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いつかどこかで見た映画 その117 『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』(2013年・イギリス)

“The World's End”

監督・脚本:エドガー・ライト 脚本:サイモン・ペッグ 撮影:ビル・ポープ 出演:サイモン・ペッグ、ニック・フロスト、マーティン・フリーマン、ロザムンド・パイク、ビル・ナイ、ピアース・ブロスナン、エディ・マーサン、デヴィッド・ブラッドリー、パディ・コンシダイン、マーク・ヒープ、ジュリアン・シーガー

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 このタイトルと、“英国を舞台に5人の男たちが人類の危機に立ちむかう”という内容から、マーク・チャドボーンのファンタジー小説『ワールズ・エンド』(国書刊行会・刊)の映画化作品か、と思ったアナタ。確かに題名こそ同じだが、こちらの映画における邦題には続きがある。つまり、『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』ときたもんだ。そして、宣伝チラシの惹句[コピー]に《『ショーン・オブ・ザ・デッド』『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン』の最強チーム復活!》とある通り、イギリスのエドガー・ライト監督がサイモン・ペッグとニック・フロストの主演コンビと組んだ3作目であります。
 とはいえ、先におことわりしておくけれど、ぼくは彼らトリオの前2作を見ていない。さらに、ペッグとフロストのコンビ主演作『宇宙人ポール』も、未見のままというていたらく(いや、事前にレンタルDVDで見ておこうとは思ったんだが……すみません)。パンフレットにあった映画評論家・町山智浩氏による解説では、本作によって《(彼ら監督・主演トリオにおける)「コルネット三部作」は完結する。「コルネット三部作」は、三人が愛するジャンル映画へのオマージュを捧げながら、コルネット(日本のジャイアントコーンみたいなアイス菓子)と結びつけたものだ》とあるじゃないか……。
 こんなので今回の文章を書けるのか、せめて『映画秘宝』くらい読んでおくべきだった(!)かーーと悔やみつつ見ることとなった『ワールズ・エンド』だが、な〜んだ、これ1本だけでもじゅうぶん面白れーじゃないか。むしろ、彼らの作風(芸風?)を知らないで見た方が、いろいろ新鮮でよかったのかもしれない(これは決して“詭弁”じゃなく)。ということで本作、確かにバカバカしいにもほどがあるものの、見る前の予想とは違って意外にも一本スジの通った実にアツイ映画なのだった(以下、もはや多少のネタバレは気にしない駄文となっています。ご注意!)。
 とにかくこの作品をひと言で説明するなら、「あの映画この映画からアイデアを頂戴しまくり、ダメ男たちの挽歌ならぬ“讃歌”を謳うSFコメディ」といったところか。ーーなどと書いて自分でも何ノコッチャなんで、もう少し詳しく述べれば、これは、ジャック・フィニィによる50年代SF文学の名作『盗まれた街』と、ドン・シーゲル監督が撮ったその映画化作品の『ボディ・スナッチャー 恐怖の街』を下敷きにした“宇宙からの侵略ものSF”であり、そこに『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』あたりの悪ノリ(悪酔い?)要素をミックスし、さらに有名無名なSF映画やらホラー映画やらで見たような設定や場面をてんこ盛りにしたら、単なるおバカなようですこぶる「感動的」ですらある、何とも味わい深い作品ができあがった、という次第なんである。
 映画の冒頭、療養カウンセリング(それが何の“治療”なのかは、映画の終盤に明らかとなる……)で若き日の思い出を語る、サイモン・ペッグ演じる主人公ゲイリー・キング。高校時代の彼は、4人の仲間たちを従えてその名の通り“王[キング]”のように輝かしい日々を送っていた。そして卒業式の日、ゲイリーたちは地元のパブ12軒を1日で制覇する「ゴールデン・マイル」に挑戦。が、12番目のパブ「ワールズ・エンド」にたどり着く前に全員が脱落してしまう。あれだけがどうしても心残りなんだ、と。
 どうやらこの昔話がきっかけになったのか、ゲイリーはかつての仲間たちとともに「ゴールデン・マイル」の再挑戦[リベンジ]を思い立つ。そうして、迷惑がる4人を強引に地元の田舎町へと呼び出し、ふたたび12軒のパブめぐりを決行するのだった。
