猛烈台風in宮古島 3
前回の続きを書いていこうと思います。
その前に、お断りです。
当時は、著作権について十分な配慮が行われていない状況でした。
台風の被害写真を、個人用記録用としてダウンロードして保存しております。以上の事情から、自身が撮影したものと、他者が撮影したものを区別することが難しい状況です。
画像の使用に際しては慎重に扱っておりますが。万が一、使用した写真が著作権を侵害するものであった場合は、ご指摘いただければ速やかに削除いたします。ご対応いただけますよう、お願い申し上げます。
まずは、沖縄の台風の基礎知識として。
どの台風も同じですが、吹き返しの風という物がかなり怖いのです。
台風は渦をまいているのは、皆さんご存じの通りです。
当然、台風の目が通り過ぎれば風向きは変わる。これが吹き返しです。
基本的に台風の目に入る前と、吹き返しの風は対になり、真逆に吹くと覚えていると良い様です。
人様の記事ですが、こちらが分かり易いのでリンクを張って置きます。
と、まあ。
そんな感じで、台風の目に入った後・・・ぐっすり寝て起きた私が目にしたのは昨夜と真逆に吹き付ける暴風雨でした。
風向きが変わった事で、バスタオルで水を止めた掃き出し窓は、今朝は全く問題無し。窓の外はベランダなのですが、ベランダへの雨の吹き込みも無し。普通にベランダでくつろげる状態。
そりゃ、風と逆方向ですから当然ですが。
凄い勢いで、色々な物が飛んで行くのが見えますが全然平気。
停電で冷房も使えないので、ベランダ側の窓を全開にして。
雨が吹き込む側の窓は、閉じたまま過ごしました。
お昼はどうしようか、カップラーメンでも良い?なんて話をし、適当に昼食を済ませノンビリとしていると夫の携帯電話が鳴りました。
※ガスはプロパンなので問題無し※
「職場かな」と彼が携帯を手に取ると、違ったらしく。
小さい声で「Hさんだよ」と笑っている。
Hさんは、前の沖縄赴任からの彼の連れで、地元のとあるショップの経営者さんです。電話に出た彼は、しばらく電話をすると通話を終えて大きなため息をつく。
「おい、出掛けるぞ」
「えぇええええ、まだ暴風域内ですが」
「Hさんが、昨日お客さんを伊良部に送り届けて実家に泊まったらしい」
「はあ?この台風来てるのに、実家に?アホなの?」
「宮古の自宅で奥さんが、不安になっていて見に行って欲しいそうだ」
「図々しいわね、あの人。なぜ、アンタに頼むわけ」
「だって、この台風じゃ戻れないって」
「戻れる訳ないっしょ!地元民なのに、危機感なさ過ぎでしょ」
「しかたねえだろ、頼まれたから俺行くわ、お前も付いてこい」
※当時は宮古島と伊良部島を結ぶ大橋は有りませんでした※
※海が荒れれば、隣りの島でも行き来は出来ません※
外に出ると、だいぶ風は弱まってきています。
玄関ドアも二人で押したら、大した抵抗も無く開いたので、危険度も落ちているはずです。
電話によれば、自宅は水が出ないと奥様がお怒りらしい。
当然だよぉおおおお!!!って思うのですが。
なぜか彼の手には、私が買って来たミネラルウォーターのボトルが数本握られていて「ハイハイハイ」です。
赤ん坊がいたら、しかたねえだろう。
という夫の優しさに、ハイそうですね。としか言えませんでした。
彼が車まで走って行き、回してくれた車に乗りこみ出発です。
水没しているわ、ブロック塀や看板が倒れているわ、電信柱は倒れているわ。迂回迂回しながら、少しずつ進みます。
「これ、ついでだから職場までの通れる道も探すわ」
おいおい、暴風圏内の時にやるこっちゃ無いと思うんだが。
港の前を通ると、港は完全に水没状態。
「裏から回るぞ、ここの通り通れないな」
何とか、迂回してHさんのマンション前に到着。
「俺行ってくるわ、お前車で待って居てくれ」
えぇええええ、人の奥さんを助けに行って私を置いてく!?
おぉおおおおい!!!
