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両神山
クリスマスが近づくと街はイルミネーションに輝き、山は新雪に彩られる。
埼玉の西大宮に住む先輩から「両神山まっ白だよ」とLINEが来たのは、12月23日の夜だった。2015年11月28日、のちに戦友となる先輩と初めて登った山が両神山(八丁峠ルート)
それから51座の山を共にし、2人だけで登った山は35座。いくつもの修羅場をくぐり抜け、死の危険を共有し、単独では得られない景色をいつも見せてくれた。雪山を主戦場とする先輩は、ボクにとってのサンタクロースだ。
令和元年12月25日(木)、来年の1月でしばらく山をやめる先輩と思い出の山を登ることに決めた。別れの足音は近く、山を共にする時間はボクたちが大好きなコーラの泡のように儚い。
両神山は秩父三山(他は武甲山・三峰山)の中でも最も人の手が入っておらず、1億年前は海だったと思えない”深い山”。今回は深田久弥さんも登った日向大谷から。
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23日の夜に降った大雪は低山も雪で彩った。行動食を買ったコンビニから見える武甲山がイケメン度を増している。
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日向大谷の駐車場は我々1台だけ。陽光が眩しく、両神山荘の看板犬も元気にはしゃぐ。この岩の砦は古来より修験道の霊場であり、多くの登山者も賑わっていたという。
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両神山はその名からイザナギ・イザナミの2神の意味と思われがちだが、本来の名前は違う。ヤマトタケルがこの山を8日間眺めたことから「八日見山」という説もあるが、これも後付け。
本来は「竜神山」が正しいく、日向大谷の登山道は確かに巨大なオロチ(大蛇)の背中を歩いているように感じる。
登山道は分かりやすいが、沢と交差すると方向音痴のボクはルートを見失う。先輩の厳しいチェックが入り、これが後々の登山に影響する。
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産泰尾根に入ると雪が出現。滅多に見られない両神山のホワイトクリスマスは神様からのプレゼントだ。
1時間50分ほどで清滝小屋が見えてきた。ほぼコースタイム通り。我々にしてはかなり遅い。先輩は武尊の2日後に西穂に行っており、疲労が溜まっているのは明らか。
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清滝小屋は80人の収容で登山者に解放されている。この山深い両神に来るのは車がなければ日帰りは厳しい。やはり先輩がいなければ来れなかった。ここでチェーンスパイクを装着し、残り1時間ちょっとの山頂を目指す。
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急な坂も連続し、鎖場もチラホラ。先輩のペースがかなり落ちてきた。先輩が足を止め、リタイアを宣告。2人で山頂に行きたかったが、やはり我々のエンドロールが近づいている。
だが、寂しさよりも不思議と喜びの方が大きかった。ボクは生粋の単独行者。我が道を行くべきクライマーなのだ。登山道の途中に両神神社があるのは心が洗われる。気持ちを一新し、山頂を目指す後押しとなった。
富士見坂からは鎖場もあるが山慣れしている者には無用の長物。地図には注意マークもあるが少し大げさだ。それだけ両神山が一般登山者に人気があるからだろう。
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単独なのでペースがグングン上がる。最後の岩場を越えると、辿り着くべき頂が見えた。今のボクには山頂を踏まずしての撤退はありえない。ピークハントという安っぽい言葉で片付けたくないが、頂上を極めた先に何があるのかを絶対に見たいのだ。
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1723mのトップ・オブ・トップからの眺望は最高のクリスマスプレゼント。蓼科山の雄姿が一番目についた。
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頂上を極めたら長居は無用。三角点に足を置き、翔ぶが如くの風林下山。できるだけ先輩に追いついてやろうと、ストックを片手にダッシュで駆け下りる。しかし、ここでも方向音痴が炸裂し、沢に迷い込む。10分以上をロスしてしまい、先輩には追いつけなかった。
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登山口の近くまで来たとき、2人組の女性がいた。母娘のようだ。献花をしており、この崖で家族を亡くされたらしい。そこまで危険に思えないが、実際に何人か亡くなっている。
両神山は清廉な空気に満ちているが、そんな山ほど崖下にクライマーを誘う引力があるかもしれない。女性2人からは何度も「単独で山に登るのはやめてくださいね」と言われた。
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梵の湯からの帰り、先輩は静かに言った。「来年からは地図読み講習など山の勉強をしたほうがいい。体力・気力は並外れているけど、それ以外は全部が初心者。今のままでは本当の山の怖さに勝てない」
確かに単独行を続けるなら、いつか取り返しがつかない域に足を踏み入れるだろう。令和元年の登山が転換期に違いない。先輩からの忠告が何よりのクリスマスプレゼントだった。
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