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デザインと社会経済思想、あるいは経営のこと。

安西さん、往復書簡、しばらく失礼しました。といっても、2つの読書会 / 研究会で月に2回はお目にかかっているので、ほんとにご無沙汰しているわけではありませんが(笑)

いろいろ慌ただしいことに変わりはないのですが、ちょっとだけ気持ちに余裕が出てきた気がします。

さて、今週金曜日、5月14日のXデザイン学校公開講座、楽しみですね。

“デザイン文化”って何なのか、報告直前になっても、まだクリアな概念定義には至っていませんが、Manzini, E.[2015]を読み、

その延長線上でRutaの博士論文を読み始め、そこで引用されているJulier, G.(現在は、アアルト大学の教授のようですね)の本に触れて、

それぞれにスタンスの違いはありそうですが、“デザイン文化”という概念の指し示そうとするところが、ちょっとずつクリアになってきつつあるようにも感じています。

その話は5月14日にするとして、14日にはできないかもしれない余滴のようなことを書きたいと思って、久々に筆を執りました。

“デザイン”の隆盛は、ネオリベラリズムのおかげ(?)

いきなりこんなことを言挙げすると心臓に悪いですが、ジュリアーの文献を読んでいると、“ネオリベラリズム”という言葉がけっこうよく出てきます。とりわけ、こちらの文献では、第1章でそれなりの分量を割いて論じています。

その際、ハーヴェイのネオリベラリズムに関する文献に多くを負っているようです。

ジュリアーの論についての詳細は、またいずれ書く機会があればと思いますが、ネオリベラリズムの進展と“デザイン”概念の拡張というか、展開を対応的に描き出していて(p.12, Table1.3)、考える手がかりになります。

ちなみに、ネオリベラリズムとあえてカタカナで書いているのは、ジュリアーも指摘しているように、新自由主義といった場合、1920年代から30年代のドイツにおける社会経済的危機のなかで生まれた考え方、具体的にはリュストウ(Rüstow, A.)やレプケ(Röpke, W.)、オイケン(Eucken, W.)などによって提唱され、ドイツの社会的市場経済の理念的基礎となったOrdo-Liberalismus(秩序にもとづく自由主義)をさすことがあるからです。

絶版になってしまったのか、とんでもない価格になってますね…

最近のデザインをめぐる議論や実践は、ネオリベラリズムに対するカウンターベイリングたることを志向する流れが強いようにもみえます。このあたりは、判断が難しいところです。声が上がっているというのは、現実がそうではないからだという見方も可能だからです。

ともあれ、ネオリベラリズムがもたらしたPrivatization(民営化、あるいは民間への業務放出)が、結果としてデザインという視座の隆盛をもたらしたという視座は意識しておいてよいのかもしれません。

ちなみに、ジュリアーは『デザインの経済学』第2章において、デザイン文化とネオリベラリズムとの関係性についても述べています。追々考えていきたいところです。

デザイン文化とMitunternehmer:おそらく5月14日の話の先に拡がるひとつのテーマ。

5月14日は時間の関係上、これについて触れる余裕がなさそうなので、ちょっとだけ話題の先取りとして書いておこうと思います。

前にも少し触れたことがあるかもしれませんが、ドイツ語圏では従業員(これも単なる労働者Arbeiterという表現ではなく、協働者Mitarbeiterと呼ぶことが多いです)をMitunternehmer(co-entrepreneur / intrapreneur / interne Unternehmertum)として位置づけるという考え方が、けっこう伝統的にあります。ドイツ(だけではなく、ドイツ以北のヨーロッパ、といってもいいかもしれません)では労資協調にもとづいたPartnerschaft=partnershipという考え方、あるいは経営共同体という考え方が、一つの流れとして根強くあります。

上平崇仁先生が昨年公刊された『コ・デザイン』の考え方が、北欧に一つの源流を持つこと、そしてそれが1970年代ごろに生まれたことを考えれば、近いところに根があるとみてもいいように思います。

別に、Mitunternehmerの考え方とデザイン文化がもともと一緒だったとか、そんなことを言おうとしているわけではありません(笑)

ただ、マンズィーニが提示しているデザインの議論などは、それぞれのアクターが将来を構想描写 / 投企しつつ、協働するというところにポイントがあるわけで、それを考えると企業者的姿勢(entrepreneurship)という概念と重なり合うように、私には感じられます。ジュリアーも「デザインは、高度に企業者的な専門職だ」と言っています。

それを、誰か一人が発揮するのではなく、それぞれのアクターが協働のなかで発揮していくということを考えるとき、デザイン文化とMitunternehmerの概念は近いところにあるようにも思うのです。

5月14日も、このあたり、いくらかは触れることになると思います。

歴史を省みつつ、今を考える。

いつもの文化の読書会もそうですし、今回のXデザイン学校公開講座の母体になっている研究会もそうですが、歴史的な側面を考えるというのが根底にあるのは、視野が拡がっていいですよね。

久々の往復書簡、まったくまとまりありませんが、14日の公開講座のおかげで、いろんな文献を読むことにもなるので、消化できてるかどうかは別にして(笑)、いい機会になってます。

ということで、14日、楽しみにしてます。

たまたまこのnoteをお読みになられた方、ぜひおいでくださいませ(宣伝)




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