YAF2020-2021「メイン会場・大宜味村立旧塩屋小学校」会場レポート
文 = 板谷圭
緑深い森が広がる沖縄本島北部は、島の言葉で「山原(やんばる)」と呼ばれています。やんばるの魅力は、固有種の宝庫である亜熱帯の森だけでなく、それを育む海や川にもあります。さらに、そこに息づく豊かな地域文化が評価され、2016年には「やんばる国立公園」に、そして現在、世界自然遺産への登録も見込まれています。そんなやんばるで生まれ、2017年から毎年行われている地域芸術祭が「やんばるアートフェスティバル(以下、YAF)」です。1月23日から2月21日まで、大宜味村立旧塩屋小学校を中心に、国頭村、名護市などのホテルや商店街などを舞台に、アート作品の展示やワークショップが楽しめます。
4回目を迎える今年のテーマは、「山原知新(やんばるちしん)」。総合ディレクターであり、写真家・映像作家でもある仲程長治は「今年は人類にとっても大きな転換の節目となったが、本フェスティバルにおいても『古きを訪ね、新しきを知る』機会としたい」と語っています。
今回は、金島隆弘がディレクターを務めた「エキシビション部門」に21組、沖縄の工芸品を展示販売する「クラフト部門」に20組が参加。芸術祭期間中オープンするショップ「YAF CRAFT MARKET」では、浦添市港川でセレクトショップ「PORTRIVER MARKET」を営む麦島哲弥・麦島美樹がキュレーターとなり、「ボタニカル、植物のある暮らし」をテーマに、やんばるで活動する工房や作家を中心に、やちむん(陶器)や琉球ガラス、紅型、芭蕉布、染織物、木工などの工芸品を集結させました。半分近い作品がYAF初登場とのこと。エキシビション部門訪問のあと、とっておきのクラフトを探しに訪れてほしい限定ショップです。なお、YAFネットストアはこちらまで。
https://yafokinawa20.thebase.in/
このほか、会場や展示作品がオンラインで楽しめる3Dインスタレーションビュー、期間中開催されるアーティストパフォーマンス、トーク、ワークショップなどのイベントを随時配信予定です。「デジタル、バーチャル、リモートの時代だからこそ、離れた場所にいながらにして共時性を感じるような新時代のアート知新を試みたい」(仲程長治)という想いのもと新しい試みも積極的に展開、遠隔からも楽しめるよう、YAFを盛り上げます。
メイン会場・大宜味村立旧塩屋小学校のアート展示企画では、「Nature Land」と題し、ジミー大西が未発表の新作を含めた平面および立体作品約20点を展示するほか、オクマ プライベートビーチ & リゾートでもアートラッピングカー「輪」を展示。
同会場の体育館ステージでは尾竹隆一郎×福本健一郎(OTAFUKU STUDIO)がドローイングや絵画、彫刻を展示。福本はコロナ禍において「大切な人との距離を考える機会となった」とし、日常の風景に自分を投影した作品が生まれたことを明かし、尾竹は沖縄の写真を撮り続けているオランダ人のアーティストRoosmarijn pallandtがコロナ禍で来沖が叶わなかった彼女に捧げる作品を発表。
ニューヨーク市在住の現代作家であるKAORUKOは、2020年秋、徳島県吉野川市でアワガミ・アーティスト・イン・レジデンスに参加し、古くから継承されてきた「阿波手漉き和紙」を使用した『Oogetsu hime』を制作。描かれたのは、大宜都比売(おおげつひめ)は古事記に登場する穀物の神とされる女神。「彼女が纏っている着物の柄は紅型にも通ずるもので、沖縄とのつながり、ご縁を感じています」。
体育館では、ドイツ在住のビジュアルアーティスト、短編アニメーション映画作家であるアンドレアス・ヒュカーデの短編映画も上映予定(教室では展示もあり)。
