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それぞれにそれぞれのラグタイム!


こんにちは!山野です!

9月9日に日生劇場で日本初演の初日を迎えたミュージカル『ラグタイム』は、順調に公演の日々をすすめて、まもなく東京公演の最終週に突入します。

ありがたいことに各所から好評の知らせをいただいておりまして、僕としてもとても嬉しい気持ちですし、そんな作品のオリジナルキャストとして日々舞台に立てていることを誇りに思います。


20世紀初頭のアメリカを舞台としている上に、扱っているテーマが多層的で、だからこそ「社会派ミュージカル」という形容もされているようですが、シンプルなエンタメを観るという心持ちからはすこし質の違うところに観劇後のお客様の状態を運ぶ力がこの作品にはあるようです。

どんな作品を観るときもそうですが『ラグタイム』も例に漏れず、描かれている時代の歴史的事実とか社会情勢とかをある程度知識として理解した上でご観劇いただいた方が、物語をストレートに受け取る余裕ができるのだろうなと感じます。

でも、忙しい毎日の中でそれなりに頑張って時間を捻出した上で劇場に来てくださる方も多いでしょうから、それに輪をかけて「事前に勉強した方がいいですよ〜」っていうのはこれまたけっこう難しい話ですよねー。


そのあたりが、日本で社会派の作品を上演するときの悩ましいポイントなのでありまして。


僕の書く長ーーーーーい文章を読んでくださる方たちだったら、事前情報を先に読む、みたいなことにも抵抗がない人も多そうですよね。あるいは観劇後に、自分の受け取ったものに「どんな背景があるんだ!?」と思って調べる方も多そう。


『ラグタイム』という作品に向き合うときに知っていると理解の助けになるような背景情報をまとめて書くことは、東京公演が終わったときの休みあたりでやってみたいと思います。それが観劇の補助線になるような情報を書いてみるやつ。

ただ、僕としては、たしかに細々した知識を持った状態で作品に向き合うことで初めて受け取ることのできることはたくさんあるけれど、そういった周辺情報を一切摂取せずに、生身の自分で作品と対峙するっていう観劇の仕方も、なかなかいいものだよななんて思います。


例えば美術館でもそうで。僕はよくやるんですが、何かの美術展に行ったときにまずはとりあえず説明文とか作品の題名とかの文字情報を一切見ずに、だだーーっと早歩きのスピードで作品を眺めていくという鑑賞の仕方があります。

いや、わかんない、これが正式な鑑賞の仕方かどうかは疑問なんですが。笑

そういう見方で僕が何を得たいかというと、周辺情報に惑わされることなく自分が「作品そのもの」から何を受け取れるのかという、そこを見極めたいんですよね。

そういう見方で得る感想は、色が綺麗だなとか形がかっこいいなとかだったりもしますし、あるいは「パッと見でしかないのにこの作品にはなんか説得力がある」とか、「この作品は色彩は綺麗っぽいけど全然心に引っかからないな」とかだったりもします。

第一印象で、瞬間的に、自分の中で判断をしていくんです。

で、そうやってサササっとしたスピード感で最後まで作品に触れたあとで、もう一度入り口に戻って、今度はじっくり鑑賞を始める。気になったら説明文などの文章もじっくり読んでみる。そんな見方をよくします。

そうすると、瞬間的な第一印象と、2度目のじっくり鑑賞時の印象が一致することもありますし、逆に第一印象が覆されることもあるわけです。

パっと見ではわからなかったことが、じっくり見でわかったり。じっくり見でも気づかなかったことが、文章を読むことで途端に理解できたり。


単に「鑑賞する」といってもそのやり方はさまざまで、鑑賞の仕方を変えることで鑑賞という行為それ自体の強度を変容させることもできるんです。僕はそれが楽しくって、美術館に行っているみたいなところがあります。


もちろん、美術館だと鑑賞する対象が止まっているから、何回も見返すことができます。演劇だと場面が移り変わっていっちゃうし登場人物も動くしで、そういう鑑賞の仕方はできませんよね。それが良さでもあり、悪さでもあり。

いずれにしろ、いろいろな楽しみ方ができるのが作品鑑賞の最大の良いところです。社会派ミュージカルとされている『ラグタイム』を、ゴリゴリのエンタメを観るつもりで観ていただいても全然いいわけで。

これは伝え方が難しいんですけど現実の生活の中で、人種差別やジェンダー規範、労働問題、行き過ぎた資本主義が生み出す貧富の差、といった社会課題に対して感度が高く知識を持っている方が『ラグタイム』を観たときに、むしろその知識に引っ張られ過ぎる、ということも起きるんだと思います。それが悪いということではなく、じっさいある現象として。

そういう僕も、この作品に出演すると決まって台本に向き合っている期間もこうして公演を重ねているこの頃も、どちらかといえば現代に山積している社会課題と地続きの世界として『ラグタイム』を捉えています。

でもきっと、そうじゃない視点と切り口から、この作品の本質を掬い上げることも可能なんだろうなとも、ときどき思うんです。


まあ、何が言いたいかというと、みなさんぜひ、それぞれの鑑賞スタイルで楽しんでくださいね!!!!ということです。笑

その上で、周辺情報が気になる方がいらっしゃったらそれぞれ調べてみるのも楽しいでしょうし、そのうち僕が書くであろうそれ系の記事を楽しみにしていただくってのもひとつの手でしょうし。

いずれにせよ、東京公演はあと4日。6公演を残すのみとなりました。

引き続き、怪我と健康に気をつけて頑張っていきたいと思います。




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