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私の好きな短歌

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私が好きな短歌を紹介します。主に大正、昭和の歌です。時々現代のものも。
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#植松寿樹

私の好きな短歌、その25

ものみなは陰をかぐろく持つ日なり柩(ひつぎ)の馬車の動きいづるも

 植松寿樹、歌集『庭燎』(『日本の詩歌 第29巻』中央公論社 p131)より。

 「学友須田実の死をいたむ」と詞書がある。「かぐろく」という言葉、深い黒を表していて魅力的だ。ここでは「か」の繰り返しも気持ちいい。ものが陰を持つという表現も、なにか影の意思を感じるようで幻想的である。三句で切ることによって時間がいったん止まり、軋み

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私の好きな短歌、その24

私の好きな短歌、その24

蒲公英(たんぽぽ)のたけて飛ぶ日となりにけり夢殿のべの蜜蜂(みつばち)のこゑ

 植松寿樹、歌集『庭燎』(『日本の詩歌 第29巻』中央公論社 p131)より。

 法隆寺の夢殿の実景。実景だからこそ作れた歌だと思う。実景でなければ、飛ぶ蒲公英の種と夢殿と蜜蜂という取り合わせは、理想的過ぎて作り物めいている。が、実景として一首を味わえば、それこそ夢の中にいるような陶然とした心地になる。旅に来て、名所

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