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比良山系打見山登山ツアー

11月8日の日曜日、はるか上空に若干の雲は浮かんではいるものの降雨の心配は皆無。

昨日はなんと大雨!降雨により空気中の不純物は多いに叩き落とされ、まるで空気清浄機でピカピカにされたかのような最高の空気に包まれながら、その日、登山ツアーの当日を迎えた。

その日目指す山頂は、滋賀県大津市にある標高1108mの打見山。夏は壮大な景色とアスレチックを楽しめる一大テーマパーク、冬はスキー場と年中楽しめるびわ湖バレイで有名な山である。

キタダカ道、クロトノハゲを経由し打見山山頂に至るルートは、多くの登山ファンが訪れる有名なルートであり、登山素人からベテランまで楽しむことができる。今回私たちが通るルートである。

実は、このルートと登山ガイドとしての私との関係は深い。私の登山実績はこのルートから出発したと言ってもいい。

私が学生だった頃、もう20年以上前になるが、初めて挑戦した登山がこのルートであった。季節はなんと真冬!!登山初心者がいきなり雪山に挑戦するという無謀な挑戦の先に待ち受けていたものは、案の定散々たる結果であった。

結論を言うと、この時、私は打見山山頂に辿り着いている。いくらバカでも雪山が厳しい環境であると言う事前情報くらいはあったため、私は考えられる限りの防寒着を備えていた。

とはいえ、雪山登山では通常装備であるピッケルやアイゼン、ツェルトなどの装備も全くしておらず、登頂までの道は困難を極めた。足元は雪でグショグショ、身体はドロドロ、寒さに凍え、おまけに道にも迷い、どうしようもなくなって途中でヘタレこむ始末。ベテラン登山家風の年配のご夫婦がたまたま通りがかったため彼らの後をたどることでどうにか登頂を果たした私であったが、登頂した喜びなど微塵もなく、ただただサッサと家に帰って風呂に入りたかった・・・

後日、雪山登山について調べ、必要な道具などを買い揃え、再び登頂に挑戦!見事果たし、ようやく登頂の達成感と喜びを味わうことができた私。この経験をキカッケに各地の雪山への挑戦権を獲得したような気になったのであった。

つまり、今回のこのルートは、当時学生だった私に登山の厳しさや楽しさ、達成感を教えてくれた、いわば先生とも言える存在である。

今回のツアーは、私にとってまさに原点回帰のツアーであり、ツアー参加者の皆様は、かつて私が体験したように、登山の厳しさと面白さと達成感を絶妙なバランスで味わうことができる。もちろん今は雪山シーズンではないが、それらは決して失われるものではない

さて、私とのいくら関係が深く、熟知しているルートとはいえ、絶対に気を抜くことはできない。私の立場はツアー主催者でありプロのガイド。今回参加してくれた6名の方々の命を預かる身である。その重責を心に秘めつつ、いざ、ツアー開始!!

登山の楽しさの1つは、まるで生き物のように変化する登山ルートにある。全く同じルートでも、登るたびに全く違う姿を見せ、多くの登山ファンを楽しませてくれる。

さて、今回の登山道はどんな表情を見せてくれるのか。

当日は晴天であったものの、前日に降った大雨の影響で足元が不安定となっている懸念があったが、思いの外登山道の水はけがよく、私の懸念は杞憂に終わった。

登山道の表情は、他にも木々の様子、風の強さ、小鳥のさえずり、虫の多さなど多くの要素を包含するが、どの点においても非常に快適である。

どうやら登山道はすこぶるご機嫌らしい。楽しい登山になりそうだ。

今回のルートの特徴は、何と言ってもその手軽さである。JR湖西線志賀駅から登山口までは徒歩でたどり着くことができ、その道中も昔ながらの家屋や田園風景が見渡せて飽きることがない。

比良山系山域は多くの山々が連なるためいくつも登山口が存在するが、中には登山口までタクシーに乗らなくてはならないこともある。とてもお気軽に、とはいかない。

さて、時刻は午前9時。ほぼ定刻通りに今回の参加メンバー全員が志賀駅に終結し、いざ登山口へ。

登山口に至るまでの長閑な風景を楽しみながらの道中は、まるでこれから訪れる最高の時間を予感するかのように楽しく穏やかな時間であった。

共に山に登る仲間はより親密な関係となりやすい、という持論を持つ私は、その前段階としてまず全員に自己紹介をお願いした。メンバーは不動産業、カメラマン、プログラマー、主婦、CAD設計者、そしてオネエ!

