世にも奇妙な実話 野坪の蠅 #6
【第三話】できる幽霊
レトロ屋敷には不思議な話が集まる。
この話は鑑定に訪れた写真の青年(手前)から直接聞いた実話である。
主人公は写真に写る青年が通っていた高校の後輩Mだ。
夏になると肝試しと題し、若者たちは有名な心霊スポットへ好んで向かう。Mもその一人だった。東金・ラブホテルの廃墟。Mは、8~10人の男友だちと単車に乗って向かった。
この呼び名でピンとくる人は、地元人や廃墟好きだろう。
有名な心霊スポットだと知らないわたしに、現地を知る友人が教えてくれた。
国道の脇から少し入った通りに建つ廃墟内で、数年前、殺人事件が起きた。想像しただけでも、鳥肌が立つ。廃墟は最強の心霊スポットとして、テレビで取り上げられていた。
*
心霊スポット『活魚』(千葉県東金市)
かつて、『油井グランドホテル』名で営業していたラブホテル。経営不振で、生簀(いけす)料理店『活魚』に経営転換するも、数年で閉店。廃墟となった。メルヘンチックな外見から似合わない看板だけが残され、地元の若者から肝試しスポットとして話題になった。
2004年12月。不良高校生に拉致された女子高生が、廃墟に連れ込まれ殺害された。殺人事件が起きたことで、幽霊が出るとの噂も広まり、瞬く間に全国でも有名な場所となった。
*
Mは、廃墟には入らなかった。廃墟の中に入った友人を外から眺めていた。待ち時間の退屈さと、恐怖から身を置く場として、手元のスマホをいじった。
そんな時、タイミング良くラインが入った。
――あなたがすき わたしとつきあって
突然、女性からコクられた。悪い気はしない。ラインで送られてくる内容から、女友だちの顔を一人一人思い浮かべた。いったい、こいつは誰だろう。Mは深く追及せず、そのまま女友だちとやり取りを交わした。
――あいしている つきあって つきあって
Mは、女友だちから必要に迫られた。何度コクられても心は動かない。自分には、付き合っている彼女がいる。告白されても相手に答えられない。時間を潰す相手とのラインにMは、ピリオドを打った。
――オレ、彼女がいるから付き合えない。
とどめを刺した。彼女がいれば、女友だちは引き下がってくれる。相手の告白を受け入れられない答に返信はなかった。
良かった。諦めてくれた。ポケットにスマホを突っ込むと、廃墟から友人たちが小走りで戻ってきた。
「やっぱ、こえーなぁ。オイ、ニケツで帰ろうぜ」
一人で運転するのがよほど怖かったらしい。Mをニケツに誘った。座ろうとするタイミングで、ポケットのスマホが受信した。さっきの女友だちだ。
――かえらないで
しっつこい女だなぁ。今度は無視をした。バイクにまたがると、続けてラインが入る。
――かえらないで
辺りを見回す。誰かがイタズラしているのか。それともどこかで行動を見ているのか。バイクのエンジンが深夜に響き渡り、冷やかな空気が耳の後ろに流れた。真っ暗な森で、スマホに映った次の文字に怖くて体が震えた。
――いま あなたのうしろにのっている
全身に冷や汗が流れた。背中に冷たいものも感じる。落ち着け。大丈夫だ。自分に言い聞かせると、身をよじりゆーっくりと首を横にねじった。
……誰もいない。なんだ、イタズラか。
活魚を後にすると、近くの公園で女友だちとのライン話で盛り上がった。
友人たちに助けを求めるが、面白がって取り扱ってくれない。
ラインの一部始終を見せるが、なかなか信じてくれない。
「なぁ、この中の誰かが後ろでイタズラしてんじゃねぇの」「お前かよ」「いゃ、オレじゃない」と、スマホを囲み小馬鹿にするように笑った。
すると、囲んだスマホが反応するように言葉を返した。
――わらってんじゃねえょ
スマホを囲んでいた男友だち全員が顔を合わす。誰一人、スマホを操作していない。指をスマホに向ける友人の顔が引きつった。相手のライン表示に写真がない。いや、あるが、真っ黒に塗り潰されている。名前の表示も、……ない。
「なぁ、……これガチじゃねぇ」
冷やかな空気が男たちを取り囲む。慌てて、立ち去ろうと単車にまたがった瞬間、ラインの女友だちが別の行動に出た。
草むらから、勢いよくゴミ箱がMに目掛けて飛んできた。それには全員驚いた。悲鳴を上げながら無我夢中で公園から離れるも、恐怖は取り除けない。Mは、一人で自宅へ戻る勇気がなく、そのまま友人宅に泊まった。
友人宅に泊まっても、女友だちからのラインは途切れない。Mは、勇気を持って最後のラインを送った。
――もう、連絡しないからね。
――れんらくしないなら あなたのまわりのひとをひとりふこうにします さようなら
Mは、女の霊に悩まされノイローゼになり、心霊スポットに行った友人二人も、予言通り腕や指を骨折した。
女の霊が、活魚に関係しているかは断言できない。ただ、殺害された女子高校生と同じ年齢もあって、Mは心霊スポットの浮遊霊に好かれたのかもしない。
心霊スポットを面白がっていく人たちがいるが、遊び半分で行かないほうがよい。それでも憑かれた時に、除霊をしてくれる人がいればいいが、いなければどうやって霊を祓えばよいだろう。壱心にたずねた。
「あえて人混みに出掛ける。居心地のいい場所に浮遊霊は憑くからね」
浮遊霊は、波動が同じ人や精神力が弱い人に乗り寄る。
「幽霊ってラインもできるの?」
「あぁ、幽霊はなんでもできるさ」
今の幽霊はハイテクだ。
『わかって欲しい。私を連れてって。成仏したい』と、あなたの後ろにへばり憑く。
生きている人間に憑き、人から人へと移動する浮遊霊。どこかで霊能者の元に辿り着けたなら、要求通りに成仏できるかもしれない。
***
つづく
『世にも奇妙な実話 野坪の蠅 #7』予告
全国から集まった恐怖体験、不思議な話
不定期に発信します。
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