オンライン授業を始めて気がついたこと

 オンライン授業といえば,いつでも視聴できるオンデマンド形式とライブ形式に分けられるが,私は最初からライブ形式を選択した。双方向の形式しか経験がないし,ライブは楽しいからだ。私の授業は演習科目なので,これまでのやり方だと90分のうちだいたい最初の30分は講義をし,その日の授業で取り組んでもらうことに必要な知識等について伝え,残りの60分程度を実際に活動してもらうというパターンだった。すなわち,学生にとっては最初の30分がインプット,残り60分がアウトプットの時間である。この形式で同じ授業を4年間やっていたが,もう少しアウトプット時間を増やせないものかと悩んでいた。今回のオンライン授業は,その悩みを一気に解決してくれた。

インプットはオンデマンド,アウトプットはライブがいい

 オンライン授業をするにあたり,30分の講義部分はライブで行う必要はないと判断し,予習動画として毎週作成することにした。このおかげで,これまで60分しか取れなかった学生のアウトプット時間を,80分程度に延ばすことができたのだ。授業中に学生が取り組める活動の幅は広がり,フィードバックを与える時間的余裕も増えた。オンデマンドコンテンツだけの授業やライブであっても聞いているだけの授業もあるためか,他の学生と交流しながら学び会う90分間は,飽きることなく集中力も持続できているようだ(ただ,ずっと画面を見ながらでは疲れるので,途中で休憩を挟むようにしている)。
 また,講義部分の動画は予習として事前視聴してもらっているので,これまでの対面で講義を行っていた時よりも明らかに理解度が高い。学生に聞いてみると,動画を見ながら,聞き逃した時は時間を戻したり,理解できなかった時はもう一回見ているそうだ(1人平均3回視聴した再生数の動画もある)。1.5倍速など速度を変えて観られるのも良いらしい。
 1回の授業構成をまとめると,以下のように記述できる。

①好きなときに自分のペースで予習する
②ライブ授業で他の学生と学び合い,1人では学べなかったことに気がつく
③授業後,教員からのフィードバックがある

 実はこの構成,対面授業と全く変わらない。しかし,上でも書いたように,①と②は質的な部分が異なるのだ。①は教員の解説付き動画で予習できる点,②は活動時間が長くなった点で対面時とは異なり,対面時よりも学習効果が高まっている

もはや対面100%には戻れない

 コロナ禍が過ぎ去ったとしても,この授業スタイルは維持したいと思う。②のライブ授業の部分は対面ができるなら対面でも良いが,必須ではない(この辺は前後の履修科目,通学時間などの要因を考慮すれば,学生によってどちらが良いかは異なるだろう)。
 そして,私はオンラインと対面の両方を同時平行で提供した方が良いと思っている。なぜなら,学びの選択肢は増え,今よりも大学教育の質は向上すると考えられるからだ。同時並行とはライブ授業部分のことで,対面で受けたい人は教室に集まり,オンラインで良い人はオンラインで受講するという意味である。同時並行が良いというのは,主に学習者のモチベーションという観点からである。やはり,対面の方が動機づけが高くなる人はいる。それは教室という雰囲気であったり,周りで受講している他の受講生からの刺激だったりがそうさせるのだ。一方で,大勢の中で受講するのが苦手,ディスカッション時に対面は精神的苦痛があるけどオンラインならできる,通学時間を節約したいといったオンラインを好む学生もいるだろう。
 さらにいえば,講義部分の予習動画化はもはや必須にしても良いのではないか。学生にとってのメリットは既述のとおりで,教員にとってもメリットがある。たとえば,ライブでの説明が苦手な教員は,動画にすることで納得いくまで撮り直しができる。ついつい説明が冗長になってしまう人は,編集で不要な部分をカットできる(えーとかあのーなども簡単にカット可能)。撮った動画の編集時にちょっとここ補足したいなと思えば,撮り直しせずとも画面上にテロップを入れて説明を補える。
 研究費が削減されていく現状を踏まえれば,動画はYouTubeにアップロードして広告収入を得ても良いだろう(そこまでの人気動画になるのは難しいが)。動画を公開したとしても,ライブ授業は受講生しか受けられないので,学生から不満が出ることもないだろう。

 とにもかくにも,オンライン授業に良い点があることは学生も教員も気がついている。もちろん始めたばかりなので課題もたくさん出ているが,それらはしっかり解決すれば良い(課題については改めて書く)。双方に良い点があるのに,これまでの対面100%授業に戻るなんてことは考えられない。もし,そっくりそのまま従来通りの対面授業に戻しましょうという大学があるとすれば,その大学の将来は危ないかもしれない。大学教育は大きな転換点を迎えているのだ。

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