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『サカナとヤクザ』鈴木智彦

2018/10月 小学館

2018年末に話題になっていたので買ってみた。
何よりまず表紙が良い。白黒の表紙写真に「サカナとヤクザ」、真ん中にひらがなの「と」を置きその左右に対象にカタカナで「サカナ」「ヤクザ」を縦書きにする。表紙いっぱいの赤い字はまるで血のようで。ヤバさばかりが伝わってくる。

 著者は福島第一原発の現場に乗り込んでレポートしたものが絶賛されていた(『ヤクザと原発』2014年文藝春秋)。そちらは読んだことはなかったので、衝撃的(ワイドショー的)な事件の羅列や著者自らのすごい体験レポかな、とそんな期待値で読みはじめた。

 最初は築地での体験レポートで、築地の人たちとの関わりなどだった。人情にも触れて、世の中のレールから外れた人も救ってくれる、築地移転の話題がなければ昭和かもしれないと思ってしまう、割と期待どおりだった。

 そのうちだんだん様子が変わってくる。ヤクザと漁の切っても切れないズブズブの関係。海の資源を洗いざらい獲る様。取り尽くし、なくなったら次の漁場もしくは次の獲物をまた取り尽くす、本当に節操のない密猟ぶりが次から次へとレポートされるのだ。

 その内容に信頼と重さを与えているのが、筆者の綿密な調査だ。体験レポートだけでなく、なぜそのような密漁が行われることになったのかその土地柄、政治的背景、歴史的背景まで調べあげ、証人を探してインタビューをし裏を取り付ける。

 例えば、北海道の根室〜北方領土あたりの密猟ビジネスはソ連と日本の国同士の関係が多いに絡む。まず漁場や漁をすることが大きく制限されるような事態となった。もともと北の海で漁をしていた漁師たちは当然今まで通り魚を獲りたい。海は今までと変わらず目の前にある。その結果、ソ連のスパイとなって漁を続けるということをやるようになった(ソ連のスパイになるためには一度ソ連の警備に捕まって尋問をうける、というプロセスがある。そこに自ら飛び込んでいってスパイとして合格して漁をつづける権利を得る)そういうきな臭い仕事には大抵ヤクザが絡んでいる。しかしそれもやがて崩壊する。ソ連が崩壊してロシアになったからだ。


 また最近騒がれている絶滅危惧種のウナギは消費者側の意識にも課題があると指摘する。天然物も養殖物も実は味の違いなど分からないのに天然物ばかりをありがたがる(実際は味は違うらしい)。そこにつけ込んで日本のヤクザが中国、台湾、香港に仕組みを設けてはうなぎを取りまくるのだ。ウナギは実は絶滅危機に瀕していないという言説も一部で報道されているが、そのカラクリもこの本に書いてある。

アワビ、カニ、ウナギ…
…食べるのが怖くなる
一言で言うならばとても迫力のある本だった。


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