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除湿器のようなA2Zと、湿度100%のパーマネント野ばら

湿っぽい恋愛が苦手だ。

この手の事は、出来るだけわかりやすく明朗快活が良い。ようはめんどくさいのだ。
駆け引きを楽しむ気力や体力はゼロ。乳のひとつやふたつもあれば話は別だが、無いので策すら練れない。
湿っぽさが恋愛の醍醐味かもしれないけれど、ただでさえ湿度の高い富山でそんなことをしていたら、あっという間にカビが生えてしまう。
 
アマプラでA2Zがドラマ化されていた。山田詠美の恋愛小説。
大昔に読んだ記憶があり、内容はほぼ忘れていたのだけれど、ドラマを見ていたらまた読み返したくなったので、読んだ。原作が、面白いよねえ。
 
A2Zは湿度ゼロの恋愛を描いている。
似た者同士の夫婦が、お互いに不倫をしているという話なのだけど、私はこの夫婦の関係性がすごく好きだ。
男と女というより、男と男、もしくは女と女。それぞれ異なる出版社で働く編集者同士で、仕事上ではライバル関係。お互いの仕事ぶりは誰よりも尊敬しているので、たとえ夫婦間でトラブっても(恋人ができるなどしても)離れられない。よき理解者。戦友。
 
“心の中の作業場factory。私には、それがある。
恋にうつつを抜かそうが、悲しみにうちひしがれようが、そこは、私に明りを灯されるのを待っている。
そして、ひとたび外の空気を吹き込んでやれば、すべてのパーツが作動する。
あまりにも原始的な空間。だからこそ、誰も立ち寄らない。誰も立ち寄れない。
そこでくり返される手作業は、職人の孤独を呼び寄せる。
私は、そこで生かされている。そんなふうに思う。
そういう場所を隠し持っていることが、幸福なのか不幸なのかは解らないけれども。”
 
私が脱帽したのは上記の部分。めっちゃわかるなあと思った。
何らかの創作をしている方は納得だと思うけれど、自分が、例えば恋愛などでどんなに湿っぽくなろうとも、それすら創作の原動力に変わってしまう。ときめこうが切なくなろうが、そういう自分をファクトリーの中から眺めている、もう一人の自分もいる。
そこは親しい友人も血を分けた子どもも、どんなに愛する人さえ絶対に立ち入り禁止のスペース。
だから、私は本質的に、徹底的に孤独だ。その孤独は恋愛の湿り気を喰い、生きる活力を生み出す。
 
ファクトリーを持つ人間は、どんなに湿ろうがあっという間に乾いてしまう。貪るように、自分を湿らせてくれる何かを求める。

A2Zの夫婦は優秀な作家を求めている。自分が担当し、素晴らしい作品を世に送り出したい。その為なら寝る間も惜しんで働く。メールの時代に手紙だって書くし、大晦日にスランプに陥った作家を励ましに、温泉宿へさえ飛んでいく。

常に、心の何処かが乾いていて、どこか不安だから求めて求めまくる。
不安な人はワーカーホリックになりやすい。そのワーカーホリックぶりを理解してくれる相手じゃないと無理なのだろう。
「もっとあいたい…。」とか、言われても、その時は可愛らしくてキュンとするけど、相手の言う事全て聞いてベタベタしていたら、身が持たない。

矛盾しているようだけど、不安になりたいがために、わざわざ不安になれる状況を求めているのだ。満たされて、何も作れなくなってしまうのが、怖い。

だから、この物語の夫婦には、お互いしかいない。他にどんなに素晴らしい恋人ができたとしても、傷つけあってしまっても、離れられない。理屈では説明できない部分が、誰よりも分かり会えるから。
 
湿度を湿度のまま閉じ込めた映画がある。2010年の映画、パーマネント野ばら。

私の愛する江口洋介の白衣姿が見られます。こんなにかっこよくて良いのだろうか。眼福。見た目も喋り方も最高です。ありがとうございます。役柄は嫌いですが。
小池栄子をキャスティングしたことに誰も異論を唱えないであろう、小池栄子が最高。
そして、この映画の菅野美穂は本当にかわいいなと思う。江口洋介と並ぶと小柄なのが引き立ち、ちょこまか動く少女感にきゅんとしてしまう。
 
それぞれが絶望的な恋愛をしており、除湿器をフル稼働しても湿度は100%のまま。圧倒的などうしようもなさ。
田舎の港町という閉鎖的な空間で、ファクトリーを持たない人々は、愛の温度差で発生した結露に溺れていってしまう。
その湿り気を、唯一カラッと吸い取ってくれているのが、美容室のパーマネント野ばら。
ここで大仏のようなチリチリパーマを当てているマダムたちは、湿りに湿っている菅野美穂達を見守る。
「もうどの〇〇〇が、どの男かわからん!」と、煎餅をかじりながらカラリと笑う。
そして、「ヤギの糞のように、固いパーマを当ててくれ!」と、夏木マリに注文する。ヤギの糞も、カラっとコロっとしているよね。
 
「でも、恋って、やがて消えるよ。問題は、恋心の到達出来ない領域にお互いに踏み込めるかどうかってことじゃない?」
A2Zの中で、私の大好きな時田姉さんの言ったセリフだ。
恋心の到達出来ない領域は、湿っているのか、乾いているのか。

踏み込めるのは、愛する人の亡霊か。それとも、似た者同士の配偶者か。

ずっと好きは、どこにもないから。

いずれにせよ、ファクトリーに入ってしまえば、私は一人だ。


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