私は心の声で叫びましたが、取りあえず口には出さないでいました。
25分くらい待たされたでしょうか。
その間も、ビュゥウウウウウウ ゴォオオオオオオ ダーン
恐ろしい風に煽られて、軽く車が浮く感覚が数回。
常時、揺れてゆさゆさ。色々な物が飛んで行く。
生きた心地がしませんでした。
ミネラルウォーターを渡して、戻った彼と今度は空港方面までぐるっと回って帰宅。空港では、自動車が見事に飛んでました。
「今日は、暴風域出ないかもな」
という彼に頷きつつ、夜も冷凍庫は開けず。
その日は、冷蔵庫の食材を使う料理をし過ごしたのでした。
さすがに、翌朝はカラッと晴天。
晴れ間が見えはじめ気温がグッと上がりはじめます。
早朝から、子供達のはしゃぎ声と水の音が響きだしました。
台所の窓から顔を出すと、屋外の共同蛇口にホースをつなぎ
ビニールプールに水を張って大騒ぎ。
子供達が、水鉄砲で水をまき散らして遊んでいます。
「え?停電しているのに水って出るの?」
と言う私に
「アホだな、あいつら。まだ貯水槽に水残ってたのか」
夫は呆れ顔です。
確かに、台所に行き水を出すと水が出ます。
屋上の貯水槽に水が残っている間は水は出るけれど。
停電が解消しなければ、水は出ないって話だったよね・・・納得。
まだ水出るんだ、もう一度水を貯めよう。
再度、水を入れている間に水圧が下がり、遂に出なくなりました。
「あほだなぁ、全員で気をつけていればもう少し水がもったのに」
苦笑いです、しばらくあの家族は白い目で見られるのでしょう。
そんな騒ぎを横目に
「取りあえず、職場行ってくるわ。直ぐ帰ってくるとおもうけどな。仕事無いだろうし。昼はこのパン貰ってく、夜だけよろしく」
いつも通りに、スーツ姿で行くかと思ったら私服のTシャツにチノパンで出発していきました。
我が家はと言えば、オバアに教わっていた知恵袋のおかげで
お皿などの洗い物は極力減らすことができていました。
食器には、食品ラップを掛けラップを捨てる。
トイレには、黒の大きなゴミ袋を掛け便座を下ろし千切った新聞紙をIN。
大なら1回、小なら数回でゴミ袋の口をしばってベランダのゴミ袋に入れるて口を仮留めする。二重にするのは臭い対策。
「トイレに一々、水を流したら切りがないですよ」
仰る通りで、これはとても助かっていました。
ただ、驚いたのが昨日開けた2Lのミネラルウォーターが、グラスに空けて飲んでいたのに腐りかけていました。
非常用だと500mlでないと真夏では厳しい事に気がつきました。大家族なら大容量でも良かったのでしょうけれど・・・。
停電直後に、鍋にためた水はカルキが入っているからでしょうか。相変わらず普通に飲用に利用出来ました。まだ数本2Lの水が残っていますが。
まずは、鍋の水から使用することにします。
昼前になって天気が良くなってぐんぐん気温が上がって来ました。
すると、部屋中の床や畳が潮でベタベタしていることに気がつきます。
その上、雨にずぶ濡れになった洋服やタオルが山盛り。
玄関も泥水が入ったのでドロドロ。
浴槽の水をバケツに移し、大掃除開始です。
掃除が終わったら、今度は手で汚れ物の洗濯。
中腰で、洗濯物を手でゴシゴシ、そして絞って・・・。
手で洗濯をするって、こんなに重労働だったなんて知りませんでした。
ベランダで洗濯を乾しているのに、腰が痛くて伸びない。
洗濯物を擦り洗いしたので、手が真っ赤になり。
必死に絞った関係で、握力が低下。
「こ・・・殺される。しかも、暑いし!!!」
階下から、大音量で沖縄民謡が流れてる。
何か、イライラする。
電池大量に買い込んでいたのかぁ、うっせーわ。
人間余裕が無いと、許容度が下がります。
音楽以上に気になったのが、水の音です。
ジャージャーと、恐ろしい量の水の音がします。
ベランダの手すりに手を掛けて、キョロキョロすると向かいのお家が庭木に延々水を掛け続けている水の音でした。
オバアの話から想像すると「塩害」解除でしょう。
