山奥ニート本、発売前日
1冊1500円の本を買うのは、ニートにとって一大決心だ。
会社員にとっての1万5000円の買い物、いやそれ以上かもしれない。
だから、自分が本を出すなら、絶対に損したと思わせないようにしたい、と思った。
だから、この本には山奥ニートのすべてを詰め込もうと思った。
結果、5章で構成することにした。
1章は山奥ニートの概要。ここはルポルタージュ風に。
2章は山奥ニートの日常。ここは日記風に。
3章は山奥ニートの歴史。ここは物語風に。
4章は僕以外の山奥ニートの話。ここはインタビューだ。
5章は僕の山奥ニートに対する考察や意見を書いた。新書っぽい感じに。
速筆の人だったら、これらを5冊に分けて出版することができるだろう。
でも、全部入れたかった。結果、320ページとソフトカバーの単行本にしてはなかなかの厚さになった。
手元の同じ形式の本は200ページほどだ。
それでも、章が変わると雰囲気も違うので、つまらないと思った部分は飛ばして次に進めるようになっているはずだ。
内容は全部書き下ろした。ブログと同じ話を書いているけど、コピペは一切していない。
いや、できるならコピペしたかった。
でもブログに書いてる程度の文章じゃ、本にするには薄すぎた。
もっと真面目にブログ書いておけばよかった。
だから10万文字書きおろすことになった。大学の卒論だって2万文字なのに。
ニートにしてはよくやったと思う。
文章を書くのは楽しい。
書いている間、あっという間に時間が過ぎる。
自分の文章を読み返して、些細な修正を繰り返していくのは彫刻を掘るみたいだ。
でも、この本を書くのは辛かった。
ブログは、書いてみてまとまらなかったらボツにできる。
だけど山奥ニートの本を出すからには、必ず書かなければならない事がたくさんあった。
例えば、お金の話。
収入や支出の話をすると、そこばかり取り上げられるから、正直あまり触れたくない。
だけど、読者が一番気になってる事だとは分かってる。
だから頑張って書いた。僕は山奥ニートの中でも変わってるので、参考になるかはわからないけど、出来るだけ赤裸々に書いたつもりだ。
それ以上に描きづらかったのは、自分の過去について。
僕がニートになるきっかけの話は、今まで誰にも話した事がなかった。
思い出したくなかったし、鬱で記憶が曖昧だ。
それでも編集者さんに、山奥ニートをする人がどんな人なのか読者はきになるはずだと説得されて、歯を食いしばって書いた。人に見せられる形になるまで、何度も書き直した。
それなりに読めるものになったと思う。
でも言語化によって、自分の記憶の言葉にならない部分は消えていった気がする。
まぁ、遅かれ早かれ忘れる事だ。
過去のことを思い出すために、中退した大学に潜入したり、同窓会行ったりしたんだけど、この話はどっかで書きたいな。
執筆の後半になってようやく、自分は書けるものしか書けないのだと気付いた。
編集者さんに初めて会った時、僕はこう言った。
「ブログでは『ですます』と『であるだ』を織り交ぜて書いてるんですけど、本だと違和感ありますよね。どっちに統一しましょう?」
なんて生意気な!!
そんな器用な事、100年早い。結局、僕にはこの文章しか書けないのだ。
それに気付いて、一度全部ボツにして、最初から書くことにした。
それで2年かかった。最後まで付き合ってくれた編集者さんには頭が下がる。
本は出来上がったわけだけど、正直なところ達成感はまったくない。
ただ、終わったなーと思う。
2018年から、いつも脳みその片隅には本のことがあった。
自分が本を出したいと言ったから、書くことになったんだけど。
でも何度、やるなんて言わなきゃよかったと後悔したか。
書き終わった現在、今度はあんなこと書かなきゃよかった、と不意に思い出して恥ずかしくなる。
ブログなら、後からいくらでも直せるのにな。
一方で、本屋の平積みを手にとってペラペラめくり「これなら僕の本の方が面白い」と増長したりする。
編集者さんは原稿を出すたびに、べた褒めしてくれる。
「褒めるのが仕事なんだなぁ、大変だ」と聞き流す。
でも、原稿ができた後、PR方法を相談した時に「ツイッターで本文の一部を公開しましょう」と言われた時は驚いた。
僕は、中身が良くないから表紙に気合い入れてほしいなー、と思っていた。なのに、中身を公開するだって!?
その時ようやく、編集者さんのことを信頼できるようになった。
原稿終わった後にそんなこと思っても、意味ないんだけど。
僕はいつも人を信用するのが遅すぎる。
とにかく、今の僕の力はすべて出した。
僕らはまだまだここで暮らしていくけど、間違いなく一つの区切りになる。
山奥ニートの5年間の集大成だ。
まぁ、書いてるうちにいろいろ山奥も変化して、2年分のネタが新しくできてしまったんだけど。
書いてる時は「本なんて凡人が書くもんじゃねー。二度とやるか!」と思ってたけど、喉元過ぎれば熱さ忘れる。
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