見出し画像

無限の蕾

春風に誘われてジャイアンツ球場に来た。巨人の2軍を観るのは同郷の岡本和真を追いかけてた8年前以来。今はもう球場のシートも変わっている。平成から令和になり、ついに岡本和真のポテンシャルを超える高卒の野手が現れた。

浅野翔吾。メジャーの歴史に名を刻むイチローや松井秀喜クラスの可能性。身長170センチ、スイングの力強さは群を抜く。吉田正尚のパワーと近藤健介のバットコントールをフュージョンしたような打者。同じ背番号51を背負ったイチローから「化け物」と言わしめた。5年以内に巨人の顔となる男だ。

1985年に開場したジャイアンツ球場は神奈川県川崎市にある。京王よみうりランド駅から、よみうりV通り、巨人への道を歩いて球場に向かう。坂がつらく無料の送迎バスが出ている。

急坂には巨人の選手、コーチ、関係者100人の手形が野球ファンを励ます。坂本勇人の手が異様に小さいが本当に実物大だろうか?それにしては小さすぎる。

球場に着くと入り口で整理券を配っていた。室内練習場でWBCのユニホームやミット、スパイクなどの展示がある。

大城のミットとスパイク。アシックス製。日の丸の刻印がカッコよすぎる。

大勢のグローブもアシックス。投手と捕手で息があっている。シックなグレーは珍しい。

戸郷はSSKのグローブ。漆黒にオレンジの縁取り。ジャイアンツ愛が感じられる。

真打・岡本和真。地味な顔して美意識が高い。

真紅のナイキのバッティンググローブ。珍しい色合い。完全な赤でもオレンジもない。岡本らしいといえば岡本らしい。

WBC全員のサインボール。39人分。目まぐるしい中、サインもプロの仕事。自分たちが見えない裏で選手たちは奔走している。浅野翔吾が加わるのは2030年か、それとも3年後か。

一際輝く金メダル。素晴らしいデザイン。やはりWBCは別格。メダルを見ただけでわかる。野球のすべてを包み込む。

WBCでお腹いっぱいになってグラウンドへ。まだ11時半過ぎ。すでに巨人のバッティング練習は終わり、ベイスターズの練習中。WBCや巨人の1軍と違い、柵越えはいない。

知人に取ってもらった席はバックネット裏SSシートの3列目。選手が近い。

背番号がわからないが、スイングが力強い。

フォロースルーが美しい。森友哉を彷彿とさせる。プロになる者は形から違う。

ベイスターズの注目選手はドラフト1位の松尾 汐恩(しおん)。線は細いが甲子園で5本のホームランを打っているパワーヒッター。

遠投110メートル、二塁までの送球は1.80秒~1.90秒台と甲斐キャノン並み。浅野と共に将来のWBCの正捕手候補。いつの間にか野球を見るときの基準がWBCになっている。昔はメジャーに行くかどうかで判断していた。

続いて巨人の守備練習。一番目立っていたのは熱男。

やかましいにも程がある。どこにいても聴こえる。自分と同い年、同じ関西出身、そして同姓。来月40歳になるとは思えない。こういう人物が組織にいると空気が違う。できれば1軍に熱を注入してほしいが、さすがに厳しい。

本人は最後の最後まで1軍を目指すだろうが、ファームでも若手に活気の爪痕を残してほしい。そして熱男に続く若手が現れてほしい。

熱男には程遠いが浅野翔吾も声を出す。まだ頬も真夏の太陽を吸収した黒ではなく、ピンクの肌。球春を思わせる。

イケメンでスマートな野球選手が増えている中、正反対の体型。まるで相撲部。岡本和真と同じ系譜。体は頑丈で怪我をしにくいクラシカルな野球選手。こういう存在が増えてほしい。

