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地域猫活動の基礎から学ぶ。―TNRや保護猫活動を知るには―(後編)

地域猫活動と一言でいっても、その活動範囲は多種多様。よく耳にするTNRや地域猫への餌やりはもちろん、自宅やシェルターでの保護、そして譲渡など。やることはとにかくたくさんある。今回は九州地方で個人にて猫の保護や地域猫活動を行なっている、yurinaさんにお会いし、実際に活動の一部に同行。朝は4時台から始まり、日によっては深夜まで猫たちと向き合う。後編では、猫たちを取り巻く社会問題について紹介する。

地域猫活動の先にあるものとは?

yurinaさんの他にも地域猫活動を行なっている人は、個人だけでなく団体も含めて全国に数多くいる。彼女たちが活動を続けるのにはもちろん理由がある。
「私がTNRを最優先させるのには理由があります。前編でも少しお話ししたように、自分のキャパシティを超えたことにより、多頭飼育崩壊を起こしてしまう保護主の方の話を聞くことも多く、その度に心苦しくなります。最初は目の前の猫を、救いたかっただけなのにな……と。山で暮らす猫たちの中には、もともと飼い猫だった子も多く、ものすごく人慣れし、人が大好きな猫もいます。そんな猫たちを見ると、私も家に連れて帰りたくなるし、満足いくまで撫でてあげたいと思うこともあります」

「初めのうちは連れて帰ることもあったのですが、現在は猫がリターンしたあとに人生を全うできるように、地域猫としてお世話する方向へと切り替えました。正直なところ、外で暮らす猫たちが長生きすることは難しく、だいたい3〜4年ほどで姿を見かけなくなることがほとんどです。交通事故や病気、寒い冬を越せないなど、亡くなる理由はいくつかあります。長生きできないことは悲しいですが、長く生きられないからこそ、TNR活動を続けていけば繁殖させないことで、外の過酷な状況の中で暮らす猫たちは減っていくのです。だからこそ、私はTNR活動を続けています」

外で暮らす猫たちを取り巻く環境の問題点。

外で暮らす猫たちを取り巻く環境については、さまざまな危険や問題点が存在する。

1.十分な餌の確保

「外で暮らす猫たちの中には十分な餌を確保することができず、飢えをしのいでいる猫たちが多くいます。私が山に通い始めた当初は、猫たちが痩せ細っていて、多くの猫たちは冬を越すことすらできませんでした。現在は体格も良くなり、風邪をこじらせる猫も減ったことで、ほとんどの猫が冬を越せるようになりました。また、餌やりボランティアを行なっているおじいさんが、雨や雪、日光を防げるテントやスチールハウスを作ってくれたことも大きいですね」

2.人慣れによる虐待の危険

「地域猫たちも飼い猫同様、ものすごく可愛いです。しかし、一定の距離感は保つようにしています。その理由は、人慣れしていると虐待へつながる危険性があるためです。世の中には、残念ながら猫に危害を加える人がいます。特に人慣れしていて人好きの猫は、人間に対して警戒心が少なくなり、ターゲットにされやすく、虐待へのリスクも高まってしまうのです。人に慣れている猫に非はひとつもありません。しかし、大事に見てきた猫たちがそのような辛い目に遭わないように、甘えてきても適度な距離感をとるようにしています。本当はたくさん可愛がってあげたいので心苦しいのですが、猫たちのためにも大切なことだと思っています」

3.遺棄による猫の増加

「“猫捨て山”は通称名の由来にもなっているように、飼い猫などの遺棄が多い場所でもあります。今年に入ってからも数匹の猫が捨てられており、その猫たちは突然、山での暮らしを余儀なくされている状況です。現在は行政や警察にもかけあい、警察による見回り強化に加え、行政は予想を上回る台数の防犯カメラを設置や看板などを貼ることで注意喚起を促していますが、それでも遺棄はなくなりません」

未来へ向けて啓蒙を続けることが今後の課題。

 yurinaさんは現在、小学校で絵本読み聞かせボランティアなども行なっている。
「幼い頃から命の大切さを伝え、知ってもらうことが大事だと思い、月に二度、小学校で絵本読み聞かせボランティアを始めました。猫の殺処分について、当時小学生だった女の子が書いた作文を絵本化した『78円の命』を中心に、命の大切さを改めて考えてもらえる作品を読んでいます。そのような積み重ねが、将来的に人間があたたかい眼差しで外の猫たちを見守り、共存できる未来へとつながるのではないかと思っています」

 また、行政への呼びかけも重要だという。
「地域猫活動は一部の人たちがやることではなく、いつかは行政や地域の人たちを巻き込んでいきたいと考えています。そのためには行政への呼びかけや、教育も必要になっていくと思います。私が暮らしている地域では、地域猫の不妊・去勢手術にかかる費用の助成金が市ではなく県としてはあるのですが、助成金がおりる条件をクリアするには、区長や周囲の許可が必要になり、ハードルが高いです。家族がご近所の方々と今後もお付き合いしていくことを考えると、現状は自費で行なっています」
 
yurinaさんは続ける。
「猫のことは気になっているけれども、手術費用を個人で捻出できない方も中にはいます。不幸な猫や周りの環境を作らないためにも、今後は行政と一緒になって、住民と協力し合う未来を目指しています」

 最後にyurinaさんはいう。
「問題は山積みですが、今何をすべきか目の前にあることに集中し、多頭飼育崩壊を起こさぬように譲渡を進め、山の猫たちが元気に過ごせるように、無理なく出来る範囲で見守っていきたいと思っています。そして虐待を受けないよう、人に慣れさせすぎないように適度な距離を保ち、生涯を見守っていきたいです。少しでも多くの人が、外で暮らす猫たちについて考えるきっかけになってくれたら嬉しいです」
 
 外で暮らす猫を取り巻く環境は過酷であり、多くの危険を孕んでいる。また、それを近くで見守りお世話をする人たちの慈愛の精神があってからこそ、猫たちが生きられている。まだまだ多くの課題が残る地域猫問題について、考えるきっかけになるよう、今後もクロネコみっけでは取材を行なっていく。
 
スタッフクレジット:
photo:Toshiyuki Tamai edit&text:Makoto Tozuka
Produced by MCS(Magazine House Creative Studio)

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