見出し画像

想像ふくらむ美術館の旅

熱中症警戒アラートがやけに耳につくようになった今日この頃。2か月ぶりに、山梨県立美術館に行ってきました。
先に言っておきますが、私がこれから紹介するものは展示物ではありません。しかし、全て美術館にあるものです。

前回訪れたときとテーマが変わっているということで、わくわくしながら足を踏み入れました。

美術館の旅を初めて早々、私が最初に出会ったのは、こちら。
縦20センチ、横30センチくらいの鍵付きの小さな扉です。

これを見た瞬間、私は確信しました。

絶対、中に小人がいる!

ここはきっと、小人の住処です。
中で何をしているのでしょうか。
みんなでパーティをしているか、映画鑑賞をしているか、お昼寝をしているかのどれかだと思います。勘ですが。
扉を開いた瞬間に小人の部屋の中の明るい光がもれて、小人たちが一斉にこちらを見ます。
それにちょっと気まずくなって「あっ失礼しました」とすぐに扉を閉めるところまで容易に想像できますね。
仲良くなるために、次回からは小人たちへの手土産を持って行った方が良いかもしれません。そしたら小人たちも怖がらずに、「狭い家ですが…」と招き入れてくれるはずです。
ちょっと私には狭すぎますが。

小人の扉の近くに、こんなものがありました。
高い位置にあるものを背伸びしながら撮ったので少しぶれてしまいましたが、部屋の電気みたいに、明かりを消すための紐?取っ手?がついています。

夜。美術館の電気が全部消えて、作品も一息ついているころ。
小人たちが部屋からのそのそと出てきてこの明かりを消すのでしょうか。
そんな小さい体でどうやって?と聞きたくなってしまいますが、秘密が多いところも小人の魅力のひとつですよね。
敢えて、聞かないことにしました。

小人たちに電気を消してもらってようやく、非常口マークも眠ることができます。
このマークが眠るときは、どんなピクトグラムになるのでしょうか。ちょっと見てみたい。

今回展示されていた作品の中には、床に置かれているものがいくつかありました。
壁に、床に、上下に忙しなく目を動かしていたら、カニがいました

カニです。しかも4種類。
ふつうのカニ、よく見ると黒い線がついているカニ、木の枠ぎりぎりのカニ、なぜかテープがついているカニ。
一見同じように見えるカニでも、傷や質感が全然違うし、おしゃれをしている子だっています。
カニすらも個性豊かな時代…恐ろしいです。

テープを貼っている子は、怪我をしてしまったのか、それともおしゃれで絆創膏を付けている小中学生のようなものなのか。
絆創膏がおしゃれだと思っていた時代。誰だってありますよね。

おもしろいものがあるのは、床だけではありませんでした。
これは、天井の写真です。

壁一面に広がる巨大な作品の傍らの天井に、赤っぽくて小さい何かがいました。
どうやらもとは銀色なのだけれど、作品に影響されていつの間にか赤くなってしまったらしいです。
この子は、自分も作品の一部なのだと誇りをもって作品の側にいるのでしょうか。それとも、自分の仕事はしっかりとこなしつつ、作品を見る人の邪魔にならないようにできるだけ目立たないようにひっそりとそこにいるのでしょうか。
本人と話して確認してみたいところなのですが、どうにも位置が高すぎて、コミュニケーションをとれたものではありませんでした。

彼、または彼女の銀と赤のグラデーションが、作品と天井の境目をぼやかしてくれているように感じます。
やはり、この子は誇りを持っています。

ふと、視界の端に人影が映りました。
誰だ…?と思い振り返ると、それは自分の影でした。
それだけなら別になんてことないのですが、この影はなんと、3つに分裂しています。

3つ?3個?3人?
何と表現したらよいのかわかりませんが、自分の影を3つ同時に見るなんてこと、なかなかないですよね。
なんだか不思議な気分です。
三つ子のような…三姉妹のような…はたまたドッペルゲンガーに出会ってしまったような…。

影を意識して見ていたら、影が3つになるところと2つになるところ、そしてそもそも分裂しないところがありました。
私調べですが、3つになるところはかなりレアです。激レアです。
影の存在に気づいてから影が3つになる瞬間を探して歩いていましたが、なかなかありませんでした。
大人になってから自分の影を追いかけることなんて、ほとんどないですよね。
でも、美術館という特別な場所の証明だからこそできる、大人の影遊びがここにはありました。

美術館の魅力は、展示品だけではないと私は思います。
主役として演出されている作品たちの陰にそっと隠れている、壁や、床や、備品の数々。
この子たちだって、普段は見られていないだけで、実は魅力に溢れています。
美術館ですからもちろん作品をメインに楽しみますが、その傍らでひょっこりとこちらを覗く存在に気付けたら、美術館はもっと楽しく、想像豊かな場所になると思います。

文・写真:河野有希(山梨県立大学国際政策学部2年)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?