年をとって西野カナが好きになってきた


会いたくて 会いたくて 震える

西野カナの曲と言えばだいたいの人のイメージがこれだと思う。


ただその曲を書いたのはもう7年も前のことになる。この曲で西野カナは、流行りの音楽がわからないおじさんたちにも知られるほど有名になった。当時20歳でゴリゴリの童貞だった僕にとってもこの曲は大きな衝撃だった。歌詞に衝撃ということよりも、この曲が世間の若い女の子に共感の嵐ということに衝撃だった。

「え?世の中の女子って会えないだけで震えるほどの恋をしてるの?もっと恋以外にやることあるでしょ。」そんなふうに、ゴリゴリの童貞は普段女子と会うと挙動不審に震えてるくせに、西野カナに共感している女子たちを見下すことで自我を保っていた。

そう、言わば西野カナは自分とはほど遠い恋愛をしている女子の代表、言わば自分を相手にしない女子の代表、言わば敵だったのだ。もう勝手に西野カナと別れた元彼の気持ちになって、別れた後にこんな曲書かれたらたまったもんじゃないとか思っていた。


恋愛のことしか考えないような女子代表の西野カナは、僕の嫉妬心と比例して曲を発表するごとにどんどん売り上げを伸ばして行く。そうなると敵の曲でも否が応でも耳に入ってくる。ここからは僕の印象に残っている曲を挙げていく。


君って 君って 泣いたりしないんだね 思い出してごらんよ
私は 私は 不器用だけど今は 全てを受け止めたいから ここにいるよ


人としてめちゃめちゃ成長してる!!

この曲は『会いたくて 会いたくて』から数ヶ月後に発売された曲だが、この短期間で何が西野カナを変えたのだろうか。あんなに自分勝手に、「会いたくて 会いたくて」と歌ってた人が、慰める側にまわっているのだ。こっちは元彼の気持ちになってるから、「どうせまた自分たちの恋愛のことを歌うんだろ?ちょっともうやめてくれよ。」って考えてたのに思いっきり次に進んでいる。女子は切り替えが早いっていうのは本当だったのかと痛感した曲である。


一時期は失恋ソングの女王とまで言われていた西野カナだが、こうして人として成長した結果、また新たな曲を発表する。

Ah なんで好きになっちゃったのかなあ
私って少し変わり者なのね
Ah こんなにも放っておけない人は
星の数ほどいる中で ねえ Darling あなたしかいない


めちゃ幸せになってる!!!!

そりゃそうだ。あんなに人を受け止められる人になっていたら幸せになるわけだ。『会いたくて 会いたくて』から4年、自分の願望を押し付けるだけだった少女が、好きになっちゃった私の負けだからしょうがない的な大人の女性の恋愛をしている。しかも同棲している。これで会えない心配もない。元彼の気持ちになっていた僕からしたら、なんであの時にこうなってくれてなかったのかなという気持ちだ。しかしそれを言うのも野暮な話だ。この彼氏とこのまま上手くいってほしいと願うのが元彼としてあるべき姿だ。


その1年弱後に発表した曲がこの曲だ。

もしも運命の人がいるのなら 運命の出会いがあるなら
あなたはいったい どこで寄り道しているのかしら?


別の人探してる!!?

上手くいってほしいと願った矢先、また別の運命の人を探そうとしている。この1年弱の間に何があったのだろうか。しかしよく考えてほしい。『会いたくて 会いたくて』と言っていたころは、失恋してもその元彼にずっと固執していた。それなのに今回はもうすでに前を向いて進んでいる。曲調もかなり明るい。同棲までしていたのに、この明るさはやはり西野カナの人としての成長を感じずにはいられない。

ただ歌詞の中にある『好きになった人がタイプ』というスタンスに少し不安が残る。【Darling】のときにも『理想の人とまるでかけ離れてるのに』と言いつつ、『なんで好きになっちゃったのかなあ』と言っている。これは西野カナが理想を追い求めず、ダメな男を好きになってしまいがちなことを表している。いやむしろ西野カナには、はっきりとした理想なんか本当はないのかもしれない。実際に【もしも運命の人がいるのなら】の歌詞の2番にはこんな歌詞がある。

やっぱり優しい人がいい もちろんそれがそうだけど
優しいだけじゃ Ah
「俺についてこい」と言われても 黙ってはついて行けないし

どっちだよ!!

優柔不断すぎる。こんな曖昧な理想で運命の人を待っているというスタンスではそりゃ近づいてきたダメな男にひっかかってしまうのは当たり前だ。


そう考えているうちに、この4ヵ月後にまたすぐ曲が発表された。

これからもどうぞよろしくね。 こんな私だけど笑って許してね。
ずっと大切にしてね。 永久保証の私だから。


運命の人見つかってる!!!

あんなに受け身だった西野カナなのに、自分を『永久保証』と言い切っちゃうくらいの運命の人をすぐ見つけている。しかし歌詞をよく聞いてほしい。この曲は自分の取り扱い説明書というスタンスがゆえにトリセツというタイトルだが、実際は自分の要望を押し通して理想の男に育てあげようとしているのだ。

定期的に褒めると長持ちします。 爪がキレイとか
小さな変化にも気づいてあげましょう。 ちゃんと見ていて。

この部分なんて4文も使っているが、真意は『ちゃんと見ていて。』で終わる話だ。相手を受け入れるだけでは、理想の相手を待つだけでは、自分の恋は上手くいかないんだと気づいた西野カナはついに、自分の理想の男は自分でつくりあげればいいと気づいたのだ。このあたりがトリセツに反感を抱く男性が多い理由かもしれない。

つまり、いろいろと自分を変えてみたが、【会いたくて 会いたくて】の頃と同じように、一周して自分の要望を押し通すスタンスに戻ったのだ。寄り道してたのは運命の人ではなく、西野カナ自身だったのだ。


そして今年2017年、西野カナは自分に正直な曲を出す。

パッとハジけたいの スカッとしたい気分
もったいないわ 楽しまなきゃ 人生一度きり


パッ!!!!?

完全に悟っている。『会いたくて 会いたくて』言っていた西野カナが、『パッ』である。今までも等身大の自分を歌っていたかもしれないが、この曲が一番本心なんではないかと思ってしまうくらいシンプルに自分の欲求を歌っている。トリセツのときの彼氏にフラれて、もうなんでもいいやで『パッ』となったのか、トリセツの彼氏とそのまま上手くいってハッピーになったから『パッ』なのかはわからない。しかしとにかく西野カナは『パッとハジけたい』のだ。『スカッとしたい気分』なのだ。

「そうこれでいいんだよ。あんまり難しく考えずありのままいこうよ!」こんなふうに西野カナは伝えたいのかもしれない。僕もそれでいいと思う。いつの間にか西野カナに共感を抱くようになってしまっていた。僕も『パッとハジけたい』し『スカッとしたい気分』なのだ。こう思えるようになったのも僕自身が年をとったからだろう。気づいたら西野カナはもう女子の代表だけではない。僕の代弁者にもなっていた。



そんな西野カナが今年の7月に発表した最新曲がこれだ。

So girls, put your hands up  Hey girls, さあ声あげて



おじさんも仲間に入れて!!!!




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