2023/11/25_娘は世界と関わるのがうまい

娘は世界と関わるのがうまい。
私は世界と関わっているふりをしながら、自分が世界に向けて何らかの働きかけをして、それに対して返ってくる反応を受け止めるのが怖く下手くそである。
一方の娘は胸襟を開いて自分の周囲の世界と関わり、それに対して返ってきた反応を全身で受け止めている。自分が人や環境に対して働きかけることで、人や環境が変化するということを身をもって知っており、しかもその働きかけがいつもポジティブなので、彼女に返ってくる反応も大体においてポジティブなものである。

4歳7ヶ月になる娘は私が午前中の仕事に行っている間にせっせと絵本を作っていたらしい。
絵本作りは最近の彼女が集中してやっていることである。ノートの綴りをそのまま利用して絵本にしている。娘は絵を描く。文の部分は親が聞いて、絵の横に書く、というスタイルである。
先日も猫が出てくる絵本を作っていた。道端に生えていた実物の猫じゃらしをテープで貼り付けるという表現方法をとっており、「おお、『ミクストメディア』だ・・美術館で現代美術の作品の表現方法というか材料として書いてあるかっこいいやつを自然にやっている・・・」と感嘆したところであった。

帰宅後の私に作品を見せる前に、ノートにうさぎ、ネズミ、くま、猫の絵をまず4つ描いたページを見せてくれた。「この4つの主題の絵本を書いている」とのこと。なるほどこのページは企画書なのだな。やるな。

すでに書きあがった作品を見ると、主人公の名前が途中で変わってしまったりするものの、彼女がどのように世界を見ているのかがダイレクトに伝わってきてそれはそれは味わい深い。何より彼女が世界を見ている、その見方が実に愛おしい。
「泣いている赤ちゃんにミルクをあげよう」という場面で哺乳瓶がまるまる1ページ使われて描かれているところなど最高であるし、その物語の流れはさてはきみが愛用している人形「レミンちゃんとソランちゃん」に附属されていた絵本から無意識にインスパイアされているな。

夫からバトンタッチした私は残り1作の聞き書き要員として参加し、かくして絵本は出来上がった。すると彼女は絵本を頒布したいのだという。しかも祖父・祖母などの彼女が知っている人ではなく、近所の、言ってみれば全く知らない方に向けてだというので、世界と関わることが臆病な私は慄く。
しかし彼女の表現欲求や行動力に私も乗せられる形で、せっせと作品を家庭用プリンタでカラーコピーして綴じる。さらに露店というか行商のスタイルで頒布するイメージらしく、そのためにメガホンが必要だと言われて、厚紙で作る。持ち手があり、口に当てる部分にも面をつけ、そこにスピーカーのように無数の穴が空いたものが良いのだと言われた。彼女の頭の中にあるメガホンの仕様が明確なのに感服する。持ち手の部分はメガホンの斜めの角度にピッタリ沿うように仕上がったし、スピーカーのように穴の空いた叫び口も綺麗に作成でき、思った以上の出来に私がご機嫌。

17:00に頒布を開始した。すでに暗くなっているのでほぼ頒布できないだろうと思っていたが、娘は犬を散歩している方々や親子連れに声を自ら掛けまくり、4作品のうち3作品をもらっていただく。一冊受け取ってくださったうちのひとりの老婦人は孫がいないから嬉しいと言ってくださる。また別の作品を受け取ってくれた2歳の女の子がめちゃくちゃ可愛い笑顔になってくれる。さらにその2歳の女の子の手を引いていたのは彼女のひいおばあちゃまとのことで、ひいおばあちゃんとひ孫、ふたりのお散歩の幸せさを分けてもらったような気持ちになった。絵本の頒布によって私がホクホクするのは、それもこれも世界にや人々に分け入って関わっていった娘が、その反応として自然に得ているもののおこぼれである。

つくづく娘は世界と関わるのがうまいのであった。



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