日本人の全くいない環境で研究してた話【韓国・KAIST研究滞在留学】

本記事は留学アドベントカレンダー2022 の25日目の記事です.
素敵なAdvent Calendarを企画してくださりありがとうございます.

概要

筑波大学大学院,博士後期課程2年の山本雄也と申します.研究テーマは,CD音源でも使える,歌手の歌い方を自動解析する技術についてで,分野としては音楽情報処理(英語ではMusic Information Retrieval; MIR)に属しています.
私は2022年8月から12月の4ヶ月間,
韓国科学技術院(KAIST)・Graduate School of Culture Technologyの
Music and Audio Computing Lab (MACLab)  にVisiting Researcherとして滞在して研究していました.
本グループは分野において世界的に有名なグループの一つであり,いわゆるトップ国際会議であるICASSPやISMIRにも論文を毎年通しています.
そんな研究マッチョメンたちの揃うグループに混ざり,研究を行ってきた話をここにまとめたいと思います.
Take home messageとしては「海外滞在研究はいいぞ!」です.

経緯

もともとMACLabのPIであるJuhan Nam先生とは日本にいた頃から共同研究をしていました.指導教員である寺澤先生と同じ大学(Stanford CCRMA; スタンフォード大学の音楽学部?)出身で,私の研究分野はJuhan先生のほうが詳しい,ということでつなげていただいたという具合です.
ずっとコロナという状況で月1程度のミーティングをしていたのですが,ようやくコロナが終息し始めたのと,同時期に自分の研究の核となるテーマ(初期検討段階)が国際会議にアクセプトされ,ここからこの研究をどう育てていけばいいのかを考えるにあたって,より密なコミュニケーションを取りたいと考えて,研究滞在をするに至りました.

Juhan先生からも快くOKをいただき,トントン拍子で留学が決まったのですが,正直なところ,不安しかありませんでした.というのも,海外に行くのはこれの前が高校の修学旅行のマレーシアぐらいなのと,全然英語ができなかった(TOEICでいうと650くらい,留学希望の最底辺を突き抜けるレベルかと思います)のとです.そんな右も左もわからない状態で旅立ちの日が近づくのでありました.

留学準備

KAISTは筑波大学と協定校であったため,大学の奨学金であるはばたけ筑大生奨学金(https://ssc.sec.tsukuba.ac.jp/ies-top/go-abroad-top/scholarship-4-ga)に申し込むことができました.書類が通ると月6万円(地域により変動)が支給されるものです.ありがとうはばたけ.おかげではばたけたぜ.

続いてビザ申請,これが辛かった.以前記事をまとめていたのでこちらを見ていただければと思います.https://note.com/yamatchy/n/n2a2cce57c58d

サバイブするための基盤

家は,キャンパスから徒歩3分のアパートを借りました.寮は正規の学生でないと借りることができないようでした.
もちろん自力で契約ができるわけもないので,ラボの学生に助けてもらいました.月3万円のワンルームで,つくばの自宅とほぼほぼ変わらぬ内装です.ありがたいことに大家さんは英語を話すことができる上に,大家さんの娘さんは日本語が堪能で,コミュニケーションも難なくとることができました.とてもラッキーでした!

  • お店等

生活基盤もとても便利でした.まず徒歩圏内にコンビニが3軒あり,スーパーも徒歩20分くらいで,美味しいお店もたくさんありました.
何より嬉しかったのが,無人のアイス屋がたくさんあるということです.これには驚きました.特に夏頃は毎日ハーゲンダッツをそこで買って食べるというリッチな生活を送っていました.
正直買い物関連で困ったことは,一度もなかったです.

  • 外国人登録

ビザだけでなく,諸々の手続きを済ませるためには外国人登録(Alien Registration)が必要でした.KAISTの学内には,なんと出入国管理センターがあるので,そこで手続きを済ませました.確か登録証をもらえるまでは3週間くらいかかった気がします.

KAISTとその周りの環境

正直めちゃくちゃよかったの一言に過ぎます.

  • 大田(テジョン)

今回滞在した大田は,韓国の中央に位置しており,KTXでソウルから1時間くらいで着くくらいの距離にあります.ラボメンバーいわく「何もない退屈な街」と不名誉な名称もあるくらい,穏やかな都市です.

街の周りを山々が囲み甲川という大きな綺麗な川が街の中心部を流れており,市民の憩いの場になっています.
私は率直に「つくばの上位互換」と思っていて,便利さと自然がちょうどいい比率の過ごしやすい街だと思いました.
人々も気持ちおおらかな感じがします.

  • KAISTのキャンパス
    KAISTのメインキャンパスはKTXの大田駅からは地下鉄で10駅ほど乗ると着きます.
    キャンパスはめちゃくちゃ広く,自然豊かなキャンパスながら,道路や植え込みが整備されていました.筑波大学も見習ってほしいものだ…

正門あたりの鐘
おそらく一番有名な場所.ヘンテコな建造物は図書館

キャンパスには猫が10匹くらい住み着いていたり,ガチョウの家族が住んでいたりと癒しの空間が広がっています.

特等席らしい


至る所にいたガチョウ.KAISTではシンボルのように扱われているらしい.

あと,学食がおいしい.特に韓国料理を安く気軽に食べれるので,いつも利用していました.また,中華料理やベトナム料理,バーガーショップ等バラエティがあるので飽きずに済みました.

お気に入り1,クッパとマンドゥ(水餃子的なやつ).
お気に入り2,キムチチャーハン.