庭木や土壌に潮が付くと、枯れてしまうそうです。
台風一過には、それを防ぐ為に水で潮を洗い流すと話していましたっけ。
とういうか、あの家・・・井戸なのかな。
あんなに水撒くなら、家にも水分けて欲しいわ。
ため息を付きつつ、心身ともに疲れてしまい横になってすごしたのでした。
直ぐ戻ると言っていた夫は、夕方になっても夜になっても戻らず。
台所にロウソクを立てて、手元を照らしながら夕飯の支度です。
多層鍋でご飯を炊き。
溶け始めたネギトロで、今夜はネギトロ丼です。
味噌汁も作って、19時半頃に夫が帰宅。
汗だくの上に、ズボンの裾がドロドロ。
焦燥した顔を見れば、どれだけ大変だったのか分かりました。
食事をしながら、職場の状態を聞くと。
想像以上に酷い状態です。
彼の課の部屋は最上階で、窓が割れたそうで。
休憩室の電子レンジが飛ばされ。屋外で見つかったそうです。
窓が割れて、風が入った関係で電子器機の上に天井が落ち、
水と泥を被り使えない状態になったとか。
問題の無かった、低層階の部屋で仕事をすることになったそうですが。
被害の遭った部屋でしか、出来ない仕事もあり。
高層階から1階までを延々言ったり来たり。
要するに登り降りをし続けた1日だったようです。
階段にも、飛んでしまった物が散乱していて登り降りも
一苦労だったそうです。
翌日も、翌々日も。
水道も電気も戻る気配は無し。
さすがに、風呂にためた水も心許なくなって来て。
さぁ、どうしよう。と思っていた頃。
玄関をガンガン叩く音がしました。
「Yさーん、Yさーん」
どうやら、ご近所さんが来たようでした。
そう言えば、晴れていれば外で奥様方が井戸端会議してたなと。
「はーい、どうしました」
顔を出すと、ぞろぞろ5~6人くらい来ている模様。
「Yさん、良かったわ。生きてたみたいね」
「は?」
理由を聞いた所、Yさんが1度も顔を出さないおかしい。と上司の奥様が心配してくださったとかで。皆さん、がん首揃えて様子を見に来たそうな。
社宅って、上役の奥様の一言は神の一言みたいな所があるのです。
ですから、言われたまま大人数で安否確認に来てくれたようです。
外に出ると、幹部のIさんの奥様が心配して矢継ぎ早に質問をしてきます。
食事は摂れてる?
水分は補給できてるの?
怪我は無い?
被害は無い?
家族は大丈夫?
等々、だって・・・旦那は職場に出勤してるはずなんですが。
あの人、どれだけ影が薄いやら。
奥様方の話を聞くと、この台風直前まで風が強くならず。
毎度おなじみの「被害の無い台風」程度に思っていた人が殆ど。
水は多少ためて置いたけれど、トイレを流すのに使ってしまい。
食事は缶詰か、スナック菓子しか無くて。
家族全員で1つのスナック菓子を開けて、炭酸飲料飲んでいたとか。
困ってコンビニに買いに行ったら、コンビニはやってない。
スーパーに行ったら、長蛇の列でスーパーのガラスが割れていて。
棚に残った分を、1人3点まで購入可で袋麺買って来て調理せず囓ったとか。
お子さんがいらっしゃるお宅ほど悲惨な状態だったようです。
Yさんのお宅は、何か食べる物あったの?って聞かれたので。
「ネギトロ丼と、味噌汁とか。麻婆豆腐とか」
普通のメニューを言ったら、皆さんどん引き。
どーして、引くのよ(笑)
「電気が通ってないのに、どうやってご飯炊いたの」
「生ものは、どうして食べられたの」
もう、質問が矢継ぎ早に。
「ねえねえ、凄い応用力だよね」
皆さんに褒められて、恥ずかしいやら、こそばゆいやら。
ワイワイ大騒ぎになっているので、ここで私が質問をします
「所で、心配だから呼び出した訳では無いですよね」
その質問に頷くとIさんが
「今水が出ないでしょぉ、近所の一軒家は水が出ているので夫に頼んで職場に水が出ない理由を聞いて貰ったの。で、屋上の貯水槽に水を汲み上げる為
の電力が無いだけで、水道そのものは普通に出るらしいのよ」
その言葉に、一同驚き顔になる。