飛生アートコミュニティーは1986年北海道白老町で発足したアートコミュニティー。土地に残る(眠る)神話や伝承、歴史や地勢に焦点を当て、イラストレーターを中心としたアーティストが、フィールドワークや文献リサーチ、地域住民へヒアリングを実施しながらシルクスクリーンやステンシル技巧などを用いて土地が持つストーリーを平面作品にしてきた。今回は「シㇽキオ・プロジェクト in やんばる」と題し、塩屋小学校のある塩屋湾が舞台である500年続く伝統行事「ウンガミ(海神祭)」をフィーチャー。「どんなことがあってもウンガミだけは続いてきたが、今回(コロナ禍で)初めて中止になったのだと無念そうに話してくれた地元の方々に、誰よりも観にきていただきたい」。
台湾の現代作家、林冠名は映像作品で参加。窓に、自身のとっての沖縄カラーであるオレンジ色のセロハンを貼ることで、映像に映り込む光の印象で夕暮れや島を表現。島である台湾と沖縄の両方に想いを馳せたそう。
染谷聡は、沖縄県立博物館が所蔵する『朱漆山水楼閣人物堆錦椀』をモチーフに「琉球海景」を表現。琉球漆器に描かれた中国風の景観が、「沖縄の工芸品」として琉球政府時代の琉球切手(3セント)の図柄になるなど、中国なのかアメリカなのか沖縄なのかが交差する歴史的な面白さを自身の解釈で辿り、3作品を制作。作品の向こう側に垣間見える扇形の盆石も「物語」と「景色」の一部として鑑賞してほしいと語ってくれました。
スケートボードは「生きがいであり自分の表現」と話すDaichi Koyama:D。滑りながら描く線は「残像」だが、それこそが自分の魂を表現していると語ります。教室の中心に置かれた木製のインスタレーション「源」は「はじまり」を意味し、四方八方に鮮やかにエネルギーを放っています。
ドローイングを中心にイラストレーションや漫画などを手がける寺本愛。鹿児島の離島での生活から、身体の皮膚感覚の変化を感じるとともに、島と海とを隔てる島の海岸線について考えるように。YAF参加は2度目。今回描かれた作品の輪郭の強さに、彼女の変化を感じるはずです。
2020年2月にオープンしたホテル アンテルーム 那覇のコレクションより、宮古島出身の八木恵梨による沖縄のモチーフを使用したドローイング作品、ホテルのギャラリースペースで存在感を放つ小林絵里佳や堀口葵による立体作品が登場。小林の無機質な素材で有機的な動きを表現する試みからは、両局に存在するものの面白さが見えてきます。堀口の作品は実際に触ることで意外性に気づくことができるのでお楽しみに。
総合ディレクターである仲程長治もアーティストとして参加。「空紗美羅 - クーシャビラ -」とは八重山の言葉で「継ぎ接ぎ」のこと。染織家の石垣昭子さんの作品の切れ端を自身の作品につながる世界を空間全体で表現。種子から植物が芽吹き、糸が生まれ、紡がれていく営みが広がっています。
沖縄の子どもたちから募った物語から選んだ『キセキのデイゴ』の空間とパフォーマンスで表現&上演するウサギニンゲン。物語の舞台を実際に訪れ、取材から作品を生み出すのも、映像と一緒にパフォーマンスをするのも初の試みとのこと。
石垣島出身のバンド「BEGIN」のギターボーカル、島袋優が描くウクレレ。小さな空間はまるで録音室のよう。浜の砂も敷かれており、「波とウクレレ」という名前のとおり、その世界に一気に引き込まれるはずです。
丹羽優太が2年前に北京在住のアーティスト孫遜との縁を得たのはYAFでした。スタッフとしてともに空間を作り上げたのち、北京へ留学し、彼のスタジオに滞在し制作を行っていましたがコロナ禍の影響で帰国。実家の両親や京都のお寺の副住職さんとの共作、清水焼の釜で手がけた立体作品、さらに孫遜と共作した新作を2年前と同じ家庭科室を舞台に披露します。「また一緒にお酒を呑めますように」という想いを込めて。
Mrs. Yukiは、自然界の遺伝交配に関心をいだいた平嶺林太郎と、爬虫類や昆虫がもつ形状や色彩に惹かれる大久保具視で2009年に結成されたアートユニット。暗闇の中で星のように光るそれを見つめると、ひとつひとつが昆虫たちの営みであることが分かります。さらにそれは同性同士の営み。彼らが問いかける「生命同士の精神的な強い繋がり」を、星を探すように見つめることができる空間です。
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