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文化財保護と開発のリアル(北九州市の事例から)

今、北九州市が荒れている。理由は、市施設建設に先立つ発掘調査で、旧門司駅の遺構が検出されたこと。今回見つかったのは機関車庫と見られ、九州鉄道史上の重要発見として専門家も高く評価している。

ところが、専門家から遺構保存の声が上がる中、北九州市は遺構保存にいまいち乗り気ではないように見える。この案件、最初から「一部を移築保存」という方針で、北九州市の姿勢に終始疑問符がつく(開発と遺構保存の両立を検討しようとする意識がないように見える)。

旧門司駅遺構の学術的価値が高いことはすでに意見が出ており、北九州市は積極的に保存(特に「現地における」「遺構の全面保存」)を検討すべきなのである。それが不可能となった場合の次善の策として出てくるのが「移築保存」のはずだ。
これがことさら問題になるのは行政主導の開発であるからで、ここで行政が埋蔵文化財の保存を蔑ろにすると、民間開発における埋蔵文化財保護の行政指導をするにあたって示しがつかなくなるのである(遺構を保存しろという側が遺構保存を蔑ろにしているため模範とならない)。したがって、行政による開発の場合は、民間開発以上に遺構保存に厳しい姿勢で望まなければならないのである。この案件で気味悪いのは、表に出てくるのが市長ばかりで、市の文化財保護部局が何もコメントを出さない点だ。

動向を見守っていると、市議会が修正動議を発動し、移築費用が予算から削除された。これで解決かといえばそうではなく、移築保存の選択肢が消されただけで、根本的解決にはなっていない。
すると今度は、市長が移築をしないまま、計画通り現地に複合公共施設を建設する方針を発表した。「せめて一部保存だけでもしようというのが当初案。その一部保存はいらないというのが議会の議決なので、受け止めていく」と語ったらしいが、各専門家の意見を無視してこれである。議会の修正動議も文化財的価値を認めたからではないのか?
正直なところ、文化財保護部局は何をしているのだという感想である。眼の前で遺跡の破壊が行われるのを黙って見ているのか。近代の遺構だから価値はないとでも言うのか。それも専門家の意見を無視して。文化財保護部局が遺構保存についてできる限り動いたうえで押し切られたのなら評価できるが、遺構の全面保存を是としない市の方針の肩を担いでいたのならあってはならないこと。これでは日頃から埋蔵文化財保護の啓発を受けている民間企業に示しがつかない。

今回、滋賀県で近江坂本城の遺構が検出され、開発業者が宅地造成を取りやめた事例が出てきたため、この事例と比較することで、どうしても北九州市には当たりが強くなってしまう。民間企業のほうが行政より遺跡保護に理解があるとはどういうことか、となってしまうのである。


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