バラエティに富む仲間との登山に胸を踊らせ、登山口から山に入山した私たちであった。

入山した私たちの前にそびえ立つはキタダカ道。ジグザグ道で構成される登山道は、多くの木々に囲まれたなんとも幻想的であり、そして登るものたちに大きな試練を与える。

斜度30度ほどの道がジグザグに延々と続き、登るものたちの体力を容赦なく奪う。かつて私も何度も息を切らせながら登ったこの登山道であるが、それはあくまで雪山のシーズンの話である。

雪がなく土と石と岩ばかりが転がる道は、山に挑もうとする私たちにとって適度に冒険心をくすぐる、まさにエンターテイメント。息切れすることも忘れ、ただひたすら山道の歩行を楽しみ、新鮮な空気を楽しみ、風景を楽しむ至高のひと時であった。

途中に出くわした遠足中の中学生と思われる集団も、私たちの楽しい登山を演出する一幕となり、微笑ましいものであった。

「天狗杉」という大木がある。樹齢800年から1000年とも言われ、日本の歴史と照らし合わせると平安時代末期から鎌倉時代に当たる。それほど太古の昔からその地その場所に存在しそこから日本の歴史の移り変わりを見てきた「天狗杉」にはそこはかとなくオーラすら感じられる。

実は、その「天狗杉」がキタダカ道に存在する。

足元に「天狗杉」と記された看板が設置されているため、私たちはその樹木が天狗杉であることを知り、樹齢を調べることができたわけであるが、実際には「天狗杉」の存在は周囲の木々を圧倒していた。まるで「天狗杉」自体が神の住処であるかのように、人知をはるかに超越するオーラを発していた。

特に、その枝振りは特筆すべきものであった。「天狗杉」の西側に位置する枝は、谷底に向かって下降しているかと思えば、そこから大きくカーブを描き真上に向かってどこまでも上昇している。まるでその枝自身が一本の独立した樹木であるかのような枝振りであり、見る者を大いに楽しませてくれた。

さて、「天狗杉」に別れを告げてたどり着いたのは「クロトノハゲ」という一風変わった地点。名称の由来は不明であるが、土質の影響からか、その地点一帯には木々も草木の類も生えそろっておらず、まさに「ハゲ」である。

幸いにも今回の登山仲間に毛髪量に悩む者はおらず、気を使うことなく大いに「ハゲ」から望む絶景を楽しんだのであった。

そこから山頂を見上げれば、もう山頂の建屋は目の前。「クロトノハゲ」に別れを告げた私たちは、逸る気持ちを抑えながら、山頂へと歩を進めた。

ここまでもう4時間ほど歩いているが、疲れを見せている者は誰もいない。全員が満面の笑みで登山を楽しみ、大いに非日常の体験を楽しんでいる。ガイドをする私にとってこれほど嬉しいことはない。

安心して山頂へと導き、やがて私たち一行は、標高1108mの打見山山頂へと到着!!観光地となっているため、人工物と観光客で溢れかえる山頂の風景であるが、そんなことはどうでもよかった。

志賀駅から見えたあまりにも巨大で壮大な山の山頂。その頂きに歩いて登った私たちはきっと、ロープウェイで登ってきたどの環境客よりも気持ちが満たされ、そして登頂を果たした者にのみ許された達成感、充実感を体感しているのである。

もちろん、同時に疲労感と空腹感もまた大いに感じているところであるが、山頂のレストランで食べたカツカレーはそんな私たちを大いに癒してくれた。

満腹になった私たちは、そこから下山道へ・・・と言いたいところではあるが、あくまでも「楽しくのびのびと臨機応変に」が信条の私。

打見山のロープウェイは日本一高速ということもあり、下山はロープウェイに乗ってみようということに。噂に違わない、ロープウェイとは思えないそのスピードに冷や汗をかきながら、たったの10分程度で一気に下山を果たし、今回の登山ツアーに幕を下ろしたのであった。

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