私の好きな短歌、その2

中村憲吉、歌集『しがらみ』より(中央公論社『日本の詩歌 第6巻』p203)。

国こぞり電話を呼べど亡びたりや大東京だいとうきゃうに声なくなりぬ

 「関東大震火災」中の一首。当時作者は大阪毎日新聞の経済部記者として働いていた。詞書に「大阪にて関東大地震を感じたれど、未だ大災害の起れるを知らず。ただ総ての通信機関その活動をとどめ、夜に入るも帝都の音信伝はらざるを怪しみ、人人初めて不安の念に駆らる」とあり生々しい。

 私にとって、阪神淡路大震災の時が似たような感じだった。朝、神戸で地震が起きたというニュースはあったものの、現地からの映像が一切なく、何か不吉な、異様な感じがあった。まさに「声なくなりぬ」だった。


 初句の「国こぞり」、字余りでの三句切れ、「亡」の字、「大東京」の「大」、すべてが結句の「声なくなりぬ」という沈黙へと収斂されて、作者の不安が見事に表されている。

 1923年(大正12年、35歳)作。作者生没年は1889(明22)-1934(昭和9)享年46歳。

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