見出し画像

『分断された都市』

大阪ガスに勤務する山納さんには、昔からお世話になっている。studio-Lを立ち上げる前からお世話になっているから、もう15年以上の付き合いになるだろう。

まだ設計事務所に勤務しているころ、山納さんが主宰する勉強会に講師として呼んでくれた。人前で話をすることなどほとんどなかったので、何を話せばいいのかいろいろ考えたことを覚えている。うまく話ができたのかどうかはわからないが、山納さんは同じ勉強会に何度も呼んでくれた。この経験が人前で話をすることに対する自信をつけてくれたし、studio-Lを設立し、独立した立場で仕事をする勇気を与えてくれた。

その後、山納さんが主宰する「コモンカフェ」で講演会をさせてもらったり、イベントを企画させてもらったりした。大阪ガスの内部の勉強会でも講師をさせてもらったりした。

2019年、フェイスブックの記事で山納さんがボストンに留学していることを知った。ちょうどアメリカへ行く用事があったので、さっそく山納さんに連絡してみた。留学も終盤に差し掛かっている時期だったそうだが、「ぜひ会いましょう」という返事をもらった。

ボストンで山納さんと会ったとき、話題になったのは都市のジェントリフィケーションについてである。衰退した地域を活性化させるのは難しい。しかし、活性化させることができたとして、「もうこれくらいでいいだろう」と判断するのはもっと難しい。結果的に、地域がどんどん高級化してしまい、かつていた住民が生活しにくい状態が生まれてしまうことがある。アメリカのいくつかの都市でそれを見てきたし、日本でもそういう地域を目にしたことがある。

コミュニティデザインに携わる者として、都市の行く末が生活者不在のまま事業者の思惑によって左右されるのを見ているのは歯がゆい。そんな問題意識があったので、ジェントリフィケーションの事例が多く見られるアメリカでは、そのあたりをどう認識しているのか山納さんに尋ねたのである。

山納さんは、ちょうど留学先の大学でそのことを学んでいた。アメリカでは、ジェントリフィケーションに関する論文がいくつも発表されているという。また、書籍も多く出版されているという。そして、ジェントリフィケーションを起こさない都市開発の手法が模索されているという。

そもそもアメリカでは、ジェントリフィケーションを心配するよりまず、衰退した地域をどうやって活性化させるのかが大きな関心事となっている。だから、行政も企業も地域経済を活性化させるためのプロジェクトを次々と興す。それが功を奏すると、今度は高級化によって生活できなくなった人たちをどうやって救うかということが問題になる。都市の衰退はあまりに大きな問題であり、関係者は対応策を講じることに精一杯である。うまく行くように次々と事業を展開する。それゆえ、うまく行き過ぎた状態(都市の高級化)にどう対応すべきなのかはほとんど考えられていないのである。

衰退した地域に対して、さまざまな事業を展開して活性化させることができると、多くの人から称賛されることだろう。「よくやった」ということになる。すると、その路線を変更しようという気持ちは薄れていく。自分たちは「よくやっている」と思ってしまう。

そこに「地域が高級化して生活できなくなっている人がいる」と水をさすような指摘があったとしても、「かつて衰退していたときよりマシだろう」と言いたくなる。「地価も上がり、物価も上がり、税収も上がっているのだから、その税金を使って生活が苦しくなった人の福祉事業を展開すればいいじゃないか」という話になる。そういう話を聞いていると「生活できなくなった人は、ちょっと努力が足りなかったんじゃないか」という響きが含まれていたりもする。

それは何かがおかしい気がする。地域を高級化させておいて、生活しづらくなった人たちは増えた税収で保護してあげようという態度。「努力しなかったんだからしょうがないよね」という雰囲気。そんな態度や雰囲気を生み出すために、我々は都市を作ってきたのだろうか。もっと違う都市像をイメージしていたのではなかったか。

そんなことを、山納さんとボストンの公園で語り合った。そのとき、「ちょうど面白い本を翻訳しているところです」と山納さんから聞いていた。『分断された都市』という本だという。とても興味のある内容だった。「ぜひ日本に戻ったら出版してください!」と伝えていたら、本当に出版されることになったという。そのうえ「帯の文章を書いてほしい」と依頼してくれた。二つ返事でお引き受けした。

そんな経緯で推薦文を書くことになった山納さんの訳書『分断された都市』が発売される。ぜひ、多くの人に読んでもらいたい内容だ。

画像1

▲ボストンの公園で山納さんの話を聞く。山納さんは「聴く人」だ。油断するとこちらばかりが話をしてしまう。こちらも注意深く聴かなければ、山納さんの話を引き出すことはできない。

画像2

▲ボストンの公園で話をする山納さん。

画像3

▲油断すると傾聴モードに切り替わる。

画像4

▲山納さんを饒舌にするためのファシリテーションが求められるw。

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
おお!ありがとうございますー!!
28
studio-L代表。コミュニティデザイナー。社会福祉士。

こちらでもピックアップされています

学芸本の読み方
学芸本の読み方
  • 60本

学芸出版社の本や会社について書かれたnoteの記事を集めています。

コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。