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300人の味方


先日、『タリータウン』というブロードウェイで作られたミュージカルを日本初上演しました。

小さなプロダクションだったので、演出家みずから台本や楽曲の歌詞を翻訳し、出演者全員でその翻訳が今回の上演に相応しいのかの検討をし、ひと言でいえば超手作りでつくった作品でした。

その結果、商業の大きな作品に出ているだけでは得ることができない経験がたくさんできてとても勉強になったのです。それについてはこの記事で書きました。


ただ、だからって、大きな作品に出るより自分たちでやったらいいと思っているわけではないです。

大きな作品に出ると、いろんな人と出会えます。さまざまな分野のプロフェッショナルがいて、自分の力だけでは会えないような人とも一緒に仕事をすることができます。

その過程で、偉大な先輩たちの積み重ねてきた経験や技術の一端を目にすることができますし、そこから多くのことを学び取ることもできます。

じっさい、今回の『タリータウン』での僕自身の関わり方は、商業ミュージカルの現場でここ数年経験してきたことをベースにしていますし、その経験の蓄積があったからこそ海外作品の日本初上演という作業を、比較的スムーズに乗り越えられたように感じます。


さて、上の記事の中で「来場者は300人くらい」と触れました。

はたしてこの動員数が多いのか少ないのか、いろんな捉え方ができるなと思いましてこの記事を書いています。

結論から言うと、僕にとっては今回会場に来てくださった延べ300人のみなさんの存在はめちゃめちゃデカいです。きっと、今後の活動においての心の支えになるくらいに、大きな存在になると思います。


世の中にはさまざまなイベントやコンサート、公演があって、たくさんの人が集まる場がたくさんあります。それこそ1000人とか2000人、ときには数万人が集まるものもありますね。

僕らの公演は、1公演40名ほどが上限でした。当初は50席満席を想定してたのですが、舞台を組んで客席を並べてみるとそんなに入れられないぞ、となったのです。

とはいえ、はずかしながらというかなんというか、僕はまだまだ知名度も動員もない俳優で、自分ひとりで40席を埋めることはたぶんできません。

でも今回は、作品の魅力と共演者のふたりの魅力とで、最終的には8公演どの回もたくさんのお客様にいらしていただくことができました。

今回公演に来てくださった300人のお客様は、もちろん昔から僕のことを応援してくださっている方もたくさん含まれてますが、結果としては「公演を楽しん」で劇場を後にしてくださったと思います。

「楽しんで」というのは、単に楽しかった!とかエンタメ摂取したー!ということではなく、物語の起伏に心を揺さぶられ、登場人物たちの葛藤と行動に共感したり、ときには批判的な気持ちになったり、自分の人生を省みたり、救われたような気持ちになったりと、そういう「演劇表現に触れる醍醐味」を持ち帰っていただけたんじゃないかということです。

これは僕が勝手に思ってることなんですが、今回『タリータウン』を観てくださった300人のお客様は、これからも『タリータウン』のことを忘れずにいてくれるんじゃないかなという直感があります。

そして、今回の『タリータウン』に携わった僕とか、高島くんや武田さんとか、あるいは演出の中原和樹のことなんかを、どこかで応援し続けてくれるんじゃないかと感じています。

誤解を恐れずに言えば、今回来てくださった300人は今後も僕らの「味方」でいてくれるんじゃないかと思ってるのです。

おいおいやめてくれよ、勝手に味方認定するなよ、とお思いの方もいるかも知れませんが、これは言わばこちら側の片想いみたいなものでもありますので、あんまり気にしないでください。猫がニャアと鳴いたとでも思ってもらえれば。


なんでそう思えるかといえば、今回の公演では僕ら出演者が一方的にパフォーマンスをして、それをお客様がそれぞれ「勝手に」受け取って帰ったという感じではなかったからです。

ひとつのミュージカル作品を真ん中の軸にして、僕らも客席も、一緒になってその時間と空間を作り上げドラマを共有したと言う実感があったからです。

いわば、お客さんは僕らにとっての、あるいは作品にとっての「共同制作者」でした。

はじめからそうなるだろうと想定していたわけではないんですが、初日が開いてみると自然と、劇場の空間がそんな雰囲気になっていました。

もっとも、「人が頭のなかで考えていることは、本当には分からない」ですから、こういう「あのお客さんたちは僕らの味方で、共同制作者だった」という感覚は僕の思い過ごしかもしれません。

ですが、僕の中ではそれがひとつの真実であるということもまた揺るぎない事実なのです。


今後もいろいろなチャレンジをしていきたいと思いますし、それがミュージカル公演なのか、ライブなのか、ひとり芝居なのかはわかりませんが、ぜひぜひ応援をいただけたら嬉しいなと思います。

応援とまではいかなくとも、僕のことや、『タリータウン』という作品のことや、一緒にそれを作ったメンバーたちのことを、覚えていてくださったらこれほど嬉しいことはないとも思います。



読んでくださってありがとうございました!サポートいただいたお金は、表現者として僕がパワーアップするためのいろいろに使わせていただきます。パフォーマンスで恩返しができますように。