「でね、今。総務課に、ポンプ室の鍵を貸し出しして貰うように依頼したので午後にはポンプ室を開放するので、水を汲みに来てくださいね」
誰とも無く、ありがとうございます!!と頭を下げ始めました。
さすがに、ポンプ室の水道が出るとは思いませんし。
「あとね、家の人が大阪に掛け合って自家用発電機を手配したのですが。
今夜、燃料が入って届くので1家庭30分だけ貸し出しますので何に電力を使うか考えて置いてくださいね。
30分使い終わったら、次の方に回すを心がけてください。燃料はギリギリなので1人でも多く使ったら最後の人が使えなくなりますからね。いいですね!」
自家用発電機と言う言葉に、皆手に手を取り合ってピョンピョン飛び跳ねて喜んでいました。これほど、電気が無いというが不便だとは誰も思わなかったのです。
午後になり、外から
「ポンプ室開いたわよ~!!」
と大きな声が聞こえ、自宅からポンプ室まで何往復もして水を運びます。
取りあえず、残っていた水を洗濯機に入れ汚れた衣類を突っ込む。
洗剤を使うと、すすぎも必要なので水を通すだけにしようと決めます。
半分以下になった浴槽に、半分くらいまで水を貯め。
発電機が来たら、お風呂を沸かすことと、同時進行で洗濯機を回す事にしました。出来るだけ、遅い時間に来てくれたら久しぶりに清拭でなくお風呂を使える!
水も出ることも確認出来たし、水くみは大変だけれど水の心配も無くなって一安心です。後は、電気が元にもどればな・・・と思うのですが。
ご近所から情報を引き出してきた人によれば、復旧は1週間を目安にと言う事らしいです。
この時、全国から電気工事のトラックが宮古島にフェリーで上陸した頃でした。少しバイクで走ると、全国各地のナンバーをつけた工事車両が復旧工事をしてくれていました。
宮古島は、ほとんどの地域で停電。
至る所で、電柱が折れたり、倒れたりしており前途多難でした。
また、自衛隊の災害派遣も決まり。
翌日には、空に大量の航空機が飛んできて「これで助かる!」と気持ちが緩んで涙を流したのを思い出します。
夫の職場には、関連会社から「被災のお見舞」という名目で空輸で食料が届けられたりして少しずつ状況が良くなってきました。飽くまでも、勤務者のみにしか分けられない量でして、家族に回す分はありませんでした。しかし、夫の食料だけでもあれば助かるのは事実でした。
島の食料は、空輸ではなく船で入って来ますので。
海の荒れは、台風が過ぎても直ぐ収まる事は無く。
やはり、オバアの言っていた1週間が目安だったのです。
話を戻し、日が暮れる頃になり。
社宅の中で、ディーゼルエンジンをアイドリングしている様な音が響き出しました。どうやら、自家発電機が各家庭を回り始めたようです。
どんどんエンジンの音が近くなり。
「Yさーん、こんばんは!発電機置いていくわね」
ポリタンク2つ分くらいの大きさで、持ち手の付いている発電機がドドドドドドドと音を立てながらやってきました。
玄関に置いて、早速洗濯機のコンセントを挿し。
お風呂の電気をつなぎ、追い炊きで湯船の水を沸かす。
30分で洗濯機終わるかな?
お湯沸くかな?
ソワソワしながら、タイマーを動かす。
お湯は、20分で良い感じになり。携帯電話を充電する。
洗濯機は25分程度で終わり、セーフ。
残り数分のこして、向かいのお宅に発電機を回しました。
その日は、色々なお宅から笑い声が響いて久しぶりに明るい雰囲気の社宅になっていました。
我が家も久しぶりに、温かいお風呂に入ってノンビリサッパリして。
疲れが癒えた気がしていました。
次回は、台風後の後日談等書いてみたいと思っています。
引き続きよろしくお願いいたします。
<続く>
おまけ
マエミーについて、 風工学シンポジウムさんのPDFです。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kazekosymp/18/0/18_0_000038/_pdf
大変光栄です!ありがとうございます❤️