第20回: “本業比率”と“番頭さんリスク” (Mar.2019)

 日本企業の海外展開に長く携わる中、よく見かける現象をこう表現している。構造的課題だと感じている。

 かつて日本本社で戦略を練り、インドや新興国に “送り出す” プロジェクトを多数手がけた。計画に承認が得られれば、概ね企画した地域担当者本人が赴任することになるが、当初半年は拠点設営を含めた体制整備に費やされる。更に数か月後、“落ち着く頃を見計らって様子を見に” いくのだが、一向に進んだ感がないどころか、何も始まってすらいないように映る。聞けば、何かに手間取っている、既に出来ている予定がなかなか仕上がらない、約束が守られない、トラブルが片付かない、やり直しが必要だ、。。。当時は “いつまでそんなことをやっているんだ。さっさと片付けて本業に専念しろ” と叱っていたものだが、Singaporeで自ら子会社設立の任に就いて初めて、本社から見えなかった世界に気付いた。

 現地を任される者は概ね “何らかの専門性” を買われ、その能力を存分に発揮してくれよ、と送り出される。が、営業・マーケティングや、生産改善・品質向上、R&Dで実績を上げた者が新興国の経営全般に通じ、ましてや現地責任者としてうまく立ち回れるとは限らない。本人が望むか否かを問わず赴任に際して付される "最高責任者" の肩書は、履歴書上や家族ウケは良いかも知れないが、本人の幸福感にも現地拠点の競争力にもつながらない。

 インド・新興国では、日々の忙しさに感けている内に時だけが過ぎていく。自らの生活も落ち着かないまま、日本でも経験したことのない会社 “運営” の職責を負い、“こんなことまで俺がやるのか?” と思ってもスタッフに頼れることは限られる。逐一些末な事ばかりで本社に相談するほどでもなく、結局、自分自身で解決するしかない。目前の対処・対応に気力と体力を奪われ、これが片付いたら本来やりたい仕事を、と思っても、なかなかそんな時は訪れない。積極的に “本業比率” を上げない限り、成果は望むべくもない。

 他方、多少余裕のある企業や拠点を構えて久しい企業には概ね、現地人の番頭さんがいる。“何も分からないから、業界に精通して日本企業経験もあるシニアな人材をまずは採用して” とカモネギで進出する話も未だに聞く。流暢な日本語で日本人に信頼される術を心得、面従腹背で従業員から納入業者までを掌握する番頭さん、“駐在員は数年でいなくなるのだし、自分ではどうせ何もできない” と裏で舌を出していることも多い。

 殊、会社運営・バックオフィス業務は日系含めサービス事業者も多い。私自身もSingapore赴任前にまずは、と会計・税務、法務、人事、ITの “専門家” を揃えた。市場環境や事業戦略はいくら語れても、会社設立の手続き・運営のテクニックについては現地事情に精通した相談先が必要だ。が、いざ始まってみれば記帳・支払い・納税から調達・契約、採用・評価、機器・サービスの選定・設定など日本では専門部署が処理していたことに、逐一の判断・指示が求められる。それぞれの専門家が控えていても誰に何をどう聞くべきか、そもそも問題視するべき事なのか、わざわざ人に聞くのも躊躇われる。

 翻ってインド。専門家も担当の行政官ですら、制度の理解も対応もまちまちの割、コンプライアンスにはとことん煩い。誤った対応をすれば “一発アウト” も多い地雷源だが、その時その場で “正解” が違うのが何より厄介だ。

 当社は、現地運営の手間に忙殺されず本業に専念するための “India Launch Pad” や “virtual CIO” / “virtual CFO”/ “virtual Backoffice”といったサービスを提案している。かつて、いくら本社で笛を吹き旗を振っても一向に現地が動かなかったのは、戦略や計画が間違っていたからでも、ましてや現地担当者の能力不足や怠慢が理由でもなかった。益々早い者勝ち、動かなかったら負け、の要素が強まるグローバル競争、現地に送り込んだその道のエースが諸業務で疲弊しているようでは勿体ない。“本業比率” の向上が競争力強化につながるはずだ。

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