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ロンドンが東京のとなりにあればいいのにって、一回で良いから言ってみたい

小椋冬美先生の、「リップスティック・グラフィティ」という漫画が好きだ。りぼんで昭和56〜57年に連載当初されていたらしい。コミックスが祖母の家にあり、子どもながらにあまりの絵の美しさに魅力された。

なんといっても、髪の毛の描写が素晴らしい。
主人公街子の、茶色く柔らかでくせのある髪。街子のクラスメートである神子の、黒く真っ直ぐな肩下のボブ。
風に揺れ、光が透ける様子。
小さな一コマの中、シンプルな仕事でよくもまあこんな表現ができるものよ!!と、あ然としてしまう。

街子の憧れの先輩、紀文さんは美容師志望の3年生。街子のふわふわの髪の毛をつい触ってしまい、二人のドギマギはスタートする。少女漫画ならではの設定だけど、紀文さんじゃなくても触りたくなるくらい、街子の髪はかわいい。

街子はふわふわの髪の毛を、いつもひとつ結びにひっつめて学校に通っている。
他のクラスメートが男子を意識してかわいい髪型にしているのを、バカにしながら、内心羨ましく眺めている。

みんなと一緒に、きゃあきゃあ言いながら、あの人がかっこいいとか、なんだかんだ言いながらリボンを付けたり髪を巻いたり出来ないのだ。恥ずかしくて。

文化祭で、紀文さんにかわいく髪をセットしてもらった時も、普段と違う自分が恥ずかしくて恥ずかしくて、ボロボロ泣いてしまう。誰よりも自意識過剰な街子がかわいい。

ストレートに自分の気持ちを表現出来ないいじらしさ。紀文さんに告白されても、好きなのにダッシュで逃げてしまう。少女漫画あるあるだけど、街子を心の底から応援してしまう自分がいる。
みんな昔はそうだったから。
もしかしたら大人になるという事は、素直になるという事かもしれない。

素直じゃない人がなんとかかんとか絞り出した言葉は、ストレートな言葉よりも人の心を打つ。

紀文さんに、卒業したらすぐにロンドンへ美容師修行へ行くと告げられた街子。
混乱しきった彼女は卒業式をサボってしまう。
体育館裏?的な所でボーッとしていると、ふいに紀文さんがやってきて、二人きりで話をする。
後悔したくない!と街子が絞り出したセリフがこちら。

「ロンドンが東京のとなりにあればいいのに」

私はこのセリフよりも胸にくる告白を知らない。口下手でも不器用でも、街子の街子らしさによって出てきた、名セリフだと思う。

伝えるのが下手な人からしか、このような言葉は出てこない。伝えるのが下手でないと、絶対に絶対にこうはならない。不器用バンザイ!街子が街子で良かった!素直になろうとあがいた結果、素直になりきれないままで、本当に良かった!

これでこそ、街子です。

この冬は小椋冬美を読みふけろうと思う。

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