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デザインのための科学。そのための言語体系の構築:クリッペンドルフ『意味論的展開』第7章第1-3章読書メモ。

以下は、クローズドな読書会での輪読メモです。読めばわかる内容ですが、個人的備忘としてnoteに書きました。なお、山縣の解釈が入ってます。あらかじめご了承ください。

1. デザインのための新しい科学

クリッペンドルフによる「意味論的転回を通じたデザインの新しい基礎理論の構築」は、Artifact, Interface, User Concept Model, Stakeholder, Affordance, Languageといったデザインをめぐって生じるさまざまな事象が意味するところを語り、記述するための新たな語彙の構築である。つまり、デザインのためのディスコースを提供するところに重点がある。これを、クリッペンドルフはデザインのための科学(science for design)と呼ぶ。

ここで、クリッペンドルフはデザインをめぐる科学を、クロス(Cross, 2000: 96)に依拠して、3つに分ける*。
(1)デザインの科学(science of design)
(2)デザイン科学(design science)
(3)デザインのための科学 (science for design)

* ちなみに、ドイツ経営学でも管理 / 統率(Führung)を学問的にどう位置づけるのかという議論が1970年代から90年代前半にかけて展開された。そのなかでも、キルシュ(Kirsch, W.)は管理の学問(Lehre von Führung)と管理のための学問(Lehre für Führung)をわけたうえで、「管理の学問にもとづく管理のための学問」を展開する必要を指摘している。そして、Führungという行為実践を認識観点としてさまざまな学問での研究蓄積に光を当て、究極的にはアクションリサーチの方法を通じて、学問的に基礎づけられた実践的介入の可能性を論じている。キルシュとクリッペンドルフのあいだに影響関係はないはずだが、考え方としては近い。

【補註1】デザインをめぐる学問と、経営 / 管理をめぐる学問。

ここで重視されているのは、(3)である。デザインのための科学とは、クリッペンドルフによれば、「成功したデザイン実践、デザイン方法、ならびにデザインの教訓の説明の体系的な集成」である。「それらの説明は、どんなに抽象的であっても、成文化あるいは理論化されており、それがDesignのコミュニティ内でやり取りされ、不断に評価されることは、デザイン実践の自省的な再生産につながる。さらに、それはさまざまなステイクホルダーと共同し、プロジェクトに特有のリサーチをおこない、そして最も重要なことは、デザインを妥当化する手法を提供する、特定のデザイン意思決定を支援するために、関連する知識ベースを利用する方法を含んでいる。その目標は、デザイン論を実行可能で生産的にしておくことである」。つまり、「これまで存在しなかったものを実現する、世界に望ましい変化を誘導する、デザインが技術的、社会的、文化的にもたらすものを未来に投影するために必要とされる知的ツールを提供」するところに、デザインのための科学の役割がある。

このデザインのための科学は、以下の5つの特徴を持つ。
(1)デザイナーは、本質的にいまだ存在せず、自然には生まれてこないArtifact, products, 慣行に関心がある。
(2)デザイナーもまた、どのような将来が進歩となるのか、あるいはならないのか、そしてそれが誰のためのものであり、どういった時間の枠組内にあるのか、どのような努力によるものなのかといった感覚を持つことが必要となる。
(3)ステイクホルダーの理解に関する詳細な理解が多かれ少なかれ得られると、これらの理解の理解がどのようにデザイン意思決定に情報を提供できるかがポイントになる。
(4)どんなディスコースの評判も、その主張がどれだけ受け容れられるかによって上がりもし、下がりもする。
(5)健全なデザイン・ディスコースは、それ自体を吟味し、その誤解を修正し、デザインの成功を増幅し、継続的にその語彙を拡張しなければならない。

ここからも窺い知られるように、クリッペンドルフはデザイン・ディスコースを通じて、デザインを説明し、また実践していくための言語体系を構築しようとしている。その言語は、まさにデザインをめぐる二次的理解を構成する。だからこそ、この5つのあとに〈科学〉と〈科学思想〉の二層的性質と、デザインのための科学におけるこの2側面の両方の必要性を説く。この科学思想とは、学問構造におけるメタレベルといっていいだろう。

2. 未来への可能性の余地を創造する手法

ここでは、
(1)ブレインストーミング
(2)リフレーミング
(3)組み合わせ法
の3つが紹介されている。一つひとつの説明については省略するが、技術に関心のあるステイクホルダーの声を聞くことができる場を創るために用いられる。

3. ステイクホルダーの考え(構想 / concepts)と動機(motivation)を探究していくための方法

ここで挙げられているのは、
(1)理想的な将来 / 未来のためのナラティヴ
(2)サーベイおよび構造化インタビュー
(3)非構造化インタビュー
(4)フォーカスグループ
(5)観察法
(6)プロトコル分析
(7)エスノグラフィ
(8)方法的トライアンギュレーション
(9)デザインプロセスへのステイクホルダーへの参加
の9つである。

2022年においては、これらはデザイン / サービスデザインのための方法として、ある程度までは根づいているようにも思われる**。

** これは、私がXデザイン学校(大阪校)で3年間学んだからそう思っているだけかもしれない。クリッペンドルフのこの節を読んでいると、年を追うごとに変化はしつつも、これらがXデザイン学校の学びのプロセスに織り込まれていることを、あらためて感じる。ただ、(2)はまだ手薄かもしれない。また、(9)は学びの場なので、実際には難しいところもあるが、擬似的には行われている。

【補註2】クリッペンドルフとXデザイン学校

これも詳細は省略する。ただ、いよいよ経営 / 価値創造実践において〈デザイン〉という考え方や視座、さらに方法が重要になってきている今、これらをそれまでのやり方からの〈脱皮〉のためにどう織り込んでいくかは、きわめて重要になっている。

2022年3月1日に開催されたXデザイン学校公開講座では、そういったことも議論されていたようで、クリッペンドルフとDesign-orientedな経営との合流点が浮かび上がってきているのかもしれない。

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