日本人ZERO


KAISTの学習・研究環境について,まず特筆して挙げたいこととして,
なんと期間中一度も日本人と会いませんでした.
そう,KAISTには日本人がいないのです.いるのかもしれないですが,学内で流れてくる会話で一度も日本語を耳にしたことがないし,ラボメンバーも皆見たことないと言っていました.
韓国では第二外国語として日本語があるようで,日本語が話せる人は少数いたにはいたのですが,日本人ネイティブは0でした
すなわち,基本的に研究でも生活でも,英語を使うことを強いられる環境にいたといえます.(当たり前っちゃ当たり前だが)

この環境は結果的にすごく良くて,このおかげで英語力が飛躍的に伸びたと思います.(少なくとも,英語でのコミュニケーションをとることに抵抗はなくなったかなと思います.)
理系の学生にありがちな”研究での限られた質疑応答テンプレ内でしか英語を話すことができない”のレベルを超えるのにこれほど打って付けの環境はありませんでした.
もちろん失敗して悔しい想いをしたり,迷惑をかけたことも何度もありました,しかしそんな時もラボメンバーの皆は失敗があっても辛抱強く向き合ってくれて,本当に感謝しかありません.優しくしてくれたからこそ,次はこの優しさに甘えずに同じ失敗をしないようにしないと,という心持ちになれたという所でもあります.

研究室

オフィスは一般的な研究室と変わりない感じでした.フリーアドレスとなっているのが特徴です.(固定席の人もいた)
一応コアタイムはないようですが,毎日7-8人はコンスタントに居るという感じです.

研究は週1の全体ミーティングと,研究が近い人同士のグループミーティングとなっていて,私は歌声合成や歌声採譜を研究しているメンバーのグループにjoinしました.
MACLabのすごい所は,多くのメンバーの研究テーマがボトムアップで決めていて,かつそれを査読付き国際会議に通せるレベルまで仕上げられている所だという印象を持ちました.
メンバーのテーマも多様で,私のいた歌声研究から,自動作曲やピアノ演奏のモデリング,音楽検索からゲーム音楽まで広く扱っていて,さらにグループもその分だけ存在しており,「これがビッグラボか…」となっていました.

ミーティングでは,メンバー同士でも非常に高度な議論が飛び交っていて,なんだか毎週学会に参加している気分になりました.
それでいてよく日本で感じがちな萎縮してしまうような空気は全然感じず,メンバー同士オープンかつフラットな空気で議論ができていたのが印象的でした.日本では私もこれまで知らず知らずマサカリを投げてしまっている部分もあったかと思います.ここはどうにか反省し見習わないとな,と思ったのでした.

また,ラボのチャット上でも,常に研究に関する議論や話題提供がなされていたのも印象的でした.
日本にいた頃は,皆別々の研究テーマを持っていたのと,博士課程の学生が私一人でこのような話をできる人が正直いなかったので,こういう研究の話をする機会がたくさん持ててとても楽しかったです.

研究の基礎体力をつけるための講義

そして一番の秘密とも言えるのではないかというのが,Juhan先生による音楽情報処理の講義です.

ラボの修士学生は全員取ってる(ラボ内必修かどうかは忘れた)この講義,控えめに言って音楽情報処理の最新のトレンドを追える講義としては,世界一良質だと思っています.

解説のレベルや解像度,講義・演習のバランスの良さ,扱うトピック等,
全てが音楽情報処理の初学者(といってもCS数理の基礎は身につけた学生)が音楽情報処理の研究をするためのステップとして最適だと思っています.

この講義が身についてから研究を始めるんなら,そりゃそのレベルに達するよね,と納得したのでした.


結びに

この滞在期間,全てを通してかなり忙しかったです.

滞在中の研究関連のタスクとしては,

  • 国際会議×2の発表準備

  • ↑の1つがインドで,予防接種のラッシュ

  • 論文誌投稿

  • 新トピック1 :論文誌投稿準備 -> 一部国際学会に変更,(2月投稿予定)

  • 新トピック2:来年夏頃までかかる見通し

  • 隔週1の日本にいる修士学生へのゼミ主宰(ミニ講義+個人MTG)

  • 英語学習

という今見ても戦慄ものなラインナップでした.それでもなんとかやり遂げられたのは,毎日長い時間研究でオフィスに居るPhD学生メンバーの熱気に当てられ,自分も頑張らないと,となっていたのが一番の要因です.

この限界を超えた頑張りは日本ではできなかっただろうなと思います.逆に言えば,滞在先はこういったブーストがかかる環境だったと言えると思います.自分にとってとても良い刺激になりました.

本当にたくさんのものを得たと思います.
英語力や研究の知見・ノウハウ等はもちろん,こういうガッツの部分や研究室の運用方法やスタンス,何よりかけがえのないメンバーとの繋がりを持つことができました.

このような貴重な機会をいただけたのは指導教員である寺澤先生と受け入れてくれたJuhan先生,そして一緒に過ごしたMACLabの学生の皆のおかげで感謝しかありません.ありがとうございました!!

最終発表

つまり何?

まとまってないな??
まあいいか.海外研究滞在はいいぞ!!楽しく力をつけることができるぞ!!!

おしまい.(雑)

メリークリスマス!!!!


P.S.
もし海外研究滞在やKAIST関連で気になったことがあればTwitterやメール等にDMください.色々な人に支えられてこの滞在は成り立っていたので,できる範囲で私もこれからな人の力になりたいと思っています.


P.S. のP.S.
韓国にはシャワーしかないのが唯一辛いことだった.
帰国日に温泉旅館の予約入れました.
Taking Bath is All I Need.

ほんとうにおわり