20240821_目に見えないが大きなノウハウ
朝から病院に行った。
地元のかかりつけ医に紹介状をだしてもらい、予約をとった総合病院だ。
命にかかわる緊急性の高い疾病などではないこともあり、張り切って自転車をこぐ。
時間よりかなり早めに到着し、1階のタリーズに席をとる。お盆休みのあいだに読み切ろうとしていたがかなわなかった、長嶋有「トゥデイズ」の続きを読むのだ。
アイスコーヒーに、2秒だけ迷ったのちにホイップクリームを追加。
本をひらく。
日常のささやかな瞬間を思いもよらない角度からすくいとる筆致に、やっぱりこれは面白い小説だなぁとかみしめるべく本から顔をあげると、テーブル上にポップを見つけた。よく新商品の案内がなされるような、光沢のある厚紙を三角柱に折って仕上げるあれだ。
よく見ると新商品の案内ではない。「コーヒーを飲んで、まだまだ私はがんばる」「これからだ」「新しい自分」といったフレーズが並び、微笑んでいる若い女性の目にはうっすら涙が浮かんでいるように見える。
そうか。ここは病院なんだ。
このテーブルに、あの席に。これまでどれだけ不安や喪失、痛みをかかえた人たちが座ってきただろう。そしてコーヒーを飲んだだろう。そう思うと新商品ではなく、人々をさりげなくエンカレッジするメッセージが小さなポップとして置かれている意味がわかってきた。そして、総合病院に併設されているチェーン系カフェの多くがタリーズである理由もわかった気がする。おそらく、カフェという場所でそうした不安や喪失をかかえ、痛みとたたかう人々を見守り励ましてきた目に見えないが大きなノウハウがあり、それが信頼されているからなのだろう。
一瞬自分がここに座っているのが呑気すぎるのではないか、他に座るべき人がいるのではないかと周りをみまわしたが、まだ空いている時間だったので引き続き座ることにした。ただし着席制限の目安である60分よりは早く席を立つことにする。
引き続き「トゥデイズ」を面白く読みながら、途中で「ランドセル、もう決めました?」というセリフがあったので、勢いにのって、ええいっ、と、再来年に小学校にあがる娘のランドセルのパンフレットを4社くらいから取り寄せる手続きをした。
その後すっくと席をたち(お店にゴミ箱がないのは、衛生上のなんらかの理由だろうか)スムーズに診察券作成、カルテ作成、診察。採血もあり。採血はいつだって嫌だが、血からよくもまぁ色んなことがわかるものだ。
病院内ではいろんなフロアで「バーコード見せてください」「ピンクの紙をだしてください」「診察券を挿入してください」と言われるがままの行動をとる。離れたフロアの違うセクションに行かされても、きちんと私の名前が表示され、私が何科にかかっていて次に何をすべきなのかが判明している、あのシステムの完璧さに軽く興奮した。
やりきった感をかかえて、帰宅した。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?