一太郎というワープロソフトの功罪

浮川夫妻が生み出した日本語入力、かな漢字変換システムは素晴らしいものでした。しかし、その後のパソコン普及を牽引したのは、なんといってもワープロソフトの「一太郎」でしょう。

特にビジネス用としてのパソコン普及には、「一太郎」が果たした役割は大きかったです。

もちろんパソコンだって幹業務用ソフトのためにも使われていたでしょう。だけど基幹業務用ソフトでは、決まった手順で数値を入れるだけ、ということがほとんど。そこには頭を使うこともなければ、創造性が求められることもなく、決まりきったルーチンの入力作業しかありません。

ところが「一太郎」なら、自由に書類を書くことができた。罫線を引いたりフォントサイズを変えたりすることで、そこそこ見栄えのいい書類を作ることができた。専門家の手を借りなくても、ちょっとした書類の雛形を簡単に作ることができた。これらは、実に刺激的でした!

だから初期のパソコンは、データベースや表計算というよりはワープロソフトで見栄えのいい書類を作るために普及したと言って過言ではないでしょう。

もっとも何事も良し悪しがあって、「一太郎」の普及によりパソコンで仕事をするとは、ワープロソフトで罫線を引いたりフォントをいじったりして体裁のいい書類を作ることに限定された、とも言えます。この「体裁のいい書類作り」という遺伝子が、データを使いまわしを無視したフォーマット偏重主義を助長し、ひいては「神エクセル」などと呼ばれる究極の見栄え重視書類を生み出したりした、とも言える。


それならば、もしもワープロソフトの「一太郎」がシンプルなテキストエディタ風のソフトで、罫線やら文字修飾がなかったら、その後のワープロ文書は違ったものになっていた?

いやいやいや、その場合はパソコンそのものが普及しなかったと思うですよ。
だって、パソコンが普及したのが「一太郎」のワープロ機能なんですから、という堂々巡り……。