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ショートショート タイムスリップコップ

夏休み最終日に、自由工作の宿題を思い出した。
半泣きの俺は考え、近くの紙コップで貯金箱を作った。

かこん

机に置くと軽い音が響いた。

「先生それ手抜きですよ」
学級委員の武田だ。

「見せてよ」
「やめろよ!」
貯金箱は俺と武田の間を行き交い、床に落ちた。
そして、武田に踏まれた。
「あ、ごめ…」
俺は、泣いてしまった。


1ヶ月後。
工作の展覧会が終わり、貯金箱が返却された。
踏まれたせいで皺がついている。
「……」
武田の視線を感じる。
俺は隠すようにランドセルにしまった。

「ただいま…これ捨てといて」
俺はお母さんに貯金箱を押し付けた。
「何言ってるの…あら、何か入ってるよ」
「え?」

クリップ、何かの紙、1円玉。
展覧会の時に入れられたのか。
「?」
紙には何か書いてあった。

『本当にごめんね 武田』

武田への悪い感情。
それが何故か一瞬でフッと消えた。
「…直接言えよ」
不思議と俺は嬉しくなっていた。
また話しかけていいんだ。

武田の気持ちは、1ヶ月タイムスリップして俺の元へ届いた。


【419文字】

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