両軍の練習が終わるとグラウンド整備。プロの技。デコボコの荒野だったグラウンドが水を得た魚のように一瞬でダイヤモンドに生き返る。

午後1時プレイボール。ジャイアンツ球場は4,000人を収容する天然芝と黒土。人工芝と違い、思い切りダイブできる。この日の観衆は660人。平日の火曜日では多い。今や巨人の2軍は超豪華メンバー。黄金ルーキーもいれば、年俸で億を超えるベテラン、1軍と2軍をの国境を行き来する中堅などオールスター状態。

その象徴が赤星優志。こんな近くで観られるのは贅沢だが、2軍のレベルではない。ローテーションに入って15勝してほしいところ。山﨑伊織とともにエース争いをするべき器の投手。

この日は超のつく極寒だったので、肩が温まっていなかったのか球にキレがない。いきなり先頭バッター”ハマのチーター”こと村川にレフト前に運ばれる。その後も3番楠本にヒットを打たれ初回から得点圏にランナーを置く。何やっとんねん。4番、5番を打ち取り無失点。

巨人の攻撃で目を見張ったのは第1打席でセンター前ヒットを放った4番サード菊田 拡和。2019年のドラフト3位。

常総学院出身の21歳。常総のバレンティンの異名を持つように、打撃フォームに華がある。まだ豪快さは感じないが、大卒と同じ年齢になる来年が楽しみ。今年はファームで本塁打王を奪ってほしい。サードには岡本和真がいるがチャンスはある。守備のフィールディングも滑らかなので、岡本がメジャーに行った後の巨人を背負えるかもしれない。

2回の赤星は初回とは別人。直球にキレがカムバック。これは2軍のレベルでは打てない。

球界でも随一の制球力を取り戻し、コーナーにズバズバ決まる。

140キロ台後半のストレート、カーブ、シュート、フォーク、チェンジアップを使い分け狙い球を絞らせない。ファストボール、ブレイキングボール、オフスピードボールでベイスターズ打線を手球にとる。

2回は二ゴロ、三ゴロ、二ゴロ。打たせてとるグラウンドボール・ピッチャーの本領発揮。この日は6回を投げて3安打無失点。ゴロの数は9。この投球を1軍でも見せてほしい。

3回には増田陸。この中堅選手も2軍にいるべきではない。ライトフライと思われた打球がグングン伸び、フェンス直撃の2塁打。持ち前の破壊力を見せつける。早く1軍に上がってほしいが、セカンドは吉川尚輝と中山礼都など渋滞。中途半端に層が厚いのがもどかしい。今は2軍で結果を出し、交流戦後の6月から1軍に上がれるか。

お待ちかねの8番センター浅野翔吾。登場曲はパイレーツ・オブ・カリビアン。村田諒太と同じ。スケール感のある選曲。これは東京ドームが盛り上がる。

キャッチャーの松尾とは全日本選抜のチームメイト。大の仲良し。試合後には情報交換を行う。どちらが早く1軍に上がるだろうか。浅野の第一打席はサードへの内野安打だが、実際は討ち取られた当たり。やはりプロの球に差し込まれている。第2打席もショートフライ。

まだ午後2時なのにナイター照明に灯がともる。2011年からジャイアンツ球場に設備された。天気が悪く極寒。桜も散ったとは思えない気候。これも春の野球なり。

浅野の第3、第4打席は見逃し三振。ルーキーなら積極的に振ってほしいところだが、際どい球なので選球眼の良い証でもある。この日は特に光るものはなかったが、まだ高校生。そう考えると十分すぎる振りの強さ。

岡本和真もイースタンのときは全然だった。芯で捉えたときの打球速度は目を見張ったが、一軍で活躍するピッチャーが相手だと自分のバッティングができない。今日と同じ対戦カード、DeNAベイスターズの三上には完全に翻弄された。それが今や侍ジャパンのレギュラーとなり、巨人の4番を張る。

浅野翔吾も無限の蕾。次は7月、薄暮のジャイアンツ球場。その後は9月の東京ドーム。今年は浅野に三顧の礼で見届ける。

【お知らせ】
WBCの電子書籍を自費出版しました。世界一詳しい侍ジャパンの本です。ぜひご覧ください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?