 ーーというのが、映画の序盤。もはやアラフォー世代の中年男となり、それぞれに仕事や家庭をもつ仲間たちのなかで、ひとりゲイリーだけが昔の幻影に生きるだけの落ちこぼれ人生を歩んでいる。そんな失墜した“王”の思い出ごっこと、迷惑がりながらそれでもしぶしぶつき合うオッサンどもの姿がおかしくも哀しい(と思うのは、こちらもじゅうぶんオッサンだからか?)。とある事件をきっかけに、酒と、ゲイリーとの友情を断ったアンディ(ニック・フロスト)や、気弱なお人好しのピーター(エディ・サーマン)、バツイチの色男スティーヴン(パディ・コンシダイン)、すっかり堅物となった仕事人間オリヴァー(マーティン・フリーマン)、さらに、偶然この町に帰省していたオリヴァーの妹で、かつてゲイリーとワケありだったサム(ロザムンド・パイク)も加わってーーと、役者もキャラも揃っているのがこれまたよろしいじゃないか。
 こうして、久しぶりに故郷の町でパブめぐりをはじめる5人だが、どうも住民の様子がおかしい。しかしそんなことなどおかまいなしで、ひとり嬉々として飲み歩きを続けるゲイリーに、いよいよ他の仲間の不満が爆発しかけた時、ゲイリーたちは街の人々が人間ソックリな「人形」(ブン殴ると青い血とともに簡単に頭がつぶれ、その中身はカラッポなんである!)にすり替えられていることに気づく。何とこの小さな田舎町全体が、“人間ではない何か”に乗っ盗られていたのだった。この窮地を脱するには、疑われないようにこのままパブのはしごを続けて町はずれの「ワールズ・エンド」まで行き、そこから逃げ出すしかない。というゲイリーの提案にしたがう面々だったが、ほどなく正体がバレて「コピー人間」たちに追われる身に。仲間たちもひとりまたひとりと捕らえられ、それでもパブめぐりをあきらめないゲイリーに対して、ついにアンディの怒りが爆発する。……まったく、何を考えているんだオマエは!
 ともあれふたりきりになって、ようやく最後のパブ「ワールズ・エンド」にたどり着いたゲイリーとアンディ。そこでアンディは、ゲイリーの両手首に包帯と入院患者用のバンドが巻かれていることに気づく。どうやら自殺未遂で入院していたゲイリーは、輝かしい青春時代にやり残した「ゴールデン・マイル」を成し遂げてこの世からおさらばするつもりだったのだ。そうはさせじと“最期”のビールを取り上げもみあうアンディとゲイリーだが、そこで彼らは、ついに侵略者たちの“正体”を知ることになる……。
 監督のエドガー・ライトは本作を、《同窓会コメディとSFを組み合わせた、無責任なアーサー王物語》だという。なるほど、ゲイリーが“王[キング]”なら、他の面子もラストネームが“騎士[ナイトリー]”だの“侍従[チェンバレン]”だの“王子[プリンス]”だの“ペイジ[小姓]”となっている。そしてなぜ「(無責任な)アーサー王物語」なのかは、クライマックス後のとんでもない展開(は、見てのお楽しみ)であきらかになるだろう(……そして、最初に挙げた同題名のマーク・チャドボーンによるダーク・ファンタジー小説もまた、このアーサー王物語が重要な背景のひとつになっていることもここで特記しておこう)。
 かくして、モラトリアム中年男に振り回される旧友たちの受難劇は、あれよあれよと侵略ものSFとなり、イギリスの田舎町に端を発した地球的規模の危機を描くものとなるというこの映画。先にも書いたが、本当にひと筋縄ではいかない。しかもそこに、ぼくが確認というか推測できただけでも『光る眼』や『ブレインデッド』、『ゼイリブ』『遊星からの物体X』『エスケープ・フロム・LA』といったジョン・カーペンター監督の諸作、『エキゾチカ』(の制服女子高生!)、さらに英国ならではの『モンティ・パイソン』シリーズ等々といった、おびただしい名作傑作怪作の記憶がオンパレードで呼び覚まされる場面の連続なのである。
 しかもそれが、決してオタク風の内輪受けやマニアックな趣味性に堕していない。中心人物のゲイリーや他のキャラクターが見事に造型され演じられていることこそが、単なるパロディにおさまらない本作の面白さと魅力の中心であることは間違いないだろう(……実際、途中であきらかになるダメ男ゲイリーの「真意」に、つい自分を重ね合わせて思わずナミダ(!)を誘われたのは、決してぼくだけではあるまい)。
 その喜劇やSF、ホラーなどの各ジャンルを横断しつつ逸脱していく重層的なクロスオーバーぶりや、音楽的センス(そう、90年代UKロックを中心としたこの映画のサントラもまた出色なのだ!)、加えてサイモン・ペッグとニック・フロストの息のあったバディ・ムービーぶりは、まさに“『ブルース・ブラザース』の21世紀における英国SFヴァージョン”と呼ぶにふさわしい。そういえば本作のサイモン・ペッグはジョン・ベルーシにキャラが重なるし、ニック・フロストは太ったダン・エイクロイドにどこか似ている(でしょ?)。監督のエドガー・ライトとともにTVで人気が出たあたりも、ベルーシとエイクロイド、そして監督のジョン・ランディスの3人組を彷彿とさせるじゃないか。
 さあ、ぼくもこれから彼らの他の作品を、急いで見ていかなくちゃ!


(付記)その後『ベイビー・ドライバー』でさらなる「メジャー監督」にブレイクしたエドガー・ライトだが、あらためてこれまでの作品を見るにつけ、確かにハマったならば偏愛するむきが多いのもわかる気がする。けれど、正直その「趣味性」は少なくともぼくという観客の「趣味」といささか異なっているようだ……

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