うたら」
ワイ「誰だって、時代ガチャ、国ガチャ、親ガチャ、遺伝子ガチャ」
ワイ「そして教育ガチャ、環境ガチャ・・・」
ワイ「それらの影響を受けて、ほとんど受動的に人格形成されたんや」
ワイ「誰の罪でもないやろ」
ワイ「そして、今ワイの脳は」

「娘ちゃんを学校に行かせるんや!」

ワイ「っていう命令を出してきてるんや」
ワイ「せやから学校に行ってもらうで・・・!」

娘「ぐぬぬ・・・」
娘「でも、どうして学校に行かなきゃいけないの?」
娘「学校に行かない人はダメな人なの?」
娘「ダメな人生になるの?」
娘「必ず行かなきゃいけないの?」
娘「その根拠は?」

ワイ「う、そう言われると・・・」

娘「どうなの?」

ワイ「どうしても行きたくないなら、明日は休もか・・・」

〜つづく〜

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?