山崎 くらげ
煙草にまつわるショートショート
流行りの曲には疎い TikTokもほとんど見ない わたしの音楽はバズらない 2020年、大晦日 わたしは鬱のど真ん中にいた 金縛りの続く毎日 重くのしかかるのは 死の予感を纏ったもう一人のわたしだった 彼と二人で見た紅白 玉置浩二がオーケストラをバックに 『田園』を歌った まさかオーケストラが霞むなんて 「生きていくんだ」 真っ直ぐなその歌詞が 心に刺さって抜けなかった 「生きていくんだ」 もう生きられないわたしに 「生きていくんだ」 脳の中で『田園』が鳴っていた 一週間後
病み上がりの身体起こして 肌荒れも見て見ぬふり 何にもない日々の中に ぽつんと特別 ローソクの代わりに 恥ずかしさを吹き消す ホームランバッター いつの間にか年下 すれ違うスカート 青春の香りがする わたし毎日14錠 些細な幸せ 取りこぼさないように ひとつずつ飲んでいく わたしで終わるDNA 切なさを隠して笑う 人肌のぬくもり 誤魔化せない知ってる 黄金色に染まる景色 灰皿の隣に トンボがとまってる 体に毒だよ 追い払ってあげた わたし毎日14錠 些細な不幸せ 取りこ
「私ね、ちっちゃい頃から、高いところからゆっくり落ちてく夢、よく見るんだ」 6階建てのビルの5階、この喫煙室に来ると、いつも窓から下を見ては、此処からゆっくり落ちていく自分を想像する。このジャケットはどんな風になびくだろう。ネクタイは頬に触れるだろうか。4階の事務所の人たちと目は合うだろうか。上手くいけば駐車場のあの辺りに着地できるはずだ。もしそんなことができたら、その時は絶対に__ あの時、俺はなんて返せば良かったんだろう。 「え?」は流石に違ったか。あの時なんて返せば