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ショートショート ふりかえるとよみがえる

秩父旅行の最終日。
本日来たこのお店、聞いた所隠れた名店らしい。
ただ注意点が一つ。
絶対に食べ物を残してはいけない。

「もう、お客さんったら」
「いえいえ、凄く美味しかったです!」
本当に、文句無しに美味かった。
…帰りのバスの時間が近いな。
「お会計お願いします」
「お客さん、サービスです」
自席を振り返ると、デザートが置かれていた。
「え、いいんですか?」
嬉しい気遣いだ。
「ご馳走様です、お会計を」
「…サービスです」
自席を振り返ると、再び天ぷらが盛られていた。
…うん、美味いな。
そろそろバスが。
「お会計を」
「サービスです」
振り返ると、料理長が蕎麦を足していた。
「え、あのもう大丈夫です」
女将の顔から笑顔が消え、料理長のこめかみがピクリと動く。
「全て完食してからお帰り下さい」
女将がそう言うと、料理長がキレ気味に天ぷらを補充した。コース料理の復活だ。

バスの発車時刻、俺は料理長に肩を押さえられながら、女将の説教を聞き、蕎麦を食していた。


【